#18 鬼〜OGRE〜
「いやぁ…なんか3位決定戦って実感ないな」
「お前が私の対戦相手か」
目の前に立つ少女は俺にそう話しかける。
「あぁ」
「お前への勝ち方はわかったからな」
「はっ!いいことを教えてやろう」
「前までの戦闘で使った斧と糸は使えんよ」
正直に対戦相手の少女に告げる。
「おいおい…正直に言うのか?」
「あぁ」
「おそらくお前は近距離で純粋な力で戦うタイプだろ?」
「なるほど、正々堂々正面でぶつかるってわけか」
「あぁ」
「いいな!その考え!」
《試合開始!》
彩音がそう宣言したと同時に
「幻象魔法・強化!」
全身が淡く赤く発光する。
「まさかお前、強化魔法が使えるのか?」
「めっちゃ練習したからな」
「面白い!」
目の前の少女は思い切り地面を蹴り、こちらへ向かってくる。
「「はぁっ!」」
お互いが同時に拳を繰り出し、ぶつかり合う。
…こいつの拳重すぎないか?!
「ぐっ…ぬぅぉぉぉぉ!」
「再生系の能力にしてはやるな」
厳密には能力ないんだけどね。
ま、そのことは言う必要がないから言わないけど。
「エネルギー集中、右腕部!」
強化魔法のエネルギーを右腕に集めてこの馬鹿力に対応しようとする。
「私の力に勝るだと?!」
「オルァァ!」
殴り飛ばす。
「ぐはっ…」
壁に激突する目の前の少女…そういや名前聞いてないな。
「なぁ、お前の名前なんて言うんだ?」
「私よりあなたが名乗るべきじゃない?」
「毎回放送されてたから知ってるかもしれんが」
「如月未来、ただの高校生だ」
「あとの文いる?」
「いらないかもな」
笑いながら言う。
今まで名前の後に魔神だって言ってたから癖だな。
「さぁ、名乗ったぜ?」
「私は鬼塚凛、鬼神だ」
「へぇ?」
なんか俺と似てるな。
「かかってこい、未来!」
「言われなくても!」
全力で地面を蹴り、凛に向かい、跳ぶ。
「はぁぁ!」
空中から蹴りを繰り出す…が
「ぬぅん!」
左腕で受け止められる。
そして右腕で足を掴まれ
「今度はお前が叩きつけられる番だ!」
壁に叩きつけられる。
「いっ…てぇ!」
バックステップで距離を取る今までの敵と違い、距離を取る必要がないからかそのまま地面に落ちた俺を見下ろす凛。
「おいおい…そんな程度か?」
「あ〜…イライラしてきた」
「怒って何か変わるわけじゃないだろ?」
「擬似・冥府の拳撃!」
ハデスの力を借りた時に限りなく近い力を右腕に込めて、思い切り振るう。
「しまっ――」
メキメキと音を立てながら俺の拳が凛の腹にめり込んでいく。
「がっ…」
思わず吐きそうになる凛。
「はぁっ!」
そんなのお構いなしに殴り飛ばす。
再度壁まで吹き飛ぶ凛。
ただ先ほどとは違いダメージが桁違いなのか中々立ち上がらない。
「おいおい…さっきの言葉そのまま返すぜ?」
「そんな程度か?鬼神とやら」
「ゲホッゲホッ…うるさい…な!」
「おっ、流石にまだ立ち上がるよな」
「鬼神乱撃!」
俺に急接近し、連撃を浴びせようとするが、強化魔法で反応速度も強化し、避け続ける。
ただ脳に関係する強化だから長時間やるとフィードバックが起きてしまうため、早くに決着をつけなくちゃいけない。
「ちょっ…数が多すぎるって!」
反撃する暇もないほど連撃が叩き込まれる。
それに鬼神の名の通り1発1発の力が大きく、もし掠りでもすれば大きな損傷を受けるのは免れない。
「あれほど煽っておいてその程度?」
「んだと!」
1発だけなら行ける…はず!
「|擬似・冥府の拳撃!」
「このぉ!」
ダメージを受けるのを覚悟の上で1発入れ、お互い吹き飛び距離が生まれる。
「あぶねぇ…このままだったらジリ貧で負けるとこだった」
反応速度強化を解除しつつ、相手の位置を確認する。
「…やっぱあれがどれだけ強い力かがよくわかるな」
「へぇ?考える余裕、あるんだ?」
「速くない?!」
サイドステップで凛から繰り出される蹴りを回避する。
「これも能力による筋力の強化かぁ」
「これ春香の能力の上位互換じゃないか?!」
そんなことを叫んでる間に凛は俺との距離を縮めている。
「ちぃっ!」
前方へ向かいつつ高く跳び凛の攻撃を回避する。
「避けてるだけじゃ勝てないぞ!」
そりゃそうなんだけど、こっちの攻撃を通しても火力が段違いなんだよな!
一応もしかしたら勝てるかもしれない技はあるけど、それが効かなかったら負けが確定する…どうする?俺。
「じゃあ、とどめと行こうか!」
「鬼神剛撃!」
凄まじい勢いで拳を――
「――地面に?!」
地面に叩きつける。
叩きつけると同時に地面からエネルギーが吹き出し、俺の真下の地面を壊し始める。
「私のこの攻撃を受け切れるか!未来!」
「っ…やるしかないな!」
壊れ始めた地面から離れ、構える。
「今更構えたって何も変わらないぞ!」
「ふぅ…」
「――擬似・冥王!」
身体中が真紅に輝き始める。
「その力を使う斧はないはずだろ!」
凛が俺に向かって叫ぶ。
「だから言っただろ、『擬似』って!」
「こいつは強化魔法で無理やり再現した擬似的なものだ!」
「オリジナルのハデスの力には劣るが、お前を倒すだけなら十分だ!」
「私を舐めるな!」
「奥義!」
「鬼神剛乱撃!」
どうやら二つの技の合わせ技のようだ。
「俺とどっちの方が強いかな!」
「真紅撃!」
「はぁぁぁぁ!」
強化魔法で脚力を強化し高速移動と殴打を連続で繰り出す。
もちろん凛も抵抗するが拳を振りかぶるのを見てから回避をすることができる速度で移動しているため、向こうの攻撃は届かない。
「こんの…何が!」
「何が自然治癒能力しかないだよぉぉぉ!」
そう断末魔をあげ、倒れる凛。
「ふぅ…ま、3位ならいい方じゃねぇか?」
♦︎
「あ〜疲れた」
「見てたけどよくあれだけの時間強化魔法維持したわね」
九十九が質問してくる。
「だってあれだけ使ったら体への負担すごいでしょ?」
「いやぁ、それがさ」
「なんか全く負担を感じなかったんだ」
「感じなかった?」
「あぁ、正直自分が1番驚いてる」
「多分目の前のことに集中しすぎて感じなかっただけだと思う」
「というかまさかハデスの力を無理やり再現するとはねぇ」
「しょうがないだろあれしか思いつかなかったんだから」
「あれハデスちゃんどんな気持ちで見てたと思う?」
「…すまん」
九十九に謝る。
しかし九十九はこう続けた。
「いや、それがさ」
「喜んでたのよ」
「…は?」
「私は強化魔法でも再現されるぐらい大事にされてるんだって」
「俺はてっきり私いらないのかなって言ってると思ったぞ」
「私もよ」
「まさかねぇ」
「…ってちょっと待て、なんでお前話せてるんだ?」
「そりゃ仮のボディ作ったからよ」
「は?!」
「聞いてないが?!」
「だって言ってないもの」
「おいぃぃぃ!」
「どんなボディ作ったんだ?」
「おいで〜ハデスちゃ〜ん!」
九十九がハデスを呼ぶとそこには
「…かっ」
蒼いロングの髪で、紺色のセーラー服を着た美少女が立っていた。
なんだこれ?!
可愛すぎるが?!
なんかめっちゃ美少女じゃん!こんな知り合い俺にはいないぞ!
やばばばば…
「ど、どう?大地」
「…大地?」
「こりゃあなたが可愛すぎてフリーズしてるわね」
「ほんと?」
「っはぁ!」
「うわぁびっくりした!」
「脅かさないでよ」
「すまんすまん、帰って来れなくなるとこだったからつい」
「帰って来れなくなるって…そんなに?」
「お前可愛すぎるだろ…というかこのボディなんだ?」
「あぁ、そういえば教えてなかったわね」
「この子の理想とする体を聞いてその要望通りに頑張って作ったのよ」
「それも機械の体じゃなく生身の体をね?」
「おいいいいい!」
「それ斧にしまうの申し訳ないだろうが!」
「別にいいよ?私は元々そっちが本体みたいなもんだし」
「せっかく人間の体手に入れたんだ、力加減覚えたら自由に過ごせ」
「未来…?」
「正直言って俺が作ったとはいえ申し訳なかったんだよあんなもんの中に入れといてさ」
「困ったらすぐ飛んでいくからね」
「別にいいってのに」
やっと自由なんだからさぁ…遠慮しないで欲しいなぁ。
「摩耶が復活したら融合すればその姿のままでも使えるからね、ハデス」
「よっし、楽しみだね」
「楽しみ…かぁ?」
そうしてまた1日が終わって行くのだった…




