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「つまり?」
体調の悪そうなライラから一旦離れて、ライラが言ってくれた考えを踏まえながら考え直す。
「正義スキルを持っていて、さらに選別するんだーふーん。じゃあさ、対ってことで不義ってことでどう?両方持ってて正気な人間なんていなさそうだし、さ?」
オルフが少しイタズラっぽくニンマリ笑いながら言った。
で、そのスキルをトリシアが持っていると。正義スキルの方を持っているツェザールがトリシアによく分からない執着を見せている理由としては実に正しそうだ。
「まあそんな感じだよな、多分。効果は……トリシアを見る限り、ステータス自体の破壊っぽいけど。それともシステムの1部書き換えか?一応ダメージ被ダメージにも別個のシステムはあるのは確認済みだ、防御スキルを使用してる人を観測スキルで見れば簡単に数値を割り出せるぞ」
「前提条件が重くない?」
オルフが何やら言っているが聞かなかったことにした。
「だいたい内容が推測できてきたかな」
トリシアの性格も込みで考えれば、間違っている人間が間違っているままで成立できるスキルといったところか?
「次はキースがどうやってトリシアのスキルを破損させたかだが」
「アーノルドって闇魔法の使い手だったろ?」
今まで黙っていたツェザールが口を開く。
「……そうだったっけ?そうだったかも。うーん」
「なんで忘れてんのさ」
おっしゃる通り。
「じゃ、普通に隙作って闇魔法で破壊しただけか。全然スマートじゃないな……キースお前それでいいのか……」
全然トリシアのスキルを解き明かせていないじゃないか。あれか?スキルが無くなったトリシアと比較して効果を確認する感じか?
「……怒ったりしないの?だって、アンドリューが私を好きなのって」
ずっと聞いているだけだったトリシアが突然僕に聞いてくる。
「え?……あ、ああ。そうだな。許せないよなぁ!?」
そうだ、スキルが無くなるということはトリシアの強さが無くなるということだ。
トリシアを心配していたせいで忘れていたぜ。危ない危ない。
「そのためにも俺が頑張らないとな!」
「そうだねぇ」
ツェザールが笑いながら同調してくる。
よく見たら分かりやすく笑ってるのは珍しいな。
「そういえばロイとレイモンドってすっごく仲が良かったよね。私がちょっと嫉妬しちゃうくらい」
トリシアがそれを見てよく分からない顔をしながらそんなことを言った。
「ああ、そりゃあ僕達は親友だか、ら?」
あれ、トリシアは前世の記憶がないんじゃなかったのか?思わずツェザールを見る。
「……」
黙り込んでいる。
もしかしてトリシアは前世の情報という負荷をかけられて思い出したのか?
トリシアの持つスキルは前世を覚えているという事象そのものを消し飛ばす類のものだと思っていたんだが。僕のスキルを貫通してくるくらいだし。
まあもうすっかり元に戻ったが、調子がおかしかった時に僕の精神性は少し成長できた気がする。
「なあリリーロッテ。僕はお前に最後まで付き合うことはできなかったが……それでも許してくれるか?お前の冒険をずっと見ていた。僕はお前が歩む苦難をただ見て、楽しんでいた。それでも、僕は……」
お前の仲間の1人だったと思ってくれていたか?
そう聞こうとして、やめた。
それを僕が言うのは傲慢すぎる気がした。
「……許さないよ」
下を向いたままのトリシアが呟いた。
「そう、か。はは。まあ、当然だよな?僕はお前より保身を取ったんだから。いいぜ、僕はお前を恨んだりとかしないから」
ツェザールにつつかれる。
振り向くと焦ったような顔をしていた。
「それがアンディの優しさだと私は分かるけど、今それは逆効果だ!忘れたのか!?トリシアは1度この街を吹き飛ばしかけたんだ!」
「……確かに」
自分の聞きたいことを優先しすぎてしまった。
まず第一にトリシアを心配するべきだった。ただでさえメンタルが不安定なのに。
というか僕が無かったことにしたあの魔法、街を吹き飛ばせる規模のものだったのか……。
「僕が何言ってももう無理な気がするから、ザール頼むわ」
「分かったよ、全く」
やれやれという動作をして了承の意を伝えてくる。
そしてそのままトリシアを蹴り上げて気絶させた。
……なんとなくそんな気がしていたぜ。