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7-1

「さて……準備は整った」


 僕が以前から用意していた論文を提供した雑誌が今日発売される。

 僕は長期旅行という名目でもう船の中だ。ここからどれだけ荒れても僕は蚊帳の外。トリシアは怒るだろうか。



 ▫



「爺さん、帰ってきたぞ」


 僕の祖父はいろいろなところを旅しているが、本拠地はここ、東の国だ。


「おかえり、可愛い孫」


「狙い通りだったんだろ?俺がこうして帰ってくるのは」


 白々しい爺様を胡乱げに眺める。ここでは僕は男ということになっている。向こうでは女だ。この国では爺様が僕の戸籍を男で申請したらしい。理由は聞いた事がない。聞きたくもない。


「はは、オレというかヨシロウだな」


 爺様の弟だ。ついでに言うとこの国の王だ。


「亡くなったと聞いた」


「ああ、思ったよりも早かったよ、まさかお前が成人する前だとは」


 病気だったらしい。詳しいことは知らない。しかし爺様と同じ年齢だった。この国の人間としてはだいぶ若いほうだ。


『都合がいい。男系の直系でこの国でお前を女だというものは誰もいない。セツコも気に入っている。何より子供を作れないというのがいい。それに……』


 思い出す。兄……僕の爺様の家出で多大な苦労を背負った人だった。性格に難はあったが、本人もそれを自覚し、周りの言うことをよく聞いていたので大きな失敗はない、安定した治世だった。スピーチが下手くそだったとかで国民からの好感度は低かったらしいけど。


「セツコ様が王になるのか?」


「そうだろうな、お前も大学に行きたかったろうが少し厳しいかもしれんな……」


「……そうか」


「とはいえしばらくは自由だ、好きなことをしなさい」



 ▫



「好きなこと、か」


 演劇だろうか。読書も好きだ。大衆小説。特に英雄譚が好きだ。世界を救う、いい言葉だ。


「……」


 ……俺はなにか残せただろうか。

 キメラに関する論文は高い評価を受けた。しかし、あれはやろうと思った人間がいなかっただけだ。倫理的な観点から見て学会から追放されかねない題材だ。子供だったからできた、それだけだった。


「演劇に興味がおありかな?」


 年齢不詳の目立ちそうな女性が話しかけに来た。役者か?ここの演劇は最近見ていないから詳しくは知らないが。


「いや、俺は……」


「しかし君、顔は普通だけど雰囲気あるね、役者向きだよ」


「はあ……」


「通行人役が足りないんだよ!来い!!」


 ……。


「何故俺が」


 大人しく服を着替えさせられている僕である。演劇、確かに1回出てみたいと思ったことはあった。しかし僕には残念ながら華がない。ツェザールみたいな面だったら今頃は役者でもやっていたかもしれない。


「君結構鍛えてるんだね!」


「……」


 上半身を脱がせられていても特に気づかれない。もう慣れたけど。


「この服を着ればいいんだな?もう自分で着れる」


「うん、じゃあ1時間後ね」



 ▫



「明日も来てね」


「……いやそれは無理だ」


 歩くだけの出番は何事もなく普通に終わり、着替えている最中に扉を開けられ、そう言われた。


「俺は確かに演劇は好きだが、立場があるんだ。客としてならまた来させてもらうさ」


「ああ、そうか貴族様だったのかー……雰囲気あるもんなぁ、ああー惜しい」


 押しが強いと思っていたが線引きはしっかりできるらしい。そりゃあそうか。


「どうでもいいからサインくれ、今日の報酬はそれでいい」



 ▫



「アンドリュー!久しぶりですわね!」


 演劇に出ていることがバレて、普通に拘束されて王城に連れていかれた。


 僕を笑顔で出迎えてくれているのはこの国の女王になるセツコ様だ。久しぶりに会ったセツコ様は僕より年上だ。すっかり大人の女性になっていた。


「……はい、お久しぶりです」


「よそよそしい!」


「そうですか……」


 久々に見たセツコ様は今日もご機嫌だ。としか言いようがない様子だった。

 ……僕がいないところだと随分態度は違うらしいが、何しろ見た事がない。


「結婚は俺が18歳になってからなので、あと2年後です。ひとまず戴冠式の準備をしましょう」


「ああ、それくらいなんとかしますわよ?結婚式は国民感情もありますしやりませんが」


「……さすがだな、セツコ様は」


 なんと言っていいか僕にはよく分からないが、父親よりはかなり優秀だと思う。

 なにしろ僕には専門外なもので。


「ここに名前を書いてくださいな」


「はいはい」



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