2-5
「余りもの同士僕と行くか?」
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「はあ……わたしももっと手を抜いて良かったですねえ」
「仕方ないだろ!これが僕の持ってる1番いい服なんだ」
クレアは化粧もしっかり決め上等なドレスを着ていた。前から思っていた通り、見た目を整えると大変見栄えがする。
「というかそれ男物じゃないですか」
「妹が勝手に買ってきたんだ」
なんて口論をしながらパーティー会場に入った。
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「壁の花か」
とりあえず審査員としての顔合わせは済ませたので僕はもうやることがなかった。
クレアはいろんな男性とダンスを踊っている。
さすが商人、コネ作りを忘れないらしい。
僕はダンスなんてやったことがないから静観する他ない。そもそもこういうところは昔馴染みとつるんでいるやつらが多い。学者の家系である僕には不利だ。そうか、これがあるから僕の友人達はここに来なかったんだな。なんて思っていると。
「……ん?」
トリシアが見たことのない女性にダンスに誘われている。
エルフ……か?
もう少し拡大するか……。
「?見たことがあるような気がするな」
「何してるのよ」
「うわぁ!」
いつの間にか後ろにミアが来ていた。王女様だからか、もしくは本人のセンスがいいのか、華やかなドレスを着ている。豊かな金髪とよく合っていて目立つ目立つ。
そういえばこのまま無視をすると失礼にあたるかと気づき、ゴーグルを外す。
「王女様が僕なんかに時間を割いててもいいのか?」
「こんなところでゴツイゴーグルをつけてる知り合いがいたら誰だって声をかけるでしょ。そんなことしてたら踊りにも誘われてないんじゃないの?」
「……。いやどうせ僕こういうのやったことないし」
「……誘われてないのね」
「うるさいなぁ。……!?あれもしかしてオルフか!?」
さっきのエルフをもう1回見ようとゴーグルをつけ直す。
「なに?なんなの!?」
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「へえ、なるほど。我ながらいい仕事してるじゃない」
「どういう仕組みなんだこれは……相変わらず呪いというものはよく分からないな」
もともと女みたいなやつではあったが、本当に女になっている。骨格にもそれなりに知見がある方なので、判断に自信はある。上等な白いドレスを身にまとっていて、静謐で周囲とは隔絶した美しさがある。そこだけ空気が澄んでいるような、なんてな。我ながら柄にもないことを考えてしまった。さすがエルフ。美しさに定評のある種族は違うな。
「誰?」
「おお……声も高くなっている」
「当たり前じゃない……言うほど変わってる?」
「いやだから誰なの!?」
僕とミアが女になったオルフの周りをグルグル回っていると彼女に困惑した顔をされた。
「僕は……アンドレア・ナシェルだ。それなりに有名だと思うんだが聞き覚えはないか?」
「あのねえ、そっちじゃないでしょ」
……今僕の頭を叩いたな?
「おい、僕の頭脳にはどれだけの価値があると思っているんだ。損傷していたらどう責任をとる?」
「あーはいはい。軽くだから安心するといいわ。私はミア。リーシュの生まれ変わり。こっちはレイモンドよ」
「ちっ」
「舌打ちされた!?」
「ああ今のは忘れてくれ」
ミアは打てば響くように反応を返してくれて面白い。王女様だということも忘れてしまいそうだ。
オルフがこちらをじーっとこちらを見ている。
「覚えているか?」
一応聞いてみる。
「……。2人とも女の子になってる……?」
「そうだな」
僕に関しては問題なく性別を認識できたようだ。良かった。
「なんで男装してるの?」
「妹の趣味だ」
「なるほどね」
なにやら納得がいったように頷いた。
「ツェザール、あーと、ロイも呼んでくるか?」
「いやそれはいいよ。ボクはアイツ苦手なんだ」
なるほど?
少し疑問に思うが、隠したがりにはツェザールの正しさはあまり良いものに思えないだろう、と気にしないことにした。
「 ん?アンドリュー。ちょうど良かった。いっしょに踊らない?」
ライラと踊っていたらしいトリシアがやってきた。
この感じだとミアとはもう踊ったのか王女だから一緒に踊るのは遠慮しているのか。
「仕方ないなぁ」
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「……完璧じゃない」
「さっきと同じだったから覚えていただけだ」
「相変わらずガキらしくないヤツ……」
「うるさいなぁ」
僕は飛び級しているので実はミア達より1歳下なのだった。
1歳くらいでガキ扱いというのもおかしな話ではあるが、デジャブを覚える流れが少し楽しいのでいいとしよう。
「あ、そうだ。僕と踊るか?この曲も完璧に踊れるぞ。さっき見たからな」
「……1回だけよ」