3-15
「やっぱりそれ理不尽だよね」
回復魔法で私がした攻撃が全て無かったことになったトリシアを眺める。
「それザールが言うこと?」
私の全身を見てトリシアがそう言った。疑問に思うがすぐに納得する。私の身体には傷1つない。文字通り。正義スキルのせいだが他人から見たら理不尽かもしれないな。
「頭を狙っちゃいけないって言うのは面倒だなぁ」
「それ幼なじみに言うセリフ?」
「確かに!」
そんなことを言い合いながらトリシアを剣で殴りに行く。気が合う友人にはなれなかったが、良きライバルにはなれた……と私は思っている。トリシアもそう思ってくれていると嬉しい。
そう思うと女になったのも悪くないな。
もう避けるつもりは無いらしい、トリシアが突っ込んで来ながら詠唱を唱えている。
覚悟を決めたらしい。
やはりさっきのところで勝ちたかったな。とはいえ悪魔由来の魔法を使われてはさすがの私でも対処は難しい。再び撃って来ないことを思うと、何らかの制限があると見るべきだが。
殴っても殴っても、殴った感じがしな、いや殴ったという感覚はある。その上で効いていない。感覚が狂っているような錯覚を受ける。大丈夫、これはトリシアが自分の魔法でダメージを回復させているだけだ。私の感覚が狂うなんて絶対にないはずなのだ。だからこれは気の所為。しかしさっき使われた、体が重くなる悪魔由来の魔法で私は体の感覚がおかしくなっていたじゃないか。また使われているのでは、またかかっているのでは、また感覚が……。
「珍しく精彩を欠いてるね!?」
トリシアの驚愕した声が聞こえる気がする。いや気がするわけじゃなく、言っているのか。この私が精細を欠いている?
そうなのかもしれない。私は正義スキルに全てを託すことにした。そうすれば間違えない。
そう思って剣をトリシアの顔面に振り下ろし……待て、それはまずいのでは。
咄嗟のことで止められない。頭を狙うのは反則だ。これは模擬試合でしかないのだから。
このまま負けが確定する、そう思った瞬間、トリシアの頭に着いていたらしい魔道具が作動しかけ……そのままハッとしたようにトリシアは避けた。
試合を止める声はかからない。
審査員席を、いやアンドリューを見る。私は今反則をしたんだぞ!?
目が合ったアンドリューは驚いた顔をした。まるで私とは目が合うと思っていなかったような表情だ。そして首を振った。口の動きが見える。『頭を狙ったんだな?見えるかボケ』……辛辣だなぁ。
状況は分かった。どうやらさっきの攻撃は審査員の誰からも見えなかったようだ。つまり私がここで自主的に敗北を申し出なければこのまま試合は続行ということになる。
正義スキルは見られなければ反則もOKだと判断したようだ、それは果たして正義なのか?……まあ正義なんだろう。
トリシアがこちらに剣を突きつけている。今の間私は何もしていなかったのだから当然だ。この状況、このまま負けるのだろう、そう思った。そう思ったが、勝ち筋が見えてしまう。トリシアは剣しか見ていない。そして今私は片手で剣を持っていた。空いている左手でトリシアの剣を掴み、そのまま叩き折った。
「試合終了!ツェザールの勝利!」
審査員席から声が上がる。
相手の武器を破壊したので、ルールにより私の勝利となったのだ。今度は正確にはっきりと誰にでも分かる形の勝利だ。
またしても私は勝ってしまった。そしてトリシアが負けた。
「悔しいなー。また負けちゃったよ。やっぱりツェザールは強いね」
トリシアがそう照れくさそうに言う。
本当ならお前が勝っていたはずだったんだぞ?私の振った剣がトリシアの頭に当たって防護ように用意されていただろう魔道具が作動しさえすれば、いや、剣で止めていたとしても私の反則負けだっただろう。なんで勝ちを譲った?私に勝つ必要はないと思ったのか?
「……そうだね。私は強いよ」