3-12
「次は決勝戦かぁ」
眠たい目を擦りつつ、腕を伸ばす。
「対戦カードはツェザールとトリシアだね」
理事長が僕の方を見ながら言う。なんで僕に言うんだ?両方とも知り合いだからだろうか。
「君はツェザールが勝つ方に賭けていたよね!僕はトリシアの方に賭けてるけど、決勝でどちらが勝つか分かるなんて楽しいじゃないか」
ああ、そう言えばそんな会話もしたな……。
別に賭けているわけではないが、確かに僕はツェザールが優勝すると言った。……そう言えばツェザールのことを呼び捨てにしているがいいのだろうか。理事長の方が家格としては下だろう。トリシアは平民だから問題ない、というか姓もなかったはずだ。
「彼はとても気さくだよね。一応他国からの留学生でね、僕も何回か会う機会があってすっかり仲良くなってしまった」
「え?」
理事長がそのまま続けて言った言葉に思わず声を上げる。
留学生?ツェザールはこの国が誇る強い騎士を多数輩出する名門のゴールド家出身ではなかったか。
「ああ、まあ複雑な身の上らしくてね。君は国に所属している立場じゃないから言ってしまうが、彼は隣国の王子様なんだよ」
……。聞いたらいけない感じの話を聞いてしまったな。
ゴールド家は他国の王族を自身の親族として保護しているということか。理事長が知っているくらいだからきちんとこの国でも認められていることなんだろう。僕が知るべきでない話であることは変わらないが。
「そ、そうなんですか」
ということで、突然すぎる情報を上手く処理できていない僕は相槌しかすることができない。
「やはり他国の人間より自国の人間に勝って欲しいと思うのは当然だ。ということで僕はトリシアを推すよ。王家が推している今1番ホットな剣士の彼女をね」
「ですねー……」
ここはどう答えれば正解なんだ?教えてくれクレア。部室でメイド喫茶の収益でも数えているんだろう少女に思いをはせる。僕にクレアみたいな立ち回りの上手さがあればきっと適切な答えが思いつくに違いない……いや、クレアならそもそも審査員なんてやらないか。
現実逃避をしつつ、トリシアを観測で見る。
……水を飲んで、深呼吸をしている。緊張を落ち着けているといったところか?
休憩しているトリシアもこれはこれでいいな。記憶の中にしっかり残しておこう。うん。キースに気持ち悪いなお前……って言われている気がするが気にしない。
「そろそろ入場の時間じゃないですか」
理事長に話かけてみる。気まずさを紛らわす狙いが大きい。
「そうだね!」
どうにか気をそらせたらしい。安心して息を吐いた。
▫
「さて、トリシア。剣を取って」
私は久しぶりに感じている緊張を感じながら、平静を取り繕いつつトリシアに声をかける。
「うん、負けないよ!」
いつも通り、いや少し勇ましい表情をし、剣を持つトリシアを見る。
私が負けに来てるなんて全く思っておらず、正々堂々私に挑みに来たとでもいうようだ。どうしようもなく間違っているくせに自分が正しいと疑ってもいないその様子に少し懐かしさを覚えた。
「試合初め!」
私の方から攻撃しに行く。普通はそんなことはしないが、今は敬意を表してといったところだ。
走っていき、幅の広い両手剣を振るう。トリシアが構える。まあ分かっていた。受け止められるだろう。しかし、そのまま力押しで突っ込む。トリシアの目が見開かれ、そのまま、一緒に吹き飛ばす。やりすぎたな。衝撃波で爆音がして、客席からのざわめきが聞こえる。ファンが減ったかな。砂煙で前が見えない。
「もう終わりかな?」
「まだまだ!」
砂煙の中からトリシアが出てくる。もちろんそれはスキルのおかげで分かっていて、そのまま受け止める。そしてそのまま力任せで振り払う。
「そうだよね、幼なじみだし分かるよ」
なんてにっこり笑いながら言えばさすがのトリシアも少し怒るらしい。構えたまま自分で後ずさり衝撃を上手く逃して体制を建て直した後、少し怒った顔になった。なるほど、さっきもそうやって衝撃を逃がしたのだろう。
これは力押しじゃ勝てないかな?でも結局これが1番強いんだよね。デカイ武器で叩き潰す!
トリシアもやる気になったようなので、私は防御の型を取ることにした。私は元来こちらの方が得意だ。
体の前に剣を置く。こうすることで、盾のような役割を果たしてくれる。
「【アイスピラー】」
そうだ、トリシアは魔法剣士なのだ。魔法があって真価を発揮する。ぜひ攻撃してもらいたい。それでこそ戦う意味があるというものだ。




