5-10
トリシアがリリーロッテとか、この部活のメンバーは旧知の仲なんだぞ、とかそういう話は抜いて、流れだけを説明した。
「なんで閉じこもってるんだろ?」
なるよな。
「正直自信は無いんだが、どうやらミアはかなり嫉妬深い性格をしているらしい」
「えっ」
クレアが僕を信じられないようなものを見るような目で見てくる。
どうした?
「それは普段の言動で分かるだろ」
ライラが呆れたように言った。
そうなの?
「そしてこっちは解析したから自信はあるが、結構依存体質だ。そして心水捕縛っていうヤバいスキルも持っている。多分ミアが好きな相手……誰とは言わないが、を害するようなスキルなんだと思う。ミアが嫉妬する度にその可能性は上がっていき、それが嫌だから閉じこもってる……と、どうだろう?」
不安になりながら皆を見る。
心水捕縛の内容は、さっき読んだ本になんとなく概要が書いてあり、そして、ミアのトリシアを傷つけてしまうんじゃないかという不安も書かれていた。そこからの推測だ。
「妥当だと思うよ」
ツェザールがにこやかに言う。良かった、僕の推測は合っていそうだ。
「人のこと言えた義理じゃないどころか、スキル解読までしてるとか……ちょっと私でも引きますよ」
「そうか?そうだな……。僕も自分にできることをしようって思ったんだが、余計だったらしいな……」
と、嘘を軽くつきつつ、悲しそうな声色を作る。
顔は変えなくていい。胡散臭くなる。
「そんなことないよ!ありがとう!」
トリシアに正面から肩を叩かれる。
前が見えないせいで、クレアがどんな反応を示しているのか分からない。
なんで僕に対してのスキンシップが多いんだ?ぬいぐるみとでも思われてんのか?
……。ミアがいないから引き離す人間がいなくて収集がつかないな。
いい匂いがする。身長が伸びたので、トリシアとは同じくらいの身長になったが、今の僕は座っているので、トリシアの顔を見ようとするとどうしても上目遣いになる。どうしたの?とでも言うようにトリシアが首を傾けながらにっこり微笑んだ。どうやら僕は上から見下ろされるのに弱いらしい。
照れくさくなり、手でトリシアの体を押す。
「も、もういいだろ」
「えー?」
一応素直に離れてくれる。
「……他の人にもやってるのか」
「やってないよ!なんで?嫌だった?」
「いや……別に僕は嫌とかではないが、拒否反応あるやつだっているだろ」
「優しいなー、アンドリューは」
わしわしと頭を撫でられる。
……一応セットしてあるからやめてほしいんだが。
多少視界が開けたのでクレアをチラ見すると、笑顔でグッドサインを作った後、親指を下に向けられた。ああ、うん。さすがに怒ってるか。
ライラも見てみるが、いつも通り涼しげな顔で、腕組みしながら頷いている。どういう感情だ?
ツェザールも一応見ると、それっぽい顔を作りながらかっこよさげなポーズをとっていた。……さては途中から興味失くしたな。
「で、どうするのさ」
ツェザールがそのままかっこつけた動作をしながら聞いた。腹は立つがこれがまた似合うんだよなぁ。
「どうしよっか」
「明確でしょう。トリシアがミア1人を選ぶか、ミアを振るか。この2択です。そういうことでしょ?」
クレアが僕に聞いてくるが、僕はそういうことに疎いので、僕に聞かれても困る。
仕方ないので曖昧に微笑むだけに留めた。
「……」
さすがのトリシアもここでとぼけることはしないらしい。