#10 参〜third battle〜
「うっし、やっと戦えるぜ!」
≪無茶しないようにね≫
「善処するよ」
♦︎
《さぁ、予選も三回戦!》
《準決勝だ!》
《さて、両者準備はできたか?》
「俺はできたぜ」
「…私も」
《じゃあ》
《試合開始!》
「ブラストマホーク・スタッフモード!」
トマホークを魔法の杖にする。
「幻象魔法・アイスランス!」
氷の槍を飛ばす。
「…」
ジャンプとサイドステップで避けられる。
「万象魔法・クエイクカタストロフィー!」
地震を起こす!
「…流石に面倒」
「空中浮遊とか…ありかよ」
「できないとは言ってない」
「そりゃそうだろうよ!」
「幻象魔法・ドラグハリケーン!」
龍のようなエネルギーを月乃に向けて放つ。
「なるほど…追い込むように囲む」
「いい判断」
「でも」
「撃滅閃光・周」
月乃の周りからぐるっと一周、ビームが放たれ俺の魔法が消される。
「だりぃぃぃ!」
≪私は使わないの?≫
まだ摩耶と戦う時じゃないからな。
「そう言えば…魔法、使える」
「いいや、俺は無理さ」
「だから他のやつで補強してるだけさ」
「補強…」
「万象魔法・ブリザードカタストロフィー!」
「滅閃光!」
「ちっ!」
その場から離れ、光線を回避する。
「それ食らったら流石にやばそうだからな」
他の魔法が消されてるのを見ると、絶対俺も消し飛んじまう。
「…逃げられるとでも?」
「トマホーク!」
元の斧の形態に戻す。
「近接?」
「ご名答!」
大きく振りかぶって
「はぁっ!」
ジャンプで高度を合わせ、思い切り薙ぎ払う!
「ちょっと危なかった」
「すんでで回避しやがって!」
着地しつつ、次跳ぶ先を見定める。
「撃滅弾」
複数の光弾をこちらに向けて放ってくるのを、全力で走り避ける。
後ろでドカンドカン爆発音がするが気にしない。
回り込み、今度は上へ切り上げる!
「いっ…」
「やっと当たった!」
着地し、バク転で距離を取りつつ体勢を立て直す月乃。
「アクロバティックだな」
そういいつつ斧をもう一度杖の形態にする。
「「幻(万)象魔法(!)」」
「「メテオ・ストライク(カタストロフィー!)」」
お互いの声が重なり、お互いに隕石をぶつけ合う!
「お前魔法も使えるのかよ!」
「貴方と違ってその才能はある」
「ほんっとクールだねぇ!」
「でも、押し切らせてもらう!」
俺の隕石が段々と月乃の隕石を押し始める。
「そんな?!」
「魔力の絶対量が違うんだよ!」
「ちっ!」
受け身を取り、爆発の衝撃を軽減する月乃。
「よしよし、確実にダメージは与えてきてるな」
だけど、あの時よりも妙に弱いのが気がかりだな。
「この前よりは成長してる」
「おっ褒めてくれるのか?」
「調子に乗るな」
「これならどう」
「私が、私だけが使える魔法」
「そんなものあるわけが」
「幻象魔法――」
次の瞬間
「光弾?!」
光弾で囲まれていた。
「これをどうやって突破する?」
そう尋ねられた時、一斉にこちらに向かって飛んでくる。
「幻象魔法・ストリームブラスト!」
竜巻を前方向に打ち出し、それに乗って囲まれた状態から脱する。
「ばっ…ワンチャン体が消滅してるだろあれ!」
「さぁ?」
「ったくよぉ!」
終始余裕の表情を崩さない月乃。
「今の技のトリックがわかんねぇな」
「クールタイムがあることを祈りながら戦うしかないか」
そうしてもう一度向き直り、斧を構える。
「あきらめないの?」
「あぁ」
「なんで?」
「あの時も…模擬戦の時もあきらめなかった」
「なんで…」
「言っただろ?俺は負けず嫌いなんだ」
「負けず嫌い…」
まぁ、本当はみんなを助けるためには絶対に勝たなきゃってのが染みついてるだけなんだろうけど。
「負けず嫌い…ね」
「おいおい、今のは笑うとこじゃねぇか?」
とおどけて尋ねると
「そんなことない」
「それに今は勝負中」
と、気だるげに返す月乃。
「あいよ!」
斧を後ろに振りかぶり、走り出す。
「多分、お前が一番苦手なのは接近だな!」
「遠距離ならさっきみたいに対応できるっぽいし!」
「もう一度試してみる?」
「もちの…ろん!」
思い切り踏み込み、そのまま月乃までジャンプする!
「はぁっ!」
斧と月乃の張るバリアがぶつかりあう!
「バリアまで持ってんのかよ!」
「一度やられたなら…対策するのが普通」
「そりゃそうだな!」
連続で斧を振り下ろし、意地でも叩き割ろうとする。
「無駄」
「このバリアは絶対に割れない」
「この!」
ガン!ガン!という衝突音だけが悲しくVR空間にこだまする。
「はぁっ!」
「しまっ――」
斧が弾き飛ばされてしまう。
「ぐふぅっ!」
横腹に蹴りを入れられ、壁に激突する。
「また、私の勝利」
顔色一つ変えずに、こちらに歩きながら攻撃を構える月乃。
まるで魔王のような雰囲気を漂わせるその姿には、どこか悲しさを感じる。
たとえるなら、目の前ですべてを失いかけたかのような――
≪大地!≫
もう少し…もう少し引き寄せれば、勝てるかもしれない!
「とどめ」
「少しは成長してると思ったけど」
「残念」
目の前に来て、攻撃が繰り出される瞬間、
「え?」
ニヤッと笑い
「くらえよ!」
背中から触手のような太さの糸を繰り出し、薙ぎ払う!
「しまっ――」
すごい勢いで壁にぶつかっていく。
「あっぶねぇ…」
無数の糸が背中から生え、後ろ姿だけ見れば、それはまるで怪物に見えるであろう見た目をしている。
「さぁて、神の力、超えられるかな?」
「それが…あなたの能力?」
「いいや?」
「俺は能力はないに等しい」
「だがな」
「仲間はいるのさ」
実は摩耶の力は一騎打ちで周りに人がいないような場面でしか使ってこなかった。
だから摩耶と融合できることを知っているのは九十九と姉貴と結菜と彩音の4人だけで、有芽と里紗は知らない。
つまり、この力を使っても俺が大地だとばれることはない。
「それってズルなんじゃないの?」
「残念、彩音に確認は取った」
「まぁ、前例がないらしいがな」
「神との融合なんてさ」
「ま、別に人を辞めたわけじゃないんだが」
「でも!」
「そんな力でも私にはかなわない!」
「やってみようぜ!
「ウェブ・ツール!」
糸をほどき武器を作っていく。
「ウェブ・カノン!」
右腕にレールガンのようなものを編んで作り出す。
「糸で編んで…」
「神弾装填!」
「エレクトロン!」
「くらえぇぇぇ!」
一瞬、火花が散り
荷電粒子砲が放たれる!
その勢いはすさまじく、地面をえぐり、壁を突き破り、俺自身をも後ろに後退させる威力があった。
「化け物め」
「お?普通に会話する気になったか」
「うるさい」
どうやら、完全に勝ちを確信したところを摩耶の糸で度肝を抜かれたのを受けて、クールな月乃でも、相当なフラストレーションがたまってきてるらしい。
その証拠に、口調は荒く、表情も少し歪んでいる。
「俺はお前に勝ちに来た」
「お前に勝って、芽衣と紗彩に挑みたいからな!」
「貴方は私に倒されるべき!」
「さぁ、ここから逆転してやるよ!」
「ウェブ・ウィング!」
背中に魔神時代と同じような翼を生やす。
「いやぁ、資料で見た時から一回はこの翼つけてみたかったんだよね」
「魔神の翼…」
「あ、そうだ、色って付けれるのか?」
≪行けるぞ≫
「よしきた」
そうして翼が真紅に染まる。
「う”う”ん!」
咳ばらいをして、
「我は魔に仇なすもの!」
「我は魔にも神にもなれる者!」
「我は魔神!」
「ってね?」
「本当に別人なの?」
「あぁ、別人さ」
「俺はあの人にあこがれてな」
「あるだろ?段ボールとかで翼造って真似する奴」
「あれをよくしててなぁ」
「気づいたら完コピできるようになってた」
「ま、まぁ確かにあの口上を述べれる人は多いと聞くけど...」
「さ、続きをしようか」
「まだまだ、終わらないだろ?」
「うん…今のあなたに勝ちたい!」
「さぁ」
「「≪地獄を楽しもうじゃないか!≫」」
「って、お前も言えるんかい」
「当り前」
「はぁぁぁぁ!」
翼を使い、空中へと舞い上がる!
「滅閃光!」
「当たらねぇ!」
光線の上や下を潜り抜け、向かっていく!
「撃滅弾!」
光線に加えて、光弾も飛んでくる。
まるで、戦艦と戦っているようだ。
対空射撃に主砲の攻撃。
「すげぇ」
「すげぇ綺麗だ」
様々な色が織りなす光景は、イルミネーションを見ているかのような気分になる。
「ははっ!」
「これだから戦いってのはやめられないな!」
「よっ!」
接近を辞め、上空へと急上昇する。
≪何をするつもり?≫
「決まってんだろ?」
「糸で俺の足を覆うようにドリルを作ってくれ」
≪わ、わかった≫
「よっしゃぁ!」
回転しながら思い切り降下していく。
もちろんビームも当たるが、回転と糸のおかげで防げている!
「つらぬけぇぇぇ!」
月乃のバリアと衝突し、辺りには火花が飛び散る。
「なるほど…回転をかけてえぐるつもり」
「でも、それじゃあ貫けない!」
「それはどうかな!」
メリメリと音を立てながらだんだんとめり込んでいく。
「?!」
「俺らの力をなめんじゃねぇ!」
バリン、と気持ちのいい音をだして、バリアが割れる。
「ちっ!」
ジャンプで俺のドリルを回避する月乃
「解除!」
ドリルをほどく。
「お前を、絶対に倒す!」
「やってみなさい!」
また光線と光弾を展開されるが
「押し通る!」
力いっぱい羽ばたき、全力で向かう。
「はぁぁぁぁぁ!」
弾幕の密度がどんどん上がっていく。
「いっ…!」
片腕が光線に触れてしまい、削られていく。
「もう一本も奪う」
「ちぃっ!」
ローリングでどうにかして回避しようとするが
「がぁっ!」
結局触れてしまい、翼ごと消し飛ばされる。
「しまった…」
「今度こそとどめ」
降下してくる月乃。
「降下してきたのが命とりだ!」
「両腕を失った貴方にできることはない」
「摩耶!」
≪わかってる!≫
糸で両腕を作り上げる。
「何?!」
「腕を失うぐらい、なんてことはないんだよ!」
「全身全霊!」
右腕を構成する糸の形がどんどん変化していく。
その糸は、龍の頭のような形となる。
「炎龍咆哮!」
「撃滅閃光!」
お互いの全力の攻撃がぶつかり合う。
「ぐぎぎぎぎ」
腕が重い…いや、厳密には腕じゃないんだけど。
神経とかも糸で全部繋げてるから感覚は全部伝わってくる。
だから、どれだけの負荷がかかっているかもわかる。
「魔法は使えない…んじゃないの?」
「なら発射口を造ればいいだろ!」
「…無茶苦茶」
「ハデス!みんな!全エネルギーを俺に渡せ!」
≪そんなことしたら、負荷が≫
「俺は勝たなきゃいけねぇんだ!」
≪っ、わかった!≫
「うっし!このまま押し切らせてもらう!」
どんどんこっちの勢いが上がっていく。
「そ、そんな」
「私が負けるなんて」
「さぁ、お前の心の氷も、こいつで溶かしつくしてやるよ!」
「――」
俺の熱線によって、灰も残らず燃やし尽くされ、目の前にはVR空間の青空しか映らない。
「や…」
「やったぁぁぁぁぁぁ!」
両手を広げ、歓喜の声を上げる。
まるで、少年のように―――
♦
「はぁ…死ぬかと思った」
「なかなか強いんじゃない?」
「お、月乃」
「約束は約束だから」
「ふっ…やっぱお前、そっちの方が可愛いよ」
「かわ?!」
「さ、クラスの奴らビビるぞぉ~」
「まったく、その前に救護室よ?未来」
「なんで?」
「貴方ねぇ、痛みとかがあるVR世界で腕が二本も吹き飛んだのよ?」
「一応腕が動かせるかとかのチェックに行くわよ」
「あいよ」
かくして、予選準決勝で俺は新たな友を手に入れるという最高の結果を残した。
正直次負けてもいいけど、俺を目覚めさせた二人に挑みたいのもあって勝ちたいという気持ちの方が大きくある。
しかし、決勝って誰が来るんだろうか。
楽しみだなぁ!
「ほんと、子供みたい」
「おい、今馬鹿にしたか?」
「してないよ」
「ほんとか?」
お互い笑いあいながら、救護室へ向かうのだった…
♦
「…彼女なら勝てると思ったんだけど」
「そうだな、もうすこし善戦してほしかったが」
「でも、あれでわかったわね」
「あぁ」
「あの糸は魔神の協力者の力だ」
「つまり、魔神とも関係している可能性があるってことだ」
「あの場所の石像がなくなってたことについて何か知ってるかも」
「じゃあ、あいつを攫うか?」
「だね」