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1-6

「やあお前ら3日ぶり」


 片手をあげる。


「相変わらずやさぐれてますねえ。学者の娘にしては育ちの悪さが出てますよ」


 クレアが話しかけてくる。お前が言えた口か?

 ソファとベッドに関してはありがとう。


「うるさいなぁ。そういうお前はどうなんだよ。まるで物乞いみたいな振る舞いじゃないか」


「う……うるさいですね……反省中なんです……」


 床で正座をしながら屈辱に震える演技をするリリア

 横目に僕は寝ようとソファに寝転がる。ベッドに行ってもいいが、別室にあるので、空気を読んで今日くらいは部室にいようとそう思ったのだった。


「今日くらいは起きててほしいな」


 トリシアがそう言うので、とりあえず目を開けることにした。


「で、どうやって妹を説得したんだ?」


「君本当に寝てたのか……」


 なんだ?横の部屋で聞き耳を立てていたとでも思ったか?普通だったらそうかもな!しかし、僕は僕なので寝ていた。


「私がね、クレアは私に夢中だから大丈夫だよって言ったんだ」


「……なにが大丈夫なのか」


 全然分からないが、なにやら妹はそれで納得したらしい。



 ▫



 家に帰るため、帰路についていた。

 当たり前だが、あの錚々たるメンツと居住区域は全く異なるので、1人で歩くことになる。なんとなく、らしくない寂しさにかられながら前を向いた。


「レイモンド様」


 声をかけられる。

 いや、僕はレイモンドじゃない。無視していいだろう。


「レイモンド様!」


 やはり僕か?いやでも、僕に対してだとしても、妹のレイと間違えられているだけかもしれない。レイの本名は確かレイモンドだったはずだ。あまり呼んでいないので自信はないが。酷い姉ですまないな。


 とにかく、僕の名前ではないのだから、振り向く必要はないだろう。

 そう思って歩き続けていると、ついに肩を掴まれた。


「なんだ?」


 首だけ振り向く。

 澄んだ目をした男複数人が後ろにいた。思わずたじろぐ。


「レイモンド様!」


「いや、僕はレイモンドじゃない。人違いじゃないか?」


「隠さなくてもよろしいのですよ」


 呼びかけてきていたのとは別の男が口を開く。優しうな壮年の男性だ。目が怖い。


「確かにこの国では貴方様の思想は異端と見なされています。しかしそれは、この国の人間が愚かだからこそ!私達はその思想が素晴らしいものであると、よく理解しています」


 また別の男が僕に近づく。今度は年齢不詳の落ち着いた男だ。こちらもまた異様に目が澄んでいる。


「だから、僕は、その、レイモンド?じゃないと言っている!」


「いえいえ。レイモンド様に違いありません。2年前に学会で発表された論文、『人と魔物のキメラについて』を見れば1目瞭然です」


「な……」


 男が言った言葉に思わず驚く。それは僕がちょっとやらかしたせいでこの学校に拘束されて、解放されるため苦し紛れに書いた論文じゃないか。


「文体、既存概念への敵意、解釈、どれもレイモンド様特有のものに違いありません」


「き、気の所為だろ」


 なんだそれだけか。まだ言い逃れできそうだ。


「妹を研究材料に用いられていましたよね?その名前もレイモンドなんて運命的ですね」


「……」


 それも知ってるってことは、結構立場のある人間か?


 3年前くらいのことだ。僕はいろいろあって荒んでいて、冒険者の真似事をして日常的に身を危険に晒していた。そこに“弟”だったレイモンドが無断でついて来ていると知らずに。

 体の半分無くなったレイを見て、僕は倒した魔物と彼をくっつけた。無我夢中だった。その試みは見事成功し、レイは人間と魔物の初めてのキメラになった。

 そして僕は世界中の学者達から危険視されることになった。危うく学会永久追放まであったが、祖母の機転のおかげでどうにかこの学園に拘束されるだけで済んだのだった。


「人体の細胞を一時的に植物に変えるなんて、レイモンド様でも無ければ思いつきません!宗教に数学を持ち込んだ時のような枠に囚われない思考、感服いたします」


「そ、そう……」


 僕は今まであまり褒められることはなかった。なので少し嬉しくなる。


「行きましょう、我らと共に!」


 思わず頷いてしまう。

 ああ、僕だってそりゃあ、僕を認めてくれるところに行きたいよ。


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