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3-16

「おつかれ」


 表彰式も終わり、どこかしょぼくれたようなツェザールの肩を叩き、労いの言葉を述べた。


 ……必勝法として頭部への攻撃を誘発して反則負けさせろとトリシアには言っておいたが、さすがにそれはお気に召さなかったらしい。トリシアなら万が一頭部に怪我をしても大丈夫だろうと提案したんだが、仕方がないか。


「ありがとう」


「あまり気にするな。これからいくらでも機会はあるんだから」


 ツェザールの目的が正義の否定であるのなら、今回じゃなくても何時でもできる。なんならトリシアじゃなくたっていいだろう。


 正義スキルの仕組みは簡単だ。

 その人間の話したことは絶対に正しくなるし、行動も正しい……つまり、絶対に相手に勝てる。敗北しないから正しい。正しく肉体が形成されているがゆえに肉体は傷つかず、精神も病まない。


 強力な代わりに相手に代償を要求する。自分自身が間違っていると思った瞬間、魂ごと自壊する。発動したら魂が壊れない限り転生してもそのスキルは所持したままだ。まあ固有スキルはだいたいそういうものなのだが。

 正義スキルはあまりにも強力であまりにも使いづらいスキルだ。目の前の彼が所持するまできっと所持者は魂を破壊され続けた。たった1人のために用意されたスキルとでも言った方がいい。


 しかし、ツェザールがその1人かと言われるとそうでも無さそうだ。きっとこのスキルは自分を正しいと信じ込む誰かのためのスキルだ。

 ただ、目の前のコイツは精神的に重要な部分が欠けてしまっているが故に、自己の葛藤がなく自壊せず今まで生きてこれてしまった。

 持つべきでないものが持ってしまえば不具合が起きるのもまた当然で、なんらかの不満持っているからこそ、【間違っている】トリシアに期待していたんじゃないか?と、レイモンドだった頃の僕は思っていたんだっけ?


「機会はないよ。もうない。2回も拒否されたんだから何回やってもいっしょだよ」


 ツェザールが言うんだからそうなんだろう。

 今まで見たことがないくらい動揺して、呆然とした様子だ。


 かける言葉が見つからない。


「……」


「私はこれからどうやって生きていけばいいと思う?」


 なんとなく既視感の覚える言葉だ。普段は飄々として掴みどころのないやつが弱っている。

 昔の僕は不思議に思って、適当に心を軽くするような言葉を言ったんだと思う。来世に期待しようぜ、とか。多分そんな感じで。


「そうだな。他人に期待して駄目だったんだから、自分自身で間違ってみればいいんじゃないか」


 だから今回も僕は適当なことを言う。ツェザールみたいに考えていることが正しくなるわけじゃないし、ライラみたいに人のためとか考えられる殊勝な性格もしていない。


 それでも僕は勝手にツェザールのことを同じ悩みを抱える同志で仲間だと思っている。だから期待も込めてそんなことを言ったのだった。



 ▫



「で、観測結果はどうだった?」


 狭い部屋だ。窓もない。トイレに繋がっている細い通路があるだけ。椅子ひとつが置いてあるだけの殺風景な部屋だった。

 そこに僕は立っている。


「“王子”、だな?正義スキルの詳細は紙に書いておいた」


 椅子の後ろで寝転がっている少女を見る。それが依頼主に対する態度か?親しい仲だし別にいいけど。


 紙なんて手に入らない環境のはずなのに、詳細は紙に書いたという。今更そこに突っ込むつもりはない。やることがめちゃくちゃで楽しいからこそ僕は彼を信頼している。


 内容を見る。概ね予想通りだ。


「頼まれた通りぼちぼち色々見ていたんだが、他殺願望っていうよく分からんバッドステータスのレベルが下がってたぞ。なんかあったのか?」


「なんかあったのか?ってなんだよ。一部始終見てただろお前。……そっか、他殺願望ね。なるほど」


 なんなら僕より知ってるはずだ。僕より状況をよく【観測】しているのだから。


 他殺願望か。……思ったより深刻だったのか?

 あまり考えないことにした。解決に向かっているのなら、下手につついてもろくなことにならないだろう。


「じゃあ次は、そうだな……ライラあたりの調査を頼むよ」


 そう、僕は目の前の少女───────キース・ストレンジャーに言った。



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