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3-13

 僕はその戦いを見る……いや、正直目で追えていなかった。まあツェザールの方はいつも通りというか、神経質なくらいの耐久の技術と持ち前の身体能力のゴリ押しで相手を倒そうとする古き良き戦法のゴリラだなとしか思わないが。

 問題はトリシアだ。ほぼ無詠唱で紡がれる魔法と目にも止まらぬ程の剣速、回避から攻撃までのスパン。全部僕には見えない。……かっこいいけど、かっこいいからこそ全部目に焼き付けておきたいところだ。


「わ、わ。全然見えないや。君は見える?」


 理事長が聞いてくる。ああ、そう聞いてくるということは僕ならもしかしたら目視できると思っているのか。


「【偽証】【戦士】【速度】」


 こっそり小さな声で証明スキルを使う。僕を見ている彼が僕をそうであると認識しているなら、僕はトリシアの動きを見ることができるということだ。


 うん。いけた。

 飛び回るように跳び回るトリシアがはっきりと見える。


「……まあある程度は」


「さすが!すごいね」


「ありがとうございます。そうですね。剣の腕ももちろんですが、特筆すべきは魔法ですね。範囲が広く、威力の高い魔法を連続で次々と打っています。高い魔法の素養がないと実現は難しいでしょう」


 どれもこれも高い魔力と技術の高さがないと使うことすらままならない。

 最初に使ったアイスピラーにより柱が建っているが、これも場外乱闘禁止のルールに従い、きっちり外と中の線引きの中に収めてある。どこまで倒れるのかのために物理法則、あと大きさの計算どちらもこなさなければいけないし、それをこんなところでいつも通りの顔をして使ったトリシアに少し薄気味の悪さを感じた。

 間違いなく自分が主人公で絶対正しい!なんて顔をしている人間が使う戦法じゃない。それに関しては大概なゴリラのツェザールが、むしろ個性的でかっこいい戦い方に見えるくらいだ。いや、ツェザールも戦い方自体は王道なんだけどさ。こう、スタイリッシュにレイピアなんかを武器にしてきそうな見た目とのギャップがね……。


「パッと見ですが、ツェザールの方が押している印象を受けますね。トリシアは回復魔法を行使しているので、ダメージを受けているということでしょうし」


「なるほど。……知ってた?回復魔法って極めれば体力回復にも使えるらしいよ。どっちにしろ押されていることには変わりないけど」


「ええー……」


 回復魔法はかなり高度な魔法だ。本人の気質に影響されるのでそもそも使える人間が少ないというのもあるし、魔力も相当量必要になる。もちろん僕は使えない。

 一応ライラは使えるんだったっけ?神聖魔法とかいうこれはこれでまた別系統の魔法だから、使う条件も違うし僕にはよく分からないけど。


 とにかくその高度な魔法を体力回復に使う?援護魔法とか使った方がよっぽど効率がいいだろ。


「本人の話を信じるなら、回復魔法の方が援護魔法より時間対効果が高いんだって。魔力を無尽蔵に持つ人間にしか許されない発言だよねぇ」


「そういう話ですか……」


 確かに魔力に恵まれていない僕じゃ考えもつかないような話だ。


 トリシアの戦い方はよく目に焼き付けておかねば。こう、ファンとして。

 ……僕だったら、どうやったら彼女に勝てるかな。昔の記録を引っ張り出す。あの時のリリーロッテはどうやって戦っていた?


 そういえば僕は教会からの命で彼女を処刑しようとして、1回彼女に負けたんだったっけ。それで僕でも勝てないということで、教会は彼女を監視する方針に切りかえたのだけど。祖国がどうとかでリリーロッテの境遇はどんどん悪くなっていき、僕が監視することなく彼女は死ぬだろうと、僕は監視の任を降ろされたのだった。


 と、違う違う。トリシアの戦法だ。

 細身の剣や身のこなしで上手く戦っているという印象だ。そこに強力な回復魔法が合わさって捨て身の戦法を取り放題が故に強いという感じだったように思う。その対策ができなくて僕は負けたのだ。回復魔法以外も多少は使えたか?どうだったかな……少なくとも今ほどではなかったな。昔は教育も満足に受けられていなさそうだったし、勉強して使えるようになったのかもしれない。とすると、前世の記録とやらはあんまり参考にならないかもしれないな。

 ……そもそも僕はなんでトリシアに勝とうとしているんだっけ?でも、やっぱり憧れの強者には勝ちたいと思うのが人間というものだよなぁ!僕は間違っていないことを再認識し、今現在やっている試合の記録を閲覧し直していく。もちろん速度は上げる。そうしないと追いつかないから。さっきの証明で目が良くなったとはいえ、処理するのは僕本体だ。僕の頭の回転の速さに期待だな。


 観客席は今までにないくらい静かだ。それだけ緊張する戦いなのかもしれない。


「……」



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