6-1
「……やっちまいました」
クレアがそう言う背後……窓の外には何人かの美女が見える。
「これはさすがに私もどうかと思うよ」
ツェザールが両手を挙げ芝居がかったように首を振る。実際のところお前はどうでもいいとしか思ってないだろ。
「…………アホ」
ライラがクレアを見て少しだけ眉をしかめる。
叱るような表情だ。
「大人しく反省しなさい」
ミアがため息をつきながら言った。
「ボクも反省した方がいいと思うなぁ」
オルフはソファの上部に肘をつきながら言う。
ちょっと興味深そうか?
「……とりあえずバリケード貼っとくか」
僕はため息をつきつつ、そう言った。
▫
話は少し遡る。
部室の前まで迫って来ようとしていた大軍を、ライラがいつも通りの涼しげな顔でそのまま塔にぶち込んだ。
本当にこういう時頼りになるな。
「で、どうやらお前に用事がありそうだったが、申開きは?」
「私に用事……?…………は!?」
「どうした」
「い、いえ……」
明らかに怪しい。
「……」
ライラが僕の服の袖を引っ張ってくる。
どうした?
「……塔の中、見れると思う」
机の上に前見た円柱のミニチュアが見える。触ってみると手が通過した。前友人に聞いたホログラム?ってやつか?
とにかくこれを観測で見ろってことか。いいだろう、やってやる。
「見事な塔の模型だわ!誰が作ったの?」
ああ、ミアからは芸術的な塔に見えるのか。
というか、急に出現したように見えるのかな。仕組みはよく分からないが、なんとも便利だ。
「待てよ。もうちょっとで見えそうだぞ。なになに、クレアの愛人だったけど捨てられた?好きな人が出来たから?仕事も休ませられたのにアフターケアなし?ははあ。……しまった」
口を閉じるべきだった。ここで言っても混乱を招くだけだ。
塔の中の女は学校に人がいないと気づいたらしく、地団駄を踏んでいる。
「え?アンドリュー似合わない冗談言ってどうし……え、もしかして本当なの?どういうこと!!クレア!?」
「……」
クレアが全力で目を逸らしている。
やっぱこの最前列を走っている女はクレアの愛人だったんだな?しかし強そうだなこの女。見覚えがあるようなないような。
「思い出した。隣の国の将軍様じゃん」
名前は覚えていないが、世にも珍しい美人な女の将軍ということで、絵画なんかが結構出回っているのだ。彼女がモデルの演劇なんかもあって、見に行ったこともある。
私欲で軍を動かしたってことか?なかなか性格に難があるとも聞くし、そんなもんなのかもしれないが……。美化された劇を見た僕からすると少し複雑だな。
まあ絶対的強さで貧民街からのし上がったという話だし、多少の横暴は許されるのかもしれない。逆に血統が良くないから致命的になるのかな。その辺はよく知らないが。
「絵画通り美女だなぁ。スタイルもいいし」
胸大きいし。
いい趣味してんな。
「いたい」
トリシアに耳を引っ張られている。
「もう!緩んだ顔しちゃって」
「してないが?」
「してる!」
ふふふ。今のちょっと恋愛劇っぽくないか。
まあ誰にでもやってるって知ってるんだけどな。
「……。ねえねえ、窓見てみなよ」
何を考えているのかさっぱり分からないポーカーフェイスでツェザールが言った。
さっきまでとのテンションの差に何があったのかと、少し冷静になる。
ツェザールが目線を向けている窓の外へと恐る恐る目を向ける。
……。
思わずクレアを見る。
どうやら皆考えていることは同じらしい。僕と同様、この部屋にいる人間の視線は全てクレアの元に集まっていた。
「……やっちまいました」
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