5-1
「ライラはしばらく謹慎か」
「そうだね、置物みたいで可愛いね」
「お前なあ」
微塵も興味が無さそうなツェザールを横目で見る。ライラはいろいろあってとんでもないことをやらかしたわけだが、僕もやっておくべきことをいくつかこなせたので、実はライラには結構感謝していたりする。
「そして本題なんだが……」
「?」
僕は少し伸びた体を小さく丸めながら、声を潜める。
しかし、ツェザールは表情が分かりにくくていけない。この微妙な笑顔はよく分かっていない時だ。多分。
「ミアだよ」
「ミア?がどうしたんだい?」
ミアを見る。明らかに包帯の量が増えている。……わかりやすすぎて僕が言及したくなるレベルなんて相当だぞ。
「メンヘラに磨きがかかってるって話だよ」
「メン……ヘラ?」
「……」
これは……どっちだ?言葉の意味がわからないのかミアにメンヘラという言葉が合わないと思っているのか。コイツならどっちでも有り得る。
「ミアに精神疾患は無いよ?」
「……お前が言うならそうなんだろうが、狂人のフリをできるやつもまた狂人だ。狂人ぶりが上がってるって話だよ」
「狂人ねえ。それを言うなら君も気狂いの類だと思うけど」
「ははは!そりゃそうだ。しかし僕はまだ準備がすんでいない。動くのはもっとあとだ」
なんだツェザールは怒っているのか?ここまで認めないのはそうそうあることでは無い。正義スキルのせいだろうか。
「僕が言いたいのはさ、次の脅威は彼女になるのではないかってことだ」
▫
「ミアー、生きてるか?」
「生きてるわよ」
やはり心配だったので、ミアに話しかけてみる。
「最近大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるじゃない」
声もどことなく元気がない。いつも通り派手な顔だが、隈がある気がする。
疲れているようだ。
「不安なことがあったらトリシア相談した方がいいぞ」
「……。ふふっ、貴方にじゃないのね」
笑われて少しバツが悪くなる。でもそりゃそうだ。所詮平民の僕がお姫様であるミアの話を聞いても助けになれることなんてほとんどないだろう。それならトリシアに話した方が気も晴れるというものだ。
僕はその時考えてもいなかった。あの時無理にでも話を聞いておけば良かったと思う日が来るなんて。
そもそも間違っているトリシアにこの手のことで期待したらいけなかったのだ。




