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クロ

「このクソガキ」


 私は今財布をすろうとしていた黒猫の獣人を掴んでいた。


「わ、わ。待って」


 そのまま腕をへし折ろうとすると、リリーロッテに止められた。


「……このまま折っておいた方がコイツのためですよ」


 このままスリを繰り返せばいつかは殺されるだろう。獣人の権利は無いに等しい。私刑で殺されるなんてよくある日常だ。このあたりでほどよく痛い目にあった方がいい。


「折る!?」


「え」


「そんな物騒なことを言う子だとは思ってなかったよ」


 何故か分からないが、私がリリーロッテに叱られているようだ。


「そうですか?……そうかもしれませんね」


 言うほど私は平和主義的な人間だっただろうか?と今までの行いを振り返ってみるが、リリーロッテがそう言うならそうなのかもしれない。私は平和主義者だったんだなぁ。


「じゃあこの獣人は憲兵につきだしましょうか。平和主義者として」


「そうだねぇ」


 掴んだ獣人がそれを聞いて必死に逃げ出そうとしている。さもありなん。


「それはおすすめしないぜ?」


 リーシュが獣人を見下ろしながらそう言った。


「獣人を憲兵につきだしたら、片腕で済めばいい方で、最悪殺されるだろ。元々この国の人間じゃないオレでも分かるぜ、そんなこと。だからレイモンドのやり方は確かにある程度正しいんだよ」


 ああ、逃げ出して行く。やはり貧弱な私の力では止めきれなかったか。


「まあ待ちなよ」


 ロイが軽く首を傾げながらその獣人の前に立つ。獣人が怯えているように見える。ロイは何となく威圧感があるからな。少し狼狽えるロイに珍しいなと思いつつ、私もそちらに向かう。


「更生は、させた方がいいかもね?」


 オルフがニコニコしながら言った。

 どうやって更生させるつもりなのか。まさか拷問でとか言わないよな。言ってきそうな怖さがこの男にはある。


「そっか……」


 リリーロッテが何やら考え込んでいる。

 ……嫌な予感がする。


「私が責任を持って保護者になります!」


「はあ!?」



 ▫



 頭が痛い。額を抑えながら、教会に定期的に書く報告書の内容を考える。ただでさえ目をつけられているところを私がどうにかして、監視だけに留めているんだぞ。ちなみに私は結構有能だと認識されているようで、私をずっと拘束しているリリーロッテを目の敵にする人間もそれなりにいる。バランスを取るのが非常に面倒くさい。


 と、脱線した。

 獣人か……さすがに後から書き足されたものとはいえ、教義で非人間だと明確に書かれている獣人を養子にしたなんて書いたら、頭のおかしい女として燃やされてしまうぞ。さすがにそれは言い過ぎかもしれないが、私が監視につけられることはなくなるだろうな。

 うーん。


「そうだ!」


 ペットだ!

 いいことを思いついた。

 リリーロッテが悪徳な獣人をペットとして飼い慣らし、矯正していく……英雄譚の主人公としてはなかなかありじゃないか?脚色を加えて街に悪さを加えた魔物を懲らしめ、その待ちの守護獣にして見せた聖女さながらのように書き記しておけば逆に教会から出資がもらえるかもしれないぞ……。

 ……私疲れてるな。

 紙をぐしゃぐしゃにして投げ捨てる。


 ひとまず様子を見に行くか。


「いい所に、レイモンド!」


 リビングに行くとリリーロッテが獣人と相対していた。

 眠気まなこを擦る私に気づいたようで、リリーロッテが話しかけてくる。


「どうしましたか?」


「この子名前ないんだって!」


「そうですか……」


「どうすればいいと思う?」


「リリーロッテが名前をつけてあげればいいんじゃないですか……」


 その獣人は思ったよりリリーロッテに懐いているようで、急に現れた私を威嚇してきて、それをリリーロッテに窘められていた。


 思ったより大丈夫そうなので、とりあえず寝ることにした。三徹目だしさすがに辛かった。


 そして朝起きて、事態の重大さにまた頭を抱えることになるのだった。


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