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3-11

「私の勝ち、だね」


 剣を相手の首元につきつける。

 客席から歓声が上がる。つい癖で、それに応え、手を振る。歓声はより大きくなる。


 近くの審査員席で見ていたアンドリューがおいおいという顔をした。そりゃあそうだ、まだ勝敗は確定していないのだから。


 しかしどちらが勝ったかなんて火を見るより明らかだ。こうやって私はこの大会を勝ち上がってきた。推薦組なので予選には参加していないが、参加する必要もない。だって私はそのくらい強いのだから。本来の戦い方を封印し、相手を舐め腐ったようにかっこつけながら戦ってもこれだ。慢心だってしたくなる。


「勝者、ツェザール!」


 審査員席から声が上がる。私の勝ちが確定した。

 一際大きい歓声が上がった。



 ▫



 私はこの大会で決勝まで残る必要がどうしてもあった。トリシアと戦わなくてはいけないのだ。


 トリシアとは幼い時からの友達だ。今世では、という話になるのだろうか。

 私は生まれたその時から前世の記憶を所持していた。女性の体に戸惑ったこともあったが、スキルのおかげで強さに変化は無い。馴染むのも早かった。この服を選んでいるのは単純に動きやすいからである。使えるものは使うのがうちの方針だ。


 スキルはもちろんだが、前世の記憶を持ち合わせていたおかげで、幼い時の私は向かうところ敵なしだった。傲慢になるのも仕方のないことだと言えた。

 そんな時、王家の前での力比べの場だったかな、そこでトリシアと出会った。調子に乗っていた私はすぐには彼女がリリーロッテだと気づかなかった。彼女も記憶を失っているようだし仕方がなかったのかもしれない。

 私はその時彼女に勝った。しかし、どうしようもなく理解した。私は彼女に手を抜かれたのだ。私がそういう家の子供だから。あの時勝っていたのは絶対に彼女だった。


 思い返せば前世もそうだ。無敗の騎士であった私は、答えを求めて旅に出た。そしてリリーロッテに出会ったのだ。

 否応なく理解する。私は彼女に絶対に勝てないのだと。いつか訪れるだろう敗北の予感に私の胸は高鳴った。

 しかし、私が彼女に敗北することは決してなかった。勝負をする前に彼女が死んでしまったのだ。やけになった私は世界に点在する戦地へと赴き、そして死んだ。


 今世、また彼女に会えたのは運命だと思った。ここで手を離せば二度と会えなくなる、そんな気がした。だから私は彼女に言ったのだ、友達になろう、と。咄嗟に出た言葉だった。受け入れられるとも思っていなかった。だって私は前世でも彼女と友達と呼べるような関係ではなかったから。しかし彼女は受け入れた。そして私とトリシアは友達になった。


 そこそこ仲のいい友達になった私達は同じ学校に通った。本当は私はここに通うはずではなかったのだが、初めて他人に執着を見せた私に驚いたのか、親が許可してねじ込んでくれたのだ。

 そして高等部に入った頃、ルークの転生体、ライラに出会った。最初は私のことを本気殺しに来たっけな……色恋には興味がないよ、と言ったら収まって今の状態になっているけど結構驚いた。そこまでリリーロッテのことが好きだったとは思っていなかったから。


 次はミア。記憶はすっかり無くしていたようだったが、トリシアを見た瞬間思い出したらしい。いきなり泣き出してこれもまた驚いたっけ……。本気でトリシアを取りにこようといろいろしてきたっけな、懐かしい。本気でトリシアのことが好きなのは、昔からだしそこに関しては驚くことでもなかったけど。


 その次はクレア。彼女はトリシアを見ても最初思い出さなかったが、何かひっかかったらしく部活に入ってきた彼女は、トリシアと過ごすうち徐々に記憶を思い出していき、最終的には完全に思い出していた。何を考えているのかよく分からないが、定期的にトリシアを自分の所有する商会に勧誘している。


 次はアンドリューか。

 もともと、彼は精神異常は効かない体質だとボヤいていたし、ミアの呪いが十分に効いているか怪しい。まあ私もそこに関しては同じなのだけど。だからこそ分かるとも言う。お互い厄介なスキルを持っている。

 記憶は引き継げていないらしいが、トリシアのことが大変気に入ったらしく前世と同じように監視して、その強さに感動している様子がよく目に入る。


 そしてオルフ。

 見た目はほぼ変わりない。性別だけがひっくり返っている。そんな呪術は聞いたことがないからリーシュは本当に天才だ。だが、僕達をほっぽって王城に帰って研究してたのってそれなの?馬鹿なの?

 オルフは暴れ回ったのもあって族長を下ろされたらしい。まあそれがいいだろう。向いていないと本人も言っていたし。


 ああ、懐かしい面々だ。

 少し昔を思い出して感慨にふける。


『ロイの本当の望みは貴方自身の正しさを否定されること……つまり敗北だと思いますよ?』


 かつて聞いたレイモンドの声が頭の中で反響する。

 ああ、私は負けなくてはならないのだ。

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