#23 日~one day~
「――っ疲れたぁ!」
雷豪と戦った後、そのまま実技の授業に突入して最初は的や仮想敵と戦ったが途中からは対人戦になり案の定俺はたくさん勝負を仕掛けられた。
「もうへとへとなんだけど」
「全く、まだ2時間目よ?」
同じように沢山相手をさせられていたはずの月乃はピンピンした様子。
「なんでそんなに元気なんだよ…」
「まぁ疲れないように立ち回ってるからね」
「貴方は強化魔法でゴリ押す立ち回りのせいで疲れてるのよ」
「というか自然治癒なのに疲労は治らないのね」
「流石にな」
本来なら疲労も回復して何時間も1人で戦い続けられるけど多分今は他の能力の回復に使われてるから疲労回復に回せないんだな。
まぁ少しだけ疲労回復に回すか。
「未来、今度は私とやるよ」
「紗綾…ちょっとだけ待ってくれ、流石に疲れたんだって」
「や る よ ?」
「わかったよ…」
とんでもない圧を感じたので仕方なく相手をする。
――結果は言わずもがな、ボロ負けである。
そもそも初戦の武器や摩耶と融合した状態だった時ですら勝ててないのに再生が治っただけで強化魔法しか武器がない俺が勝てるわけないんだよな。
♦
「まったく、再生して無理やり向かってきたまではよかったのに」
「なんで負けるかね」
「ったく、お前がバ火力で俺の再生を上回るからだろうが!」
うん、本当にこいつの火力はおかしい。
確かに魔神としての力を最大にしているわけではないとはいえなんで上回るんだよ。
さっきは勝てるわけないとか思ったけど魔力切れまで耐久すれば俺に分があったかもしれないのにそれを許さない火力とかおかしいよな。
「とは言っても、負けてもいい戦いっていいな」
今まで負けたら人類側が負けたり、滅んだり。
大事な人が死んだり、助けられる人が助からない戦いばっかりだったから負けてもいいってのは気楽でいいな。
「負けてもいいって…普通はだめなんだけどね?」
「おっ芽衣」
「私ともやるわよ」
「もう時間ないっての…もうそろそろ2時間目も終わるから」
「ちぇ~」
♦
「あと4時間も授業あるのってマジ?」
「まぁまぁ、残りは全部座学なんだから」
昔、九十九に拾われたときに高校生レベルまでの勉強は叩き込まれたけど、正直ほとんど覚えてないぞ。
だって使わなかったし。
「物理の授業始めるよ~」
そう言いながら歩いてきたのは彩音だった...って彩音?!
「さて、今回は電気の範囲よ」
「前回はクーロン力について...」
やっば...なんもわからん...挙句の果てにさっきの疲れもあってめっちゃ眠い。
ね、寝落ちする――
♦
「...zzz」
「ね、寝てる?」
私――淡沢月乃は高校で物理の授業を受けていた...のだけれど、隣の席の未来がぐっすりと寝ているのをみて、驚いていた。
未来はてっきり真面目に授業を受けているイメージがあったけれど、こうやって寝ることもあるんだ...びっくり。
「み、未来~起きないとやばいよ~」
先生に気づかれないようにゆすって起こそうとするが、全く起きる気配がない。
「んぅ...ふにゃぁ」
うぐっ...なんかかわいいんだけど。
って、そうじゃなくて早く起きないと!彩音先生って怒ると無茶苦茶怖いんだよね。
「起きて~未来~」
小声でもう一度起こそうとする。
「まさかとは思うが...未来のやつ、寝てるのか?」
「い、いや~」
頑張ってごまかそうとする。
だけどもちろん気づいてるから聞くわけで...
「ゴラァァァァ!みらぁぁぁぁい!なぁに寝てんだぁぁぁぁ!」
始まった...
♦
「うぇぇぇ?!」
思わず飛び起きてしまった。
「な、なに?!」
「何?じゃねぇよ!お前私の授業で寝るとは言い度胸だな!」
「い”っ!寝てた?!」
「寝てたぞ未来!」
「た、助けてくれ月乃!」
「私は二回起こしたし、もう無理よ」
「だいたい怒った彩音先生は怖いんだからね」
「さて...寝てたんだからこの問題ぐらい解けるんだよな?」
「ヒエッ...」
終わった...絶対解けない。
「さて、この問題の(1)、金属級の間に働く力の大きさF(N)と糸が引く力の大きさTをそれぞれm、g、Θを用いて表せ」
「この問題解いてみろ」
なぁにこれ...絶対基礎中の基礎でしょ...わかんないんだけどさぁ!
「ッスー」
「わかんないのか?」
「わかんないのに寝たのか?」
「ハッハイ...」
「お前なぁぁぁぁぁ!」
「ユルシテ...」
結局このこの後10分ほど説教が続いたのち、授業が再開した。
まぁ、寝てたのもあってまったくわかんなかったんだけど。
♦
「はぁ...めっちゃ怒られた...」
「まったく、寝てるあなたが悪いんでしょ?」
「やっぱり芽衣ちゃんもそう思うよね!」
「月乃ちゃんもそう思うんだね」
「もちろん!」
二人が意気投合している…微笑ましいんだが内容が俺の悪口なのがなぁ...
「ひでぇよぉ!」
「「寝るあんたが悪い!」」
二人に言われてしゅんとなってしまう。
何もそこまで言わなくたっていいじゃないか」
「大変そうだな」
「紗綾か」
「ほんっと、怒られてるの面白かったぜ」
「面白かったって、お前が俺に挑んだりしなければだなぁ」
「おいおい、それはお門違いってやつだろ?」
「んなわけあるか!」
やっぱり、こういう日常生活が一番いいんだよな!
「うんうん」
「なんかしみじみしてるんだけど...どうしたの?」
「いやぁ...なんかな」
「たまにあるんだよ、こういう気分の時って」
窓の外に見える青空を見上げながらつぶやく。
やっぱいいな、炎で赤く染まってない、きれいな青空。
人の叫び声やおびえる声の聞こえない街中。
瓦礫もない、家もある。
いいよな、平和って。
「よく思うんだけど、未来って年ごまかしたりしてない?」
「確かに...なんか30年ぐらいごまかしてそう」
なぁんでわかるんだよ。
マジでこいつらって急に察しがよくなるのが怖いんだよな。
「さてさて、次の授業の準備でもしますかね」
平凡な一日はそうやって過ぎ去っていくのだった......
♦
「さて、『偽失』は誰かに相談する様子見せてるかしら?ハングリー」
『偽名・スプリング』はそんなことを『偽名・ハングリー』に聞く。
スプリングは少しだけ焦ってようだった。
「う~ん、そんな感じはないよ」
「ただ、私に気づかれないように相談とかはしてるかもね」
「今はハングリーとは別々に住んでるんだものね」
ハングリーと『偽失』は姉妹だ。
仮に『偽失』が大地のところへ駆け込んだとしたら自動的にハングリーの顔も、ほかの仲間の顔も割れてしまう。
それを避けるためにスプリングはどうにか策を練る。
「『あの子』がもし復活したら『偽失』をこちらにつかせるか始末しないと、『あの子』かこっちの敵に回るのが想像に難くないわね」
「一旦ウェーブに連れてきてもらいましょうか」
『偽名・ウェーブ』、彼女はその名の通り波を操る。波と行っても水の波しか操れないのだが、それでも『偽失』を連れてくるには十分すぎる戦力だ。
「...だね」
「でも見月親子はどうするの?」
「あの親子はもう向こうにかくまわれたせいでうかつに手出しできないわ」
「それにクレッセントだってあの建物に忍び込むのは無理よ」
「本業の人...なのに?」
「えぇ、あそこの警備システムは異常らしいわ」
「まるで何かをすべてから守るようにできてる...とか」
「何かって?」
「さぁ?最終兵器とかじゃないかしら」
「でも、クレッセントの家族ならいけそうだけどね」
「そうねぇ、うちに雇われてる本業の人だものね」
少女たちは密会を続ける...自分たちの夢をかなえるために。
♦
「...やっとできた!」
暗い研究室の中、湊美波はあるものを完成させた。
「これがあれば!」
自分の作り上げた作品を見て歓喜の声を上げる。
まるで長年の夢がかなったかのように。
「早く見せたいなぁ~」
そう呟く美波。
様々な思惑が今、動き出す―――




