2-1
「なあ?おかしくないか?なんで俺は男子用の制服を着ることが許可されてるんだ?」
部室に置いてある机を叩きながら訴える。
先日の戦いで服がボロボロになったので今は控えの服を着ている。親が最初に間違えて作ったアレだ。
制服は全てオーダーメイドなので作るのには時間がかかる。
一時的な許可を求めたのだ、僕は。
そしたらどうだ?一時的でなく卒業までずっと許可すると言ってくるではないか!
僕は転生者ではないので、異性の転生者は異性の服を着て良いという校則も満たしていない。
理事室でげんなりした後教室に行ったら、やっと決意したのかとか永遠にそのままでいいよなど、集まってきた友達に言われた。
気のせいかもしれないが若干ディスられているよなコレ。もし僕が転生者だとしても、それを上手く隠せてないってことだろ?
「なんていうか……似合ってるわね思った以上に……」
ミアが僕を下から上まで眺めて感嘆したように言う。
「は?」
僕はその言葉に思わず困惑の声を上げる。
そりゃ妹に髪は切りそろえてもらったしそれなりの見目にはなっているはずだ。だが似合ってる?大して変わらないだろ。
「アンドリュー、一人称が崩れてるよ」
ツェザールが耳元で囁く。
「ああ、ありがとう……今耳元で囁く必要あった?」
「君bl営業をやってみる気はないか?女の子にキャーキャー言われること間違いなしだぞ」
「は?」
何を言っているのか全く分からない。コイツが言うからには正しいんだろうが、腹の立つことを言われている気がする。
「こうして見ると結構顔整ってますねえ。スラッとした好青年になりかけの少年って感じです、腹立ちますねえ……」
「お前に言われたくない」
おそらく見た目を整えたら相当な美女になるんじゃないのか。化粧をして髪を結わえてそれ相応の服を着れば目立つ美女に……なんて演劇でよく見るあれだ。そう思うと悪くないな。実際のところはどうして冴えない格好をしているのかよく分からないが。
「似合うから……っていうのは置いておいて、おそらく転生者だと思ったんでしょうねえ、理事長がアナタに許可したのは」
クレアが淡々と続けて言う。
「ああ、やっぱりそうか……」
どうやったら誤解が取れるのだろうか。この前事件を起こし、捕らえられたレイモンドは起こした宗教の信者達は僕を転生者だと言うだろうしなぁ。記憶とスキルを引き継いでいるだけで、僕は転生者ではないというのに。
「……」
なんとなく横をむくと、そこに偶然立っていたライラに目をそらされた。……なんで?
仕方が無いので黙っているトリシアの方をむく。
何やらワナワナ震えている。
「さすがに気持ち悪いか?……編入生以外の新入生の制服制作と重なったらしくしばらくかかるが我慢してk」
「すごい!似合ってる!カッコイイ!」
「うっ」
トリシアに勢いよく抱きつかれて呻く。
そして気がついたが、トリシアと僕はどうやら同じくらいの身長らしい。
いや、僕の方がちょっと低いか?
「……。ちょっと離れなさい!?」
ミアに引っ張られる。
「ま、待ってそこ引っ張られたら首が……」
…………。
「はあ……危ないところだった」
僕が騒いだおかげか解放されたので首をさする。
「さすがに私が悪かったわね」
「うん」
申し訳なさそうな顔でそう言われたので、雑な謝罪の言葉だが、僕は許すことにした。王族だしあんまり謝ってはいけないのかもしれない。
僕も自分の過ちを素直に認められる人間になりたいね。
▫
家に帰った。
「どうでした?皆さんの反応は」
「……?さして変わりはなかったと思う」
「そうですか?……私のお兄ちゃんは世界一カッコイイと思うんだけどな」
妹が首を傾げながら家の奥に進む。
「アンジェリーナさん。今日もありがとうございます」
リビングでは1人の女性が待っていた。
雇っている家政婦さんだ。お礼を言っておく。
住み込みではないので、僕が会うのは夜だけだ。
この広い屋敷を1人で管理しているすごい人である。
種族が違うらしく相当長生きなんだとか。
「……どうかしました?」
いつもはここで返事が返ってくるはずだ。
「い、いえ。……若い頃のお爺様に似てらっしゃいますね」
「え……」
嫌だ……。
僕が1人で愕然としていると、後ろからレイが指でつついてくる。振り向く。
「ふふ、お兄ちゃんはやっぱりカッコイイですね」
レイが前かがみになって僕に目を合わせてそんなことを言ってくる。
お兄ちゃんと呼ぶなと言いたいが、さすがにこの格好では咎めづらい。
「……。すぐ着替えてくる」
「少し照れてますね?可愛い」
「照れてない」
本当に照れてはない。
この場合どうやって答えるのが正解なのか僕には分からないままだ。
頬を指でつつかれる。
妹の方が僕より断然背が高いので威圧感がある。
いくらかがんでいたとしても、だ。
「そうだお兄ちゃん!これ着てください!」
「……嫌だ」