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1-2

「おはよう」


「はよー」


「おはよ」


「はよー」


 友達に雑に挨拶を返しながら席に座る。


 さて……今日も寝るか。



 ▫



 僕は英才教育を受けているので、授業でやるような内容は全て頭に入っている。


「ふぁ……」


 あくびをかみ殺す。

 今日から部活に行かなければいけないのだ。


 ねむくてねむくて仕方がない。

 僕は寝るのが好きだ。

 1日19時間は寝ているだろう。

 それもこれもあの爺さんのせいだ。なんて思いつつ歩く。


 立ち止まる。

 目の前に背の高い女子生徒がいる。


「やあ……ええとツェザール。何か用か」


 敬語は使わないで様子を見る。


「アンドリュー。君は私のことを覚えているかい?」


「……。残念ながら記憶にはないようですね」


 記憶には、ない。

 彼女が誰であったのかという心当たりはあるが……それは言わなくてもいいことのはずだ。


「記憶には?」


「はい」


 相変わらず無駄に鋭いなコイツ……。

 いやまだ確定ではない。


「そういえばツェザールは男子用の制服を着ている……?」


 ズボンは男女共に許可されているが、シャツのボタンの向きが違う。


「ああ、その通りだ。私の前世は男性でね……そういう人間には異性装が許可されている。知ってるだろう?」


「知りませんでした」


 僕は異国の地で育っているので、この国の方針は知らない。

 しかしなるほど、そういうことか。

 だから母様は僕に男子用の制服を寄越してきたのか。

 祖母に頼んで女子用の物を急遽作らせたために事なきを得たが。


 ……やはり学校の決まりも読んでおくべきだろうか。

 そんな時間があるなら寝たいところだ。


「……僕をアンドリューと呼ぶのもそういう理由か。お前の方はオr、いや僕に心当たりがありそうですね」


 危ない。

 少し気が抜けていたらしい。

 これでは余計に混乱するのではないだろうか。


「それまだ続けているのか……とりあえず部活に向かおう、話はそれからでいいさ」



 ▫



「それで結局何が言いたいんだ」


 僕は無駄というものが大嫌いだった。

 ここまで引き伸ばしたのだからそれらしい答えが欲しいものだ。


「アンドリュー、君には前世の記憶がある……違うかい?」


「残念ながら前世の記憶はありませんね。まぁ……僕はきっと強い後悔とは無縁な人生を歩んだに違いありませんから」


「君なぁ」


 呆れた顔で見てくる。


「前世の記憶を話さないのは法律違反だってわかってるか?」


「もちろん。僕に記憶はありませんから関係ない話ですけどね」


「……あのさぁ」



 ▫



「クレアー!この頑固者をどうにかしてくれないか!?」


「……黙って聞いていればいつまでも平行線じゃないですかー」


 僕と同じくらいの身長の少女が、こちらに歩いてきた。


「全く放っておけばライバルが少なくなってちょうどいいのにザールは優しいんだから……」


 遠くから見ていたらしいミアがつぶやく。


「……」


 ツェザールが黙る。

 僕は別にライバルにはならないと思うけど。


「で?どうした商家の娘」


「……。…………態度違いすぎませんか」


「そりゃあっちはお貴族様でお前は所詮平民だからな」


 僕と同じで。

 誰に対しても平等になんて持つ者だけが言える言葉だ。持たざる者に発言権などない。


「……結構辛辣」


「それは前からだよ。私はきちんと言っていたじゃないか」


 ……いやこれくらいで辛辣と言われたら僕も困るが……。


「さっさと本題に入ってくれないか」


「あーそういうところは変わらないですねえ……ええ、あなたはレイモンドですか?」


「いいえ」


「あなたの前世はレイモンドですか?」


「さあ」


「あなたの前世はレイモンドであったと考えていますか」


「……はい。多分な」


「相変わらずめんどくさいですねレイモンド……」


 クレアが溜息をついた。


「しっかし本当に変わらないわね。線の細さもひねくれ方もいっしょ」


 ミアが下からジロジロ見てくる。

 あんまりな物言いに眼鏡がずり落ちそうになるのを指で抑えた。


「は?僕はひねくれていないが?」


「そういうとこ」



 ▫



「そういうことで僕は座標点を転生先に送り込むことで強制的に観測させ前世の情報を刷り込ませたわけですね。記憶はないがだいたいは知っている。そんなところでしょうか」


 前世の記憶は前世で強い後悔をした者に宿るらしい。あと魂のレベルが高いことも条件に含まれる。

 僕はどちらでもないと言ったところか。


「ひえ」


 リリアが少し青ざめている。どうかしたか?


 ……。

 扉が開いた音がした。

 振り向く。


「やっほー!!……あれ?アンディとみんな仲良くなってる!!?」


「……」


 トリシアとライラが入ってきた。


「貴女……抜け駆けは駄目って言ったじゃない!」


 ミアがライラに指を指して糾弾する。


「……」


 ん。今嘲笑ったな。不愉快な奴だ、覚えておこう。


「やっほートリシア。……別に仲良くなってないから安心して欲しい」


 小さく手を挙げて、挨拶をし返しておく。


「(なあツェザール、トリシアはそっち側なのか?)」


 横に首だけ振り直って小声で聞く。


「(いや記憶はないらしい。君のことも気づいていないよ)」


 コイツは言葉を減らしても勝手に正解にたどり着いてくれるから便利だ。


「やっぱり仲良くなってる!!!ズルい!私も混ぜて!!!」


「ぐえ」


 窒息しそう。

 結構力強いな……。









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