#27 髑〜skull〜
私――淡沢月乃は驚愕していた。
まず、何が起きたのかを整理しよう。
クラスメイトの如月未来が手紙を受け取ったって言うから相手が誰か気になり同じくクラスメイトの霧雲紗綾ちゃんと空野芽衣ちゃんと一緒に後をつけて、屋上の扉の隙間から見ていた。
そしたら空から黒い服とバイザーをつけた黒髪ロングの少女が降りてきた。
そして相手の子――鹿島春香さんに対して攻撃をしようとしたのを未来が見たことのない装備を纏い防いだ。
「なぁ、なんかあの装備あれに見えないか?」
「それ私も思った」
紗綾ちゃんと芽衣ちゃんがお互いに何かで納得していた。
「何に見えるの?」
「ほら、教科書に載ってる魔神そっくりだろ?」
「た、確かに」
逆光なのもあってかシルエットだけ見れば完全に魔神そのものだ。
ただ装着するのが見えたから本物というわけではないのは確かだけど。
「髑髏って名乗ってたわね」
「そうだな」
髑髏…どこかで聞いたことがあったような気がする。
どこだっけ?
「で、どうする?」
「どうするって見守るしかないだろ」
「でも相手強そうよ?」
「ここで出ていったら私たちが覗き見してたのがバレるかもだし」
「私、未来が何するか気になる」
「月乃?」
「見たくない?あの鎧が何をするのか」
「「見たい」」
「じゃあ決まりだね」
そうして私たち3人は見守ることを決めた。
♦︎
俺――美空大地は昂っていた。
何故なら今はもう無い(いつか治りはするが)魔神の力をもう一度振るうことができるからだ。
「何が後悔させる、よ!」
「あんたは何もできないくせに!」
「幻象魔法・ハイドロスパイラル!」
ウェーブは両腕を前に突き出し水の渦をこちらに向かって放ってくる。
だがその渦は美波以下の火力しかないように見えた。
つまり
「こいつが通じるってわけだ!」
「フリーザー・ビーム!」
こめかみの辺りから2本の冷凍光線を放ちそれを正面で融合させ1本の光線にして渦にぶつける。
「そんなもので止まるわけがないでしょ!」
「それはどうかな?」
段々と渦が紺青色から水色に近づいていく。
「ば、馬鹿な!」
「なんでこの技が凍って?!」
そして完全に凍りつき、停止する。
「アーム・カッター!」
腕に装備されている鋼鉄の刃で目の前の氷を切断する。
「っし!次はこっちの番だ!」
「フィンガー・ミサイル!」
今度は指先から小型ミサイルを放つ。
…人間の指サイズから放てるミサイルってなんだ?
細かいことは考えないようにしよう。
どんなに小さくてもミサイルはミサイル。
「ぐっ…がぁぁぁ!」
当たれば爆発するため、案外馬鹿にならないダメージのようだ。
「小癪なぁ!」
「全て流し去れ!」
「偽りの逆流!」
こいつは凍らせるより先に俺達に当たるな。
「スカルウィング!」
真紅の翼を広げる。
「この手を離すなよ!」
「えっ?!ちょっと!」
春香の腕を掴み波が押し寄せてくるよりも先に空中へ移動し、ウェーブの攻撃を回避する。
「っぶねぇ」
波が完全に消えた後、春香を地面に下ろす。
「お前はここにいろよ?」
「下手に逃げられると逆にカバーしきれん」
「わ、わかったわ」
春香に説明をしてからウェーブに向き直る。
「貴方なんなのよ!本当にいっつも邪魔して!」
「消えなさいよぉぉぉ!」
激昂したウェーブがエネルギー収束を始める。
「させるか!」
「ビーム・アイ!」
目から金色の光線を放ち収束を阻害する。
「ちぃっ!」
「だったらこっちならどう?!」
「逆流する切断」
空中に複数の渦を作り出し、こちらに向かって放ってくる。
「なんの!」
スカルウィングを使い空中へ避難するとなんと渦は俺を追尾してきた。
「フィンガー・ミサイル!」
どうにかして渦を止めたいがフィンガーミサイル程度では止まらず依然こちらへ向かってくる。
「こいつでどうだ!」
「スカル・ハリケーン!」
口の部分から竜巻を放つ。
その竜巻と渦はぶつかり合い、その余波で色々なものが外れたり軋んだりしている。
「はぁぁぁぁぁ!」
俺の竜巻は渦を完全に消し飛ばし、ウェーブへと向かっていく。
「やばい!」
回避しようと空中に上がった瞬間、俺の竜巻の風に捕まりどんどん竜巻の内側へと引き込まれていく。
「た…すけ…」
中ではおそらく縦横無尽に吹く風によって体が引っ張られているだろう。
「がっ…はぁっ!はぁっ!」
なんとか竜巻から逃げ出したようだ。
「フン!中々やるな」
「あんたも…ね」
「次で終いにしようか」
「望むところよ!」
俺は胸を内側に引き両腕も内側に曲げる。
それと同時にウェーブは両腕を上に振りかぶる。
「あの構え…まさかウェーブ!」
「未来!避けて!」
「貴方でもあれは耐えられないわ!」
俺に向かって避けるように叫ぶ春香。
その顔は涙がでているように見える。
「なぁに、任せておけって」
そして俺のチャージが終わると同時におそらくウェーブのチャージも終わっている。
「行くぞ!」
「かかってきなさい!」
そして――――
「フレイム・ブラスター!」
胸を張り、両腕を広げ胸部に形成された発射口から超高温の熱線を放つ。
その勢いで思わず後ろへと押し出される。
「災いを呼ぶ波!」
収束された波は1つの巨大な水流となり俺に襲いかかる。
ぶつかり合ったお互いの攻撃はどちらが優勢でもなく、まるで鍔迫り合いのようになっている。
「まさか水流と熱線でこういうことが起きるとはな!」
「それはこっちのセリフなんだけど?!」
しかし最初は鍔迫り合いのようになっていたが段々と水流の勢いが増していく。
段々と押され始め、更に後ろに押し出される。
「こん…のぉぉぉぉ!」
全力で踏ん張り、水流を押し返そうとする。
しかし機械であるため昔のようにはいかずどんどん屋上の端へと追い込まれていく。
「後悔するのは貴方みたいね!」
「このまま激流に飲まれなさい!」
こんなのに…負ける髑髏なわけねぇ!
「俺の力は、こんなものじゃ無いぞぉぉぉぉぉ!」
そう叫んだ時、何故か身体の芯が熱くなった感覚がする。
そして、フレイム・ブラスターの威力がどんどん増していく。
「?!」
「馬鹿な…そんな馬鹿な!」
どうやら急激に増した威力に対して驚愕しているようだ。
「なんで…あんたが生きてるのよ!」
「あんたはあの方に――」
「あの方ぁ?」
「知らんな!そいつが誰かわからねぇからな!」
俺の熱線が、激流を蒸発させ始める。
「やっぱり、後悔するのはウェーブ!」
「お前だったみたいだな!」
そして完全に激流を蒸発させた熱線がウェーブの体を貫く。
「は…はは」
「予想…以上じゃ…ない」
今にも死にそうな声で俺にそう告げるウェーブ。
「おい美波!救護兵装って積んでねぇのか?!」
《積んでるわけないでしょ!あんたが持ってなかったんだから!》
《というかまさかこの子を助ける気!》
「流石に殺すのやばいだろうが!」
どうする…?俺は魔法は使えないし、春香も完全にさっきの衝撃で怯えてるし…どうする…どうする?
「まったく…世話のかかる子」
空中から声がする。
女性か?
「誰だ!」
声の主を視認する。
しかし、夕方なのもあり逆光で大まかな身体の輪郭しかわからない。
「エ…クス…プロー…ド」
「ウェーブちゃんは回収させてもらうね」
《未来!止めて!》
「いや、今回は見逃してやる」
《どうして!今止めれば奴らに貴方の存在を隠すと同時にUnknownの手掛かりが!》
「それと人の命は変えられない」
「俺の全力の飛行よりもこいつらが使うワープの方が確実にウェーブを助けられる」
《魔神が…変わったわね》
「もう人殺しなんてのは御免なんでな」
「そういうことだ!さっさと逃げな!」
「…借りにしといてあげるわ」
「返しに来なくてもいいがな!」
空中にワープゲートを作りウェーブを連れてワープゲート中に入っていくエクスプロード。
「それじゃあ、またいつか」
そう言って完全にこの屋上から消え去るエクスプロードとウェーブ。
「…っはぁ!」
「疲れたぁ」
ドテっと地面に座り込む。
「アーマーオフ」
擬似神・髑髏を解除する。
「いや〜慣れてないものは土壇場で使うものじゃないな」
「はぁ…そんなに怖かったのかよ」
「し、しょうがないでしょ」
「あんな圧倒的な力、怖いと思わない方がおかしいわ」
「それじゃあとりあえず九十九のところ行くぞ」
「わ、わかった」
怯えながらもきちんと着いて来てはくれるんだな。
そして俺たちは九十九のいる学長室へと向かうことにした。
♦︎
「すごいもの…見ちゃったね」
「あの圧倒的な力、まるで魔神みたいだったな」
私――淡沢月乃と友達の紗綾ちゃんと芽衣ちゃんは謎の少女と戦う未来を見てしまった。
いや、私たちが望んで見たものだから見てしまったはおかしいか。
「これから普通に接せられるか不安になって来た」
「月乃ちゃんも?私も」
「芽衣ちゃんも?」
「私もだ」
「紗綾ちゃんも…やっぱり圧倒的な力って見るとその力の持ち主を見る目変わっちゃうよね」
「でもきっとそんなこと未来は望んでない…というか私たちにバレてるとは思ってないから気にしないようにしよう」
「「うん」」
♦︎
「全く、大変なことになって来たわね」
「それはこっちのセリフだよ」
俺――美空大地は学長の九十九に先程あった事を報告していた。
正直自分でも何が起きてるのかわかってないけど報告するしかないので報告したがやっぱり意味不明すぎる。
手紙をもらってその呼び出された場所に行ったらUnknownに襲われた挙句それを見逃す…わけがわからないな。
「でも…未来がねぇ?」
「エクスプロードを逃したのがおかしいか?」
「いんや?やってることは正しいわ」
「まぁ意外だったけど」
「俺は戦闘狂じゃないっての」
「あら?違ったの?」
「…さっさと本題に入るぞ」
「春香と春香の友人を助ける、いいな?」
「いいけど…一つ条件があるわ」
「なんだ?」
「未来、貴方は戦わないこと」
「んな?!」
思わず叫んでしまう。
戦うなだと?どういうことだ?
「なんでだよ!」
「そんなの貴方はまだ学生だからよ」
「春香さん」
「は、はい!」
緊張してるのか声がうわずっている。
春香でもやっぱり九十九は怖いのか。
「とりあえず貴方のことは私たちが守るわ」
「だけど何も貴方のことを知らない以上、信用はできない」
「だから知ってる情報を話してもらえる?」
そう九十九は春香に尋ねる。
九十九のいうことは正しい。
素性のわからない人を助けるほどウチの組織はお人よしじゃない。
見月親子だってたまたま知り合いで何が起きてるのかを知っていたから保護したんだし。
「わかったわ」
「私がなんであの子達に追われているのか、何を知っているのか」
「全部教えるわ」
「じゃあ、私の能力でいつものビルに行くわよ」
「了解」
そして、普段俺が寝泊まりしているビルへと九十九の空間を操る能力で擬似的なゲートを作り、移動するのだった…




