4-2
「悪趣味な服」
「そうですか?良くお似合いですけどね。しかし女の子らしい服ではありませんね……似合わないものは仕方ありませんが」
「あのなあ」
僕だってそれなりに傷つくのだと言いたい。
理由は分かっている。体型だろう。肩幅が広いのでこういうガーリーな服はしぬほど似合わない。顔は……良くも悪くも癖がないので似合わないとかはないと思うが。
服の形やデザインを選べば僕に似合う可愛い服もあるのかもしれないが、正直そこまでの熱量はない。
オシャレが好きなわけでもないのでな。そうでなければ服選びを妹に任せきりにしたりしない。
「よく見るとレイモンド様、体格がよくなりましたね」
「……」
「素敵です」
頬を染めながら見上げてくる。赤面症かな?
僕との身長差は結構あるらしい。
最近また身長が伸びて今は166cmだが、マデリンは150ちょっとだろうか?
「それは良かった。僕はレイモンドじゃないけどな」
「では誰だと言うのですか」
「アンドレア・ナシェルだ」
「ナシェルですか……まあ別にいいですけど。アンドリュー様とお呼びすればよろしいですか?」
「ああ」
今更拒否したりはしない。
そもそもマデリンという呼び方だって本名ではないのだろうし。
「わ」
抱きつかれる。随分細い体躯だ。折れてしまいそうだと思い、手を避ける。
……。
「何か忘れているような」
しかしこれだけは覚えている。
コイツの倒し方だ。今のところ順調に進行中である。
「私とずっといっしょにここにいましょう。ずっとですよ、ずっと」
しとやかに振る舞う割に口調が粗めなのは慣れていないからか。
レイモンドになぜ執着しているのか、それが分からないことにはなんとも判断がつきづらい。
「それで俺が目的を達成できるなら悪くないんだがな」
そういうわけにもいかなかった。何しろ俺が何かをしなくとももう目標は自ら崩れてしまいそうで猶予はあまりなかった。
「悪いなマデリン。俺はお前より自分の方が大切なんだ」
「……あの女より?」
重苦しい雰囲気をまといながら見上げてくる。
トリシアのことか?なんで知っているかは気になるが、大したことじゃない。
「ああ、それはそうだな」
僕は他人に依存したりしない。あくまで僕がトリシアを好ましく思っているだけだ。
他のやつらがどうかは知らないがな。
「お茶でも飲みましょうか」
マデリンがそう言うと、椅子とカップが出てきた。
「座ってください」
「いいだろう」
座り、何故かそそがれている紅茶を飲む。僕はコーヒー派だが、この紅茶は結構美味しい。
「警戒されないのですね」
「警戒はしてるさ。僕は慎重だからな」
そう、慎重だ。慎重だからこそ、大した面白みもなくこうやって勝利する。
「は、はは。悪いねマデリン」
「……!?」
「私の勝ちだ」
一息置く。溶けていくマデリンをぼんやりと眺める。
「ありがとうマデリン。わざわざ私にリベンジの機会を与えてくれて」
そう言ったが、もう聞こえていなさそうだ。錬金術で作り出したカプセルに“全て”入れる。
「さて……」
そのカプセルを口に含み、マデリンの方向に置いてあった紅茶で流し込む。
「ごちそうさまでした」
▫
簡単な話で、僕はマデリンのスキルと魔法を解除するために、魔法陣を組んでいたのだ。
マデリンの結界内ではマデリンがルールであるため、発動はできない。
しかしマデリンの1部を取り込むことで僕をマデリンと誤認させ発動するそういう手筈だ。
この結界は全てマデリンの1部だった。出された紅茶もまた然り。僕を虜にでもするつもりだったのだろうか。魅了では楔として体の一部を相手に与えるものもあると聞く。……僕はそういうの効かないからね。
踏み出す。結界はマデリンの1部だった。つまり僕は結界も飲み干したってわけさ。とか現実逃避をする。
「はあ。……どこだよここ」
草原が目の前に広がっている。
……獰猛な熊と噂の耀熊が見える。
「なるほどね……」
ツェザールは何をしているのかなぁ!
もう来ててもいい気がするのだが。観測で改めて見たところ、あの紙はしっかりツェザールに届いているはずなんだ。
予測を誤ったか。僕はキースと違ってイカれてないからな、仕方がないさ。自分を過信しすぎないのも僕のいいところだ。
「はあ……『僕は透明人間』」