#13 幻〜nightmare〜
「…地」
「大地!」
「うぇっ?!」
「もう…寝るなんてどれだけ疲れてたのよ」
「九十九…?」
「俺学校にいたはずじゃ…」
「まだ寝ぼけてる?」
「もうそろそろ拠点に着くから、起きなさいよ」
「え…拠点って」
なんだ?俺は学校にいたはず…何が起きたんだ?
それにこの景色、魔族との戦争の景色だし…
「ほら、着いたわよ」
「あ、あぁ」
困惑しつつ、俺は車を降りる。
一体どうなってるんだ?
「兄さん!」
「結菜!」
「無事でよかった!」
「凄かったわよ」
「ほとんどの魔族を1人で蹴散らしたんだもの」
「私たちは見てるだけだったわ」
時代の特定ができないな…そんなのいつもあったからな」
「初陣だっていうのに無双するとは思わなかったわ」
初陣ってことは…俺が敵にも魔神って言われるようになった日か。
でも無双しただけじゃなかったような気がするんだよな。
「さて、それじゃあ中に入りましょうか」
そう九十九が告げた次の瞬間
「――え?」
何かが結菜の胸を貫いた。
「誰だ!」
みんなが辺りを見回すとそこには
「初めまして」
「私は雪」
「あの方直属の幹部よ」
槍を持った少女はそう名乗りながら空中から降りてくる。
「それは手始め」
「これから地獄を見せるわ」
「結菜!しっかりしろ!」
抱き起こし、必死に呼びかける。
そういえば…そうだった。
俺が魔神って言われた原因は
――結菜を失ったことによる、怒りからの能力の暴走、だったな。
「兄…さん」
「生…き残…」
言葉を最後まで告げることなく、力が抜け、倒れる結菜。
「おい…地獄とか言ったな」
「えぇ」
「それを見るのはお前らだ」
「だ、大地?」
「クラッシュ・レイ!」
目から一本のビームを放つ…が
「そんなのに当たるわけ――」
「スプレッド!」
そう雪があった瞬間、一本のビームが何十本にも分かれ、雪の避けた先にも分かれ、当たる。
「そんなの…ずるじゃない」
「アームカッター」
腕に身長の3倍はあるであろう刃を形成し、雪に向かって思い切り振り下ろす。
「あっ…ぶないわね!」
「槍で防ぐか」
「だが、それもいつまでもつかな?」
「…保たなくてもいいのよ」
「何?」
そう俺が疑問を抱いた瞬間。
ザシュッと何かを貫いた音がする。
恐る恐る後ろを振り返るとそこには
「九十九…?有芽…?理紗…?」
みんなの腹には、槍が突き刺さっていた。
おかしい…これは当時なかったはず…どういうことだ?
あの夢幻の影が変えたってことか?
「あはははははは!」
「お仲間、み〜んな死んじゃったわね!」
どうして…どうしてこいつらまで!
あぁ…イライラしてきた!
「もう止められないぞ」
「え?何て?」
「夢幻の影!今そっちに行って、ぶっ倒してやる!」
「ファントムシャドウ?何言って」
「こういう精神攻撃は、こうするのが一番!」
夢幻の影め…俺の能力を夢の中とはいえ使えるようにしたことを後悔するがいい!
「因果律!操作!」
次の瞬間、もう一度意識は暗闇に落ちる。
♦︎
「っはぁ!」
『な、何?!』
『何故あの世界から戻ってこれた!』
「お前は俺の過去を夢で再現したよな」
「それがお前の敗因さ」
月乃…は眠ってるな。
『何を訳のわからないことを!』
「わからなくていい」
「ブラストマホーク!」
「よくも…よくも!」
「夢の中とはいえ、俺の仲間を!家族を殺したな!」
「地獄じゃ生ぬるい!」
「お前は次元の狭間に行くのがちょうどいい!」
『ごちゃごちゃと!』
「まずは!」
全力で走り、背中へと回る。
『後ろをとったところで!』
「いいや、お前は詰むぜ」
背中にある結晶を思い切り掴む。
『何をする気だ!』
「引き抜くんだよ!」
「ハデス!全開だ!」
≪オッケー!≫
全身が赤く発光する。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『やめろぉぉぉぉぉぉ!」
メリメリ…とすこしグロテスクな音を立てながら、結晶が段々と抜けていく。
「おらぁぁぁぁぁ!」
思い切り引き抜くと同時に、怪物のような姿から人間の姿に戻る夢幻の影。
「う…う〜ん?」
「おっ月乃、起きたか」
「ど、どうなったの?」
「夢幻の影の核であろう結晶を引き抜いた」
「ただそれだけだ」
「でもあれ、簡単に抜け出せるようには…」
「神と契約してるんだ、それぐらいできらぁ!」
「あと多分そろそろ」
手に握っている結晶が動き出す。
「ま、第二ラウンドあるよな!」
《み、未来!大丈夫?!》
「彩音!多分またぶっ壊しちゃうけど、いいよな?」
《ま、まぁできればサンプルが欲しいけど無理そうなら壊しちゃって!》
「サンプル…ねぇ」
『如月未来ィィィィ!』
「結晶が?!」
「今度は龍じゃなく、蜘蛛とは」
「なんか運命感じちゃうね」
「運命?」
「あぁ、俺と契約してる摩耶は縁結びの神でな」
「やつの姿は蜘蛛なんだ」
「でもこの前は人型だったような気がしますけど…」
「姿形をある程度は変えれるみたいでな」
「本当の姿が蜘蛛ってだけだ」
「紛らわしいですね…」
「すまんすまん」
「さぁ、摩耶」
「いこうか」
≪よしきた!≫
「ハデスも引き続き頼むぞ」
≪任せといて≫
「神帝モード…獣騎士!」
体を糸が覆いつくし、だんだんと巨大な蜘蛛へとなり、その上に俺の上半身が出現する。
「≪さぁ、結んでやろう!≫」
『ダマレェェェ!』
お互いに初手は体当たりから始まる。
「≪この!≫」
前足で蜘蛛の頭を叩きつける。
『グッッ!』
『ガァァァ!』
「おおっと!」
「≪スパイダー!≫」
「≪フレイムブラスター!≫」
蜘蛛の頭から思い切り高熱の光線を放つ!
『フ…フハハハハハハ!』
段々と体が崩壊していく夢幻の影。
「≪何がおかしい?≫」
『イッタダロウ』
『コレカラジゴクヲミセルト』
「≪あれお前の言葉だったのか?!≫」
だとしたら、俺が大地だってあいつらにバレたんじゃ?!
したらまずいぞ…本格的に狙われる!
「≪やっべ!サンプル!≫」
急いで近寄り、まだ崩壊を始めていない部位を急いで切り離し、崩壊から守る。
「融合解除」
人間の形態に戻る。
「あっぶねぇ〜」
「なんとかサンプルが手に入ってよかった」
「あとはこいつを美波のところに持ってくだけだ」
《放送でお前が寝てる間に今日の学校は終わらせておいた》
「…なぁ、質問だが」
「さっき俺に逃げろって言った放送ってみんなに聞かれてるんじゃないのか?」
《いや、その部屋にしか聞こえないようにしてある》
「ならいいんだけどな」
「なんで知られちゃダメなんです?」
「こういうのは知らない方がいいのさ」
「世界は平和、そう思ってみんなに生きて欲しいからな」
「な、なるほど?」
《さて、未来はこれからペイルライダーとの合流をしてくれ》
「ペイルライダー?」
《クアトロライダー級の4番艦だよ》
「なるほどね」
「じゃあな!月乃」
「えぇ!」
♦︎
「ここ、こうなってたんだ…」
スマホに送られてきた校舎の地図の場所に行くとペイルライダーが着いていた。
「なんか変に凹んでるしドアもついてるから不思議に思ってたんだよな」
「サンプル回収したってほんと?!」
「あぁ、ただ結構小さいけどな」
「いや、それでも充分だよ!」
「もしかしたら貴方の助けになるかもしれないし」
「そんなわけないっしょ」
「ほら、帰るわよ」
「あいよ」
目の前に転移ゲートを開き、次元の狭間を航行し、いつものビルに戻る。
「お疲れ様」
九十九が出迎えてくれる。
「…やっぱ、生きてるっていいな」
「?」
あの夢…現実にならないといいけど。
「それよりも美波に迎えに来てもらえて良かったわね」
「ちょうど貴方が目覚めたって報告が来た時間から雨が降り始めて、今すごい強いらしいからね」
「次元の狭間には天候はないからな」
「確かにラッキーだ」
そう言って俺は自室へと向かう。
♦︎
「ま、待ってくれ!」
ある夜、とある男がビルで少女と言い合っている。
「待つ必要がないもの」
「な、何故私が!」
「貴方、よくもまぁ逃げようとしてくれたわね」
「わ、私には家族がいる!もうこんなことは辞める!」
「それを許す組織じゃないことぐらい、わかってるでしょ?」
「貴方にはお世話になったわ」
「トライクリスタルを見つけたのも貴方だもの」
「でも、もうだめね」
「それじゃあ、死んでもらうわ」
「っ!」
男は咄嗟に手を前に出し、少女の放った弾丸を防ぐ。
「しまった!」
少女がたじろいだ隙に走って逃げる男。
「はぁっはぁっ!」
「スプリングだけでよかった!」
「クレッセントと私の相性は悪すぎるからな!」
急いで階段を下る男の前に、人影が現れる。
「――クレッセント?!」
「残念…結構信じてたけど」
「その銃は…」
「完成していたのか?!」
「してないとは言ってない」
「delete…君の能力を使い、対象を証拠もなく確実に消すことが可能な銃…か」
「初めて使うから…実験台になって?」
「はっ…今まで実験をしてきた私が最後は実験台にされる…か」
「悪くない――が!」
横のドアを体当たりで開け、別ルートで逃走しようとする男。
「外すことを信じて!」
窓ガラスを突き破り、地面へと落下していく男にクレッセントと呼ばれた少女は照準を定め
「せめて向こうで安らかに」
delete――そう呼称された銃を放つ。
次の瞬間、男は雨の中、まるでそこには何もなかったかのように、消えてしまった。
「ごめん!クレッセント」
「次からは気をつけて」
「はぁ〜い」
雨の中、少女2人はそのビルから虚空へと消える…




