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『そういうことだから』
「ええ……」
「妹を大事にしてるんだなアンドリュー。前世にはいなかった家族を大切にしてるってことか……仕方ないな」
「ありそうなこと言うのやめてくれない?」
「……。戦犯。クレア。どうするつもり」
「えーと……そうですね……土下座でもします?」
「貴女の土下座に価値なんてないじゃない」
…………僕は部活をしばらく休む旨を伝えた後も観測していた。
一応僕は、部活に求められているようだ。
「保留で」
ゴーグルを外した。
▫
家に帰って来た僕を妹が出迎えに来る。
「姉様姉様〜」
妹の機嫌は非常に良さそうだ。
「どうしたレイ」
「私姉様のためにケーキを作ってみたんです」
頬を染めながら上目遣いで見上げてくる。計算され尽くしたその動作に相変わらず凄いなと変な感動を覚える。
待っていると、ライトグリーンのケーキがでてきた。これは期待できるな。
「……中身は?」
「ドラゴンの目、マンドラゴラの根、他は後で教えます。姉様強そうな物好きですよね?」
……否定はしない。
「……そこに転がってる爺様は?」
今までスルーしていたが、滅多に家にいない爺様が指で何やら書こうとした状態で倒れている。なになに?happynewyear?ふざけられる余裕があって何よりだ。あと、指の力で床に傷をつけるな。婆様の資産だぞ。
「?ケーキを食べたら何かをつぶやきながら倒れました!」
「ああ、うん。あまりご老体に無茶させないようにな」
「?はい!」
このケーキは責任をもって全部僕が食べておこう。
▫
「ん?アンディお前髪伸ばしてるのか?」
起きた爺様は開口一番にそんなことを言った。
やっぱ元気だろお前。
「素材になるからな」
「俺に憧れたとかでは……ない?」
「ないですね」
露骨に落ち込んだそぶりをしている。
爺様に憧れても僕は爺様にはなれないことはわかっている。無駄なことはしないのだ僕は。
「……そういえば爺様ってこんなに背が低かったっけ」
「俺が縮んだんじゃなくてアンディの背が伸びたんだぞ」
「ああ……」
目をそらす。
爺様は別に自身の身長が低いことを気にしてはいないと知っているが、それはそれとして失言だった。
「それで爺様はなんでこの別荘に?」
「孫の顔を見たかったからだ」
「アンタそんなに暇じゃないでしょう」
「……ああ嘘だ」
「でしょうね」
この男は僕の性別を幼い僕に逆で教えていた嘘つきだ。理由を正直に話すわけがない。悪趣味な男だ。
「で?」
「悪の組織?とやらが襲って来るらしい」
「えらく抽象的だな……」
「いやーオレも説明よく聞かずに飛び出してきてしまったから……」
「ああうん……」
▫
「悪い組織か」
観測する。
…………。
…………。
なんかレイモンド・パィゴチイオヒが教祖とか言ってないか?それって僕じゃん。
ゴーグルを外す。
「保留で」
……。…………。
「……これもしかして僕のせい?いやいや、そんなまさか!」
前世の僕はそれなりに名の知れた宗教家ではあったが……。
リリーロッテが死んで、ちょうど飽くなき内部闘争に嫌気がさしていた僕は教会を辞めた。その後は自身の教義を広めるべく各地を旅していた……が、少なくともこの国ではあまり有名ではないらしかった。幼い頃に訪れた村々でも僕の名前を聞いたことは無い。
てっきり時間が経ち廃れた物かと思っていたがそうでもなかったのか。
とはいえ僕が過去拠点としていた場所にはまだ行っていない。僕の考えた教義が廃れたという確証があるわけでもなかった。
「どうしました?姉様」
「レイは……僕が過ちを犯したらどうする?」
かつてそうであった通り、できるだけ優しい笑みを浮かべて聞く。
妹の表情が抜け落ちる。それが素だ。元々人と話すのが得意な子ではない。
「はい。姉様が過ちを犯したらその時は私が姉様の首をはねます」
妹は僕の問いに明瞭な声で答える。
「ああ、その通りだレイ。いい子だ」
僕より頭1つ分大きい妹にしゃがむように指示する。
妹の頭を撫でる。
そのまま目を合わせる。
「お前は本当にいい子だよ。俺が言うんだから間違いない」