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「お兄ちゃーん!!」
「何やってんだツェザール!!!!」
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「本当にごめん。気づかれちゃった☆」
「気づかれちゃったじゃねえよ!!もう少し遅かったら俺熊に食われてたぞ!!!」
魔力が尽きかけている。証明は僕考案の魔法なので魔力がないと使えなくなってしまう。いや、まだ30分くらいは持つが心もとないというか。
そういうことで僕の妹を連れてきたせいで遅れたらしかった。絶対知らせるなと書いておいたんだがな……。
「ごめんって。……でも熊くらい倒せるでしょ?アンディなら」
「あのなザール。人間は素手で熊は倒せないんだぞ」
魔法を使えば殺れるだろうが、うろついているのは1匹ではない。
魔力が尽きる。
「え?」
「は?」
もしかして素手で倒せるのか?
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「俺は兄じゃないが」
「あれくらいなら私でも倒せますよ!あ、あとその服似合ってますね」
とりあえず妹には全力で家に帰ってもらった。
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「そうこうして私は攻撃をしかけてきた世界指名手配を受けている魔法生物使役魔法使いを捕獲し、警察に突き出して来たんだ」
「何がどうなったのかさっぱりだ」
とにかくツェザールの足止めは物量作戦で実行したらしい。1番有効だとは僕も思うが、こうして最速で攻略されているのだから世話がない。
「僕は……ほら、昔いただろ?マデリンっていうやつが。お前を魔力タンクにして串刺しにしたように思うんだが何故か復活していてな」
「ああ、マッドサイエンティストのマデリン・アシュナー。多くの人間を犠牲にした狂人……君結構荒れてたよね」
「……」
思い出した。マデリン・アシュナー。僕の敬愛するキース・ストレンジャーを糾弾し研究学会から下ろさせた張本人。
だから僕は怒っていたのだ。
「僕は失敗を繰り返さない。よって元から準備していた魔法で無効化できたわけだ」
「君は手札が多いのが強みだよね。同じ手段を使ったのは時間稼ぎとして失策だった……いや、目的がそもそも違うのか?」
「僕に聞かれても知らないが」
僕は犯人ではないし、あとついでにキース・ストレンジャーではないのでな。
……そうだ。
「キース・ストレンジャーに会いに行こう」
我ながらいい考えだ。
「キース・ストレンジャー?彼は行方不明になって長い時間が経つけど」
「ははは、まあ見てろって」
然るべき手段を取れば彼に会える。
「まずザール。アーノルドの家に行けるか?どうせ俺の時みたいにミアが調べてるんだろ」
「余裕だね」
「俺を抱えて走ってくれ」
少し落ち着いてきた。
「そんで入って3つ目の扉の持ち手を逆方向に3回捻って僕が声をかければ出てくれるはず……多分」
ツェザールの身分があれば家に通してくれるはずだ。
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「やあ!レイモンド、久しぶりだな。そいつらは?」
「僕の……友達だよ」
「ロイか」
「えっと?君がキース・ストレンジャー?なんか幼くなっただけでそのままな気がするんだけど……」
キースは今男体で落ち着いているらしい。服は白いTシャツに短パンだ。
「ま、細かいことは気にすんなよ!それで俺に何が聞きたいんだ?オマエが来たってことはそういうことだろ?」
「それもあるがそれだけじゃないよ。お前の安否も確認しに来たんだ」
「あー……アーノルドがオレの代わりに何かされてる感じ?」
相変わらず察しがいい。この頭の回転の速さを1度味わうと、他の人と話す時に歯がゆさを感じるのが難点か。
「そうだと思う。……これで確定したな。今回の敵はクレアだ」
「ええ?そりゃあミアやライラはこの手の搦手はできなさそうだけどさ」
「なによりもキースを間違えてるのがな。ミアとライラはキースなんてそもそも疑っていないことは確認済みだ」
「うーん」
ツェザールが納得の言っていなさそうな声を出した。
ということは何かが間違っている。
「クレアがこの手のことをしてきそうなのは分かる。顔が広いからね。彼女は犯罪者とも結構付き合いがあるようだし」
「野放しにしていいものなのか?それは……」
「いいわけないんだけど私にはどうしようもないな。ほらアンディみたいになんでもできるわけじゃないから」
「僕は別に万能ではないが」
身分というものもあるだろう。
それにリリアは大商人の娘だ。握りつぶされたらもうどうしようもない。ということかもしれない。
ツェザールの言い回しからして僕ならどうにかできるようだが、やる気はない。
僕には他にやることがあるのでね。




