#1覚~kakusei~
「後は任せたぞ!姉貴!結菜!」
「兄さん!」
ごめんな、ダメな兄貴で
「大地!」
ごめんな、ダメな弟で。
だけど、みんなを守るために力を尽くせたんだ……なにも後悔することはない――
あぁ、体が動かなくなっていくのを感じる。
これからはいい世の中になりますように――
そう願いながら、俺の意識は闇の中へと消えていった……
ズドォォォン!
近くで爆発音が聞こえる。
それもたくさん。
「しまった!」
シュゥゥゥゥッ
何かがこちらに飛んできているような?
次の瞬間、俺の体に衝撃が走る
ビシッビシッ
「き、亀裂?」
ガラガラガラ……
「せ、石像が?!」
「いってぇな……なにしやがる」
「え?」
「――嘘」
目の前の少女二人は信じられないといったような顔つきだ。
「あぁん?何人のこと見てバケモンみたいに……」
「貴方一体?!」
「ん?お前有芽じゃないか?」
「久しぶりだなぁ!」
黒髪の少女に話しかけるが
「有芽?私は芽衣だけど」
「ん?そっちの金髪は里紗じゃねぇか!」
「私は紗綾だけど」
「あれぇぇぇ?」
「いやぁそっくりなんだけどなぁ」
「あの、有芽って私の母親の名前なんだけど」
「里紗は私の母親の名前」
「まさか、な」
「いったん会いに行ってみてもいいか?」
「いいけど、名前を教えてくれない?」
「大地、美空大地だ!」
「やっぱり」
「ねぇ、大地」
「どうした?紗彩」
「その名前、あまり人に言っちゃだめだよ」
「なんでだよ」
「貴方自分のこと覚えてる?」
「あいつらの爆弾を抱えて逃げたところまでは」
「ならなんで言っちゃいけないかわかるよね?」
「なんでだ?」
「貴方英雄として世界的に有名なのよ!」
「は?」
「全世界を救った英雄として教科書に載らない地域はないぐらいなの」
「まじかよ」
「ってついたわ」
「お母さん~ただいま~」
「芽衣、おかえ―――」
「固まっちゃった」
「そりゃ30年前に失踪した英雄が返ってくれば固まるでしょ」
「さ、30年前?!」
「えっじゃあ結菜は?」
「一応年齢的には47よ」
「うそだぁぁぁぁ!」
「でも人と違って老いるスピードが遅いみたいだから17の姿のままよ」
「なんでかは現代医学でも解明できてないらしいわ」
「だ、大地」
目の前で固まっている有芽がやっと動き出す。
「大地が帰ってきたぁぁぁぁ!」
「有芽?どうしたんだ?」
「里紗!見て!」
「大地?!」
「ちょっお前力を失って石化したんじゃないのか?!」
「さぁ?俺もよくわかって無くてな」
「気づいたらよみがえってたわ」
「気づいたらって……まったく」
「大地らしいっちゃ大地らしいわね」
「だね」
「それよりもみんなに会いたいんだが」
「そうだな!私が連絡しておくから有芽は久々に話しておけよ!」
「はいはい」
「里紗は相変わらずって感じだな」
「ほんとよ、よくあれで旦那が来たなって感じだもの」
「まぁお前らはあのころすごい美人だったからな」
「そら結婚もできるわなって感じだよ」
「あら?貴方も行けてると思うけど?」
「馬鹿言え、俺なんて普通だよ」
「連絡取れたぞー!」
「ナイス!それじゃあ行こうか!」
そうして俺らはかつての拠点に足を運ぶことになった……
「いやぁ、めっちゃ変わってるな、ここも」
「でしょ?でも構造は変わってないからね」
「ほら、いつもの会議室でしょ?」
「た、たしかに」
そうしてドアが開き、会議室に入る。
するとそこには
「おかえりなさい!兄さん!」
「結菜!変わってないな!」
「ずっと待ってたんだ、多少は甘えさせてやれ」
「わかってるよ、摩耶」
美空結菜――俺の妹で、俺と同じ力を持っている少女……って、今は47歳の大人かぁ。
「今変なこと考えなかった?」
「いや!別に!」
神結摩耶――白髪の少女の見た目をしているが、その実態は神で、かつて俺のダチをさらい、洗脳していたがそれが魔族の連中による邪悪な願いによって変貌させられた結果だと知り、その呪縛から解き放ったら妙になつかれてしまい、30年前は俺の中にいて行動を共にしていた。
「さて、今日の主役も来たわけだし、話そうか」
今話し始めたのは九十九紫苑――紫色の髪をもつ、人外。
あ、そうそうこの世界には魔族以外にも人外は色々いる。
妖怪に妖精に獣人に。
30年前は魔族以外とは人間は良好な関係を築けていた。
ちなみに紫苑は妖怪を束ねる大妖怪だ。
「貴方が眠ってからの30年、人間と魔族は数々の問題を乗り越え、今や差別はほぼない平和な世界が実現されたわ」
「それは本当か?!」
「でも、平和になった裏で何者かが暗躍している可能性が出てきたの」
「暗躍?」
「美空大地という絶対的な力をもつ人がいないのも相まってか、犯罪者数はかなり増え、魔族と人間の共犯というのも増えてきたの」
「ほう?でも、なんで暗躍という話になるんだ?」
「そいつらみんなこういうのよ」
「『自分の欲望に素直になるようにそそのかされ、気づいたら犯行に及んでいた』と」
「そこでわたしたちはその支持者を敢えてこう呼ぶことにしたの」
「【Unknown】と」
「おいおい、平和になってるって聞いた時には安心したのによ」
「それなのに、犯罪は増加して、さらにはアンノウンたぁどうなってるんだよ」
「そこでそれを重くとらえた私たちはあるものを造った」
「そして造ったのが能力者を養成する学校よ」
「え?」
「いまや戦闘系の能力者が警察に必要なのよ」
「そこで力の使い方を学べる場所があればそれは楽でしょ?」
「だから作ったのよ」
「へ~!」
「いいなぁ!それ!」
「あ、大地にはそこに通ってもらうから」
「――は?」
「はぁぁぁぁぁぁ?!」