#30 弾〜barrette〜
荷物を取りにいった俺と春香は教室に居た月乃と話していた。
だがその時に魔晶獣のうちの一体が襲撃してきた。
さらにその魔晶獣は“偽名”スプリングを呼び寄せ俺たちはここから離脱するために氷の壁で足止めをし、校長室へと向かっていた。
「でもなんであの怪物が私たちを狙うんだろう」
月乃が校長室に向かう途中にそんなことを聞いてくる。
「それは…」
月乃の質問にどう答えればいいか戸惑ってしまう。
簡単に春香のことを説明できないし、う〜ん。
「あれじゃないか?強い力を持つ奴を狙ってる的な」
「なるほどね」
沈黙が続くが、それでも前にきちんと進み続ける。
「っと、校長室が見えてきたな」
階段を下ることができた以上あとは一直線に走るだけだ。
「ラストスパート、行くぞ!」
「「了解!」」
ただひたすらに真っ直ぐ走る。
そろそろあの氷が砕かれてもおかしくないころだ。
気を引き締めないと。
「よし、あと少しでドアだ!」
俺らの気が一瞬緩んだ瞬間――
「――まぁ、行かせるわけないけどね」
突如として弾丸の雨が降る。
何も身を隠すものがないせいでもろに喰らってしまう。
「いってぇ…再生があるとはいえだいぶ痛いな。」
なんとか俺が盾になることで後ろ2人への被害は軽く済んだ。
「あとちょっとのところで!」
「あの氷の壁中々固かったけど窓を覆うのを忘れるなんてことをするとはね」
えっマジで?前の扉塞いだから安心してたわ。
これ俺戦犯やんけ。
「未来?」
「前の扉塞いだから安心してたみたいだ…すまん」
めっちゃ春香が睨んでくる…ごめんて。
「さて、“偽失”」
「貴方をこっち側に戻させてもらうわよ」
「貴方達私の命を狙ってるわけじゃないの?」
「えぇ」
「生死は問わないから連れてこいって言われてるだけよ」
「なるほどね、あの人もそういう命令するんだ」
春香がそうつぶやく…あの人ってDSSの幹部か何かか?
「無駄話もここまでよ」
「貴方を連れて帰らせてもらう!」
「牙の弾丸!」
教室で見た弾よりも鋭い弾が襲ってくる。
「幻象魔法“グレイシアウォール”!」
氷で壁を作り出す…が“ファング”の名の通り鋭い弾丸は氷の壁を一瞬で貫通し俺らを襲う。
「未来!なんとかならないの!」
「無茶言うな!」
こいつらが耐えてくれるなら1発かますぐらいならいける…が耐えられるか?
今は氷の壁と俺を盾にしてるから2人にはそんなにダメージはない。
「…春香先輩!」
「――わかったわ!」
どうやら2人のうちで何かが決まったらしい。
「未来!今から私と春香先輩でどうにか耐えるから貴方はあいつを倒して!」
「いやでもそんなことしたら2人は!」
「それ以外に方法はないでしょ!」
確かに月乃の言う通り他に方法はないが…いや、やるしかないな。
「わかった!」
「幻象魔法“強化”!」
全身の魔力を筋肉に回し身体能力を向上させる。
「じゃあ、解くぞ!」
そしてグレイシアウォールを解除し、攻撃に転じる。
「壁を解除するなんて!」
「死ににきたの!」
そしてショットガンをこちらに向け
「紅の弾丸!」
真紅に染まった弾丸は通常の弾丸よりも3倍早く進んでくる。
しかし強化魔法と再生を使っている俺にそんな程度の弾丸は意味がない。
喰らいながらも正面突破をして――
「擬似・冥王!」
「かぁらぁのぉ!」
「冥府真紅撃!」
壁を使い四方八方に飛び回りつつ打撃を浴びせる。
スプリングから見て正面、右、背後、左、背後、正面、左、右、背後の順で打撃を与えていく。
強化魔法で移動速度も上がっているため簡単には俺を捉えることができず、防御態勢も整えられず全ての攻撃がもろに当たる。
「こんのぉぉぉぉ!」
「牙の弾丸・乱!」
ショットガンをミニガンに変更した状態で牙の弾丸を放つスプリング。
狙いもつけずにばら撒くせいで少し動き辛くなってしまった。
「貴方たちは私に負ければいいの!」
これを喰らいながら進むのは無理だ!
どうする…どうすれば!
「行きますよ!春香先輩!」
「OK!月乃ちゃん!」
「撃滅――」
「裏切りの――」
「閃光!」
「拳撃!」
月乃の撃滅閃光が牙の弾丸を消滅させながらスプリングに向かっていく。
勿論スプリングは回避するがその回避した先に――
「私がいるんだよね!」
「しまっ――」
春香の裏切りの拳撃が思い切りスプリングの鳩尾に決まる。
その勢いで後方へと吹き飛んでいく。
「はっ…火力高すぎだろ」
「ま、これしか能がないんでね」
春香はそう答える。
「月乃も、すごいなお前」
「それほどでもないけど…」
「月乃ちゃん、ありがとうね」
「いえいえ、突破しないと先はないので」
うん、なんかいいな。
2人は仲が良さそうでよかった。
「んじゃ戻ってくる前に校長室に行くか」
♦︎
「んで、淡沢さんも連れて来ちゃったと」
「ごめんて」
俺は九十九に先ほどあったことを説明した。
怒られる覚悟だったけど案外許してくれそう?
「まぁあいつらに襲われたならしょうがないか」
「淡沢さん、巻き込んでしまってごめんなさいね」
「い、いえ別に残ってた私が悪いので…」
「まぁ、そのおかげで助かったんだけどな」
「そうね、とりあえず今日は泊まって行きなさい」
「親御さんには私から連絡するから」
「ありがとうございます」
お辞儀をする月乃。
俺と違って礼儀正しいな。
「しっかし、あいつらの狙いがわからんな」
「この前見た時みたいに空間を繋げられるなら直にここに転移してくればいいものを…」
そうやって俺がつぶやくと
「転移に条件があるのかも」
月乃が続ける。
「能力ってそこまで万能にできてなくて、必ず欠点はあるの」
「例えば春香先輩の能力の剛腕みたいにシンプルだとデメリットはないけれど」
「加子みたいに能力が強ければ必ずデメリットがあると」
「そういうこと…って未来は加子のこと知ってるの?」
「まぁ、教えてもらったからな」
「んで話を戻すけど」
「あの子の能力は進化すること」
「だけど同時に複数個獲得した能力を使うのは長時間は無理だし体と脳への負担があるの」
「体は人間に戻れなくなる可能性があった」
「恐らく魔神と呼ばれた美空大地にもデメリットはあったはず」
デメリット…デメリットかぁ。
確か人間じゃなくなったり連続で再生しすぎると再生が追いつかなくなったり吸収できる攻撃にも限界があるのと特異点相手だと未来予知が効かないくらいか?
…案外俺の能力もデメリット多いな。
「そしてあの人たちが使ってる単位はおそらく」
「他の“偽名”持ちがその場にいるか魔晶獣がいること」
「その通りです!春香先輩!」
「だからここにいれば襲撃には遭いづらいってことか」
「よかった」
あと来たとしても俺らで守ればいいからな。
「みんな〜そろそろ夜ご飯ができるから食べよ〜」
そう言って顔をひょっこり出したのはハデスだった。
「あっハデス!」
「未来…今なんて?」
「ハデスって言っただけだぞ?」
なんかおかしなこと言ったかなぁ…
「あれって貴方があの斧を介して力を借りてたハデスよね?」
「あぁ」
「嘘でしょ…」
なんか春香も月乃も困惑してる…なんで?
「普通は電子生命体にボディなんてないし彼女達はハデスが女の子って知らないからね」
「そりゃこうなるわよ」
「そっかぁ」
「ご飯冷めるから行くぞ2人とも」
「えっあっうん」
「やっぱり未来って規格外ですね、先輩」
「えぇ」
♦︎
「さぁて、寝るか」
あのあと晩飯と風呂を済ませて眠りにつく時間になった。
というか明日は休みか。
どうせなら出かけてみようかな。
そんなことを考えながら眠りにつくのだった…
♦︎
「…だいぶやられたわね、スプリング」
「だいたい貴方達が“偽失”を始末できてればこうはならなかったんだけど?ウェーブ、エクスプロード」
「いやいや!あの鎧は反則でしょ!」
「あそこで挑んでも勝ち目はなかった…だから撤退したのよ」
「まぁ、“偽失”が九十九紫苑のところにいるのがわかったからいいでしょう」
「でもどうやって連れ戻すの?」
「あそこの警備は異常」
「学校で襲えば…といいたいけど如月未来が邪魔するでしょうね」
「幸い、明日は休日だし出かけたところを襲えばいいわ」
「「了解」」




