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3-8

「資料集めに協力して欲しいって……私で足りますか?」


「お前以上の適任はいない」


 図書館が部室ということで、資料集めをしているわけだが、それにクレアを付き合わせていた。


「嬉しいこと言ってくれますねえ」


「僕はこの図書館の本の配置、中身は全部覚えてるからな、必要なのは手だ」


「……貴方性格悪くなりましたねえ」


「お前が言うか?」


 リリアに踏まれた足を見ながらそう言った。


「てへ」


「すべってるぞ」


「……」


「いひゃい」


 頬を摘まれた。


「少し不遜すぎません?」


「……」


 これが僕の欠点である。前世はなんとか謙虚なふりができていたみたいだが、今は無理だな。狂化スキルのせいかな?そうに違いない。

 まあ変えたくても変えられるものではない。変えたいとも思っていないが。


「その分こうやってぶちのめしてくれていいから」


「……そうですか」



 ▫



『武闘祭の始まりだー!!!』


 アナウンスの声が響く。

 ちなみにこういうのはきちんとプロを雇っている。他の学校では生徒がやったりするようだが、専門の人がやった方が良いと僕も思う。確実だしね。


 そして観客の中年男性達が盛り上がる──────ま、就職先にも関わるイベントなので親やその生徒たちを雇おうと考える人が見に来ているのだ。世の中は多くのおっさん達が回しているのだな。

 まだ親元を離れることのできない学生達に回せるものは無い。……そして大多数の女性はそれが一生着いてまわる。


「はあ……」


 まわった。が正しいか。今はそんなこともないと言う話だ。部活の皆は昔のことを引きずってめんどくさい奴らだ、なんて思っていたがどうやら僕も大概らしい。


『それでは審査員の皆さんの紹介に入ります』


 姿勢を正す。


『まずは、この学園の関係者から〜、理事長、カイン・エルバス』


「頑張ってくださいねー」


『学生でありながら審査員に選ばれた、アンドレア・ナシェル』


「若輩者ではありますが、与えられた役割をまっとうしたいと思います」


 と、少し幼さと拙さを見せつつあくまで謙虚な照れ笑いを浮かべながらお辞儀。

 うん。学生受けは良くなさそうだがこんなところだろう。人付き合いが上手いタイプでもないしこれくらいが及第点だ。


 ……何やら歓声が聞こえる気もするが聞こえなかったことにした。


『お次は───────』



 ▫



「ナシェルくん」


「なんでしょうか」


 理事長が話しかけてくる。

 くん?と思いつつも丁寧に答える。ここで喧嘩を売っていいことは何もないからな。


「優勝するのは誰だと思う?」


「ツェザールだと思います。……強いので」


「そういえば君演劇が好きなんだったっけ」


「え、ええ……」


 これもしかして僕がツェザールのファンだと思われてるのか?

 確かにツェザールは舞台映えのしそうな男前だが……。

 僕は役者の見た目がどうこうというタイプではない。もちろん演劇好きには役者目当ての客が多いことは知っている。というかその側面は強い。そのために観客の近くを歩いたりする旨が脚本に書いてあるわけだ。しかし僕が好きなのはその脚本であって正直役者には興味がないというか。……演劇好きは仲間と見るや結構コミュニケーションを取ってくる。それに対応するために僕も知識だけは入れている。


「ツェザール……彼は演劇みたいに派手な剣を使うよね」


 あ、違った。そりゃそうか理事長は別に演劇好きじゃないだろうしな……少し気まずい。


「アイツは何もしなくても強いですから、逆に言うと無駄な動きを入れても勝てるってことです。常人には勝てませんよ、実際僕も勝てなかったし」


「模擬戦をしたことがあるのかい?」


「ああ、はい。部活がいっしょなもので」


「なるほどね。Aランク冒険者の君が勝てないんだから相当強いんだろうなぁ」


 ……。僕が冒険者をやっていたなんて理事長には言ってないぞ。というかツェザール以外には言っていない。


「なんで知ってるんだと言いたげな顔だね」


「はい」


「……。この学園に誘ったのは元はと言えばこの私だよ、冒険者としての腕を買ってのものだ。……調べさせてみたら身分もしっかりした優秀な学者で驚いたよ本当に。学者なんて柄でもなさそうだったのに今じゃ実際そう見えるのだから人間よく分からないよね」


 冒険者時代の知り合いだったってことか?

 最終的にこの学校に入った決め手は妹だが、元はこの理事長が推薦してくれたらしい。ありがたいことだ。学園にいる間に書いた論文のおかげで僕もギリギリ許されたし。


「審査員に推薦したのも私だ。Aランク冒険者に荒らされちゃたまったものではないからね」


 武闘祭は5年に1回開催される。そういう事情があって卒業生も2年以内なら出れるのだ。僕も例にもれない。


「僕はもともと出るつもりはありませんでしたよ。学者ですし」


「うーん」


「理事長は誰が優勝すると考えていますか?」


「そりゃ君、トリシアだよ」


「そう、ですか」


 口元に笑みが浮かぶのを隠せているだろうか。そうだ、理事長からこの言葉を聞くために僕はわざわざ優勝候補はツェザールだと言ったのだ。理事長に期待されているトリシア……!すごくいいと思う。これで勝てば最高にかっこいいぞ。勝たなくてもかっこいいけど。成長途中の伏兵っぽくてそれはそれで良さがある。

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