過去6
「リリーロッテ様、またご令嬢から熱いラブレターが。今回は何したんですか?」
リリーロッテ様は女と見るやすぐ口説く。
おそらく同性愛者なのだろう。まったく、教会が聞いたら呆れ果てそうだ。
そしてこの一緒に冒険する仲間達には恋仲になる芽がないということであり、少しそれは気の毒ではある。
「……私は女の子が好きだけど、女の子であろうとする男の子も好きだよ?」
「はあ?よく分かりませんが」
とんちだろうか。
「大事なのは身体じゃなくて心だってこと」
「そう、なんですか?」
よく分からないが、頷くことにした。
「君もそうだよ」
「……な」
基準はよくわからないが、私も入るらしい。
それは……嬉しくないな。私はある程度の男らしさは必要だと思っているので。まあ今の段階で自分にあるとは思っていないが。もう少し歳を重ねればなんとかなる、か?
「……もしかして旅する仲間の基準点ってまさか」
「さすが。そうだよ、全部私の好みだ!……ロイはちょっとだけ違うけどね」
「……。後ろを向いてください」
「うん」
いつも通り髪をとぐ。
ああ、女性らしい痛みにくい美しい髪だ。
苛立ち紛れに殴らなくて良かった。
落ち着いてきたので、心当たりだけは話しておく。
「私は捨て子だったわけですが……親の顔を覚えていたんですよ。それで教会を抜け出して会いに行ったんです。そうしたら、私の妹が私の両親の元で楽しそうに遊んでいて。思うじゃないですか、もしかして、私が、手のかかりにくい女の子だったら捨てられなかったんじゃないかって。そういうことではないって分かってはいるんですけどね」
「全部分かってるから」
「あれ……?」
いつの間にかリリーロッテの肩の中にいた。
私はどうやら泣いているらしい。
女になりたいどうこうというより、私自身の境遇を悲観したのかもしれない。世の中どうにもならないことはある。教会で私のステータスを調べて、そして自分達の手に負えないと判断した、それだけだって分かってる。分かってるが……いや、分かっているからこそ、自身が悪いのだと知ってしまっているからどうしようもなく絶望的で、感情のはけ口がない。
「……」
これまずくないか?
今の私はリリーロッテと2人きりで抱き合っている状況だ。
周りをこっそりと伺う。
幸い今は近くに誰もいないよう……待て、あそこの木の影に隠れているのはリーシュか?もしかしてさっきの話を聞かれただろうか。
私の結構な暗部だぞ。1番ではないが。
「【忘却】」
「【抵抗】」
「……」
やはりダメだったか……。
リーシュは何かあった時の対処が上手い。為政者に向いていると思う。生まれのおかげだろうか。
「ん?もしかしてリーシュ?」
「ノータイムで忘却魔法打ってくるのはやめろや!」
リーシュが手を挙げながら仕方なさそうに出てきた。
「子供のやることですよ?見逃してください」
「放つ魔法が子供のそれじゃないんだわ」
「リーシュも私の肩使っていいよ」
「え」
あ、通りがかりのルークが近づいてくるのが見える。これは修羅場になるな。私はさっさとここから立ち去ることに決めた。
「では私はこれで」
「ええ〜」
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「せっかくちょっと弱いところを見せてくれてたのにすぐ戻っちゃった」
「どうかな……アイツ闇深そうだしもう一段階なにかあるんじゃねぇの」
「シンパシー?」
「まさか」




