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「訓練で軍規模威力の魔法を打つのはやめてよ!?」
オルフが少し取り乱したように言った。
爆音が聞こえて駆けつけてきたらしい。
「軍規模と言ったって僕が打ったんだぞ?この通り制御は完璧だし僕の腕に威力がのっただけだ。普通に負けたしな」
ちなみにツェザールには腹筋で受け止められた。
世の理不尽を感じた。
「確かにキミの魔法操作は相変わらず気持ち悪いくらいレベルが高いけどね。エルフのお墨付きだよ」
オルフはそういうことじゃないんだよと言いたげな顔をしながらそう言った。
「魔力が底なしにあるタイプじゃないんだから、魔力の使用消費が高い魔法はなるべく抑えないと。君の魔力使用効率はエルフ顔負けだけどさ」
「訓練じゃなければ爆弾使うから......」
「じゃあいいか......いいのか?」
なんなら爆弾の方が手軽だし、爽快でいい。
「そういえばツェザールは魔法使わないよね」
オルフが首を傾げながら言った。
「知らなかったのかい?私はもともと魔法は使えないよ」
ソファに座っている僕の後ろから、肩に手を乗せてなんのダメージも受けていなさそうなツェザールが顔をのぞかせる。
「アンドリュー、やっぱり君は強いじゃないか!感動したよ。1番の強みを封印してあそこまでやれるなんて」
「うるさいなぁ」
煽ってるとしか思えない言い回しだ。別にそんなことはないとわかってはいるが。
「え、......あれ手抜いてたの?」
ボロボロになった模擬試合場を見ていたんだろう、オルフが困惑したように言う。
「お互いにな。スキル使用なし、どうしようもない時は公平性を確保するというハンデを課していた」
そうじゃないと殺し合いになりかねない。
「2人共攻撃的で怖かった〜」
特徴的な高い声がするので振り向いた。
トリシアだ。
「......トリシアも見ていたのか」
もう少し大人しくやっておけば良かったか。少し後悔する。
「や、褒めてるよ!しかし本当に2人は仲がいいね」
「......」
「そろそろ愛称で呼ぶ時期じゃないかい?」
「............」
「アンディ」
「ふむ」
アンドリュー呼びよりはマシな気がしてきた。
「お前の愛称はどんな感じなんだ」
「ザールだよ」
「おーけー、ザールな」
▫
「ねえ、君ほんとは魅了効いてないんじゃないの」
さすがに今回のことで気がついたらしい、オルフにそう言われた。
うん。実はちょっと前に魅了スキルを使われていたのだ。もちろん僕には効かない。油断ならないが、まあせっかくなので効いたフリをしていた。オルフの意図を知りたかった。
「【魅了】は効いてる」
「ええ……言うこと聞いてくれないじゃないかー」
「魅了スキルはかかった時に個人差がある。……僕はそうだな、少し口が軽くなる程度じゃないか?」
普段ならこんなことは言わない。
弱みはなるべく見せないのが僕の主義なので。
そういうことで状態異常にかかっていることは間違いないだろう……みたいな?
「……じゃあ聞くけど、君はトリシアを救うために何をやっているのさ」
「国家転覆」
「え」
「もちろん嘘だが」
「全然口軽くなってないよ!?」
僕はあくまで学者なのだ。【学者として】盤面をひっくり返してやる。少し楽しくなってきたので口も軽くなる。
「……じゃあさ、クレアは何をやっているの?」
「さあ……監禁でもするつもりなんじゃないかなぁ」
「……誰を?」
「トリシアを」
僕に対して頻繁にコミュニケーションを取ってくるところがすごく怪しい。
ツェザールならまだしも僕はクロと大して仲が良かったわけでもない。
利用しようとしているのか僕を探ろうとしているのか。
「ツェザールは?」
「正直どうでもいいと思ってるんじゃないか。アイツは基本的に自分のことしか気にしていないし」
「……。ミアは?」
「そもそも知らないと思う」
「……」
「ライラは一応公権力から頑張ってはいるみたいだぞ、良かったな」
「もうちょっと協力したらいいのに……」
……。
「次魅了するべき人物……?」
そろそろ魅了が切れる時間だと思っていたらそんなことを聞いてきた。
「そりゃあキース・ストレンジャー……じゃなくてミアじゃないか。なんだかんだ1番効きそうだし」
……やはり魅了にかかっていたのかもしれない。気が緩んで言ってはいけないことをを口走ってしまった。
▫
あれが聞きたかっただけらしい。魅了スキルをオルフが解いたということになったので、僕はミアのところに来ていた。
「ミア。状態異常かかった?」
「……かかるわけないでしょ。私呪い師なのに。オルフは貴方の差し金?」
「ははっ、そうだな。かかったふりでもしておくといい。オルフは状態異常の確認が出来ないんだ。……慣れないことするから」




