9-16
スキル。いつの間にか人間が持つようになっていた魂に付随する魔法のような何か。
人間がそれを持つようになった理由が書いてあるので、それを読んでいく。
「……いやこれはダメだろ」
僕は見なかったことにして本を閉じた。
「なんて書いてあったの?」
トリシアが聞いてくる。
仕方ない答えるか。
「神の血が流れてるって……いやそんなわけないのでこの話は終わりだ。さっさとこの本は燃やそう」
「待て待て」
「止めるなザール!これは僕がやらなくちゃいけないことだ!」
「ちょっと笑ってるよ」
「……」
そんなまさか。
思わず顔を触る。
「ま、まあそういうことで、いろいろあって半神?とやらが魔法を使って人類を平等にしてやろうとスキルを全人類に1つずつ配布したらしい」
「へえ」
「そこでツエケァカワニっていう神が考えたらしい。神々の戦いで肉体を無くした者たちを人間の転生というシステムに乗せれば復活させられるんじゃないかと。この辺りは他の文献でも見たことあるな」
「うん」
「ただ、システムに乗せるともう誰が誰だか分からない。だから目印かつ神々の力として考案されたのが固有スキル。まあ結局上手くいかなくて僕とかザールが持つことになってしまったこれだ」
認識しない限り発動しない固定スキルと、常人では耐えられないくらい強力な正義スキル。どちらも人間では持て余す。
普通なら印として機能したんだろうな、普通ならな。ただ人間の数の多さと転生スパンの短さを舐めていた。だからたまたま所有できてしまう人間のところに辿り着いてしまった。
「効果は、僕は魂の不滅で、ザールはシンプルにレベル引き継ぎと肉体強化だと思っている」
トリシアが持っているスキルも固有スキルで間違いないと思う。そして本来想定されている所有者ではなさそうだ。
おそらく想定されている所有者がスキルを所持した場合、こんなにスキルで振り回されることにならない。実際どうなるかは僕も見たことがないので分からないが。
「正義スキルはどの神に対応したスキルだったんだろうな」
「私に聞かれても」
「でもこれ大事だろ。本当に対になるスキルだったらライバル関係だったとかそういうことじゃないの?」
そういえばトリシアはどうしてるんだ?そう思って辺りを見回すが、いない。どこに消えた。
いや、落ち着け。観測スキルで見えるからな。最近あまり使っていないから忘れていたぜ。いろいろあってちょっとバツが悪くてな。
ゴーグルを装着する。どうやら寝室に寝かされているライラのところにいるらしい。……ライラなんか大きくね?
「とりあえずライラにも話を聞いてみるか?」
「そうだね」
少し歩いたらすぐだ。寝室の扉を開ける。
さっきのは見間違いじゃなかったらしい。僕用のベッドでは小さいようで、足をはみ出した状態のライラが寝ている。
筋力から考えたら確かにこっちの方が自然か。
「アンドリュー」
「うん僕だ」
どうやら起きていたらしい。
というかいろいろ大きいなお前。もしかして腹筋も割れてる?割れてるだろうな。最低限しか鍛えてない僕と比べて真剣にやってるだろうしな。比べるのもおこがましいか。
「……なんか小さい」
「お前が大きくなったんだろうが!」
上半身だけ起き上がったライラが僕を見て少し嬉しそうにした後そう言った。
「トリシア、元に戻せそう?」
「……」
なんで皆僕にそんなに期待してくるんだ?
誰かが僕なら解決できると言ったんだよな多分。
オルフだろうか。
「分からないとしか言いようがない。それでライラに聞きたいことがあるんだけど……」
▫
ライラは話を聞いて、黙り込んでしまった。
真剣に何かを考えているようだ。
「前から思っていた。正義スキルってなんか……不完全じゃないか、と」
「ほう」
「アンドリューのスキルは初めて聞いたが、効果は推定魂の不滅。これは1つに纏まっている感じがする。逆にツェザールのスキルは正義を貫き通すために必要な能力を……ということだけど、メインの効果はレベル引き継ぎ。体力には補正がかかっているけどそれだけ。正直積み上がってきたから強さがあるけど、初動はそんなに強くない。おそらく固有スキルは本来の所有者が見つかった場合、その個人のシステムが止まるだろうことを考えると、完成されたスキルとは言えない。だって神々を復活させるためにやるのだろう?精神が神々なら肉体を不死にしても耐えられる。なのにまた転生させたら意味がない」
ライラが涼しげな表情のままそう言った。
……余裕が無いからいつもよりしゃべっているのか。
昔も三徹した後とかこんな感じだったな。
「だから、多分【対】になるスキルがある」
「!」
「2つ揃ってようやく成立するスキル。多分作った人?は相当慎重に考えている。名のある神用のものなのかもしれない。2つ揃わないと目印として機能しないんじゃないか。だから転生を繰り返す前提で作られている。必然的にそれは正義スキルを取得した後に発生するスキルであることを示している。そうじゃないと成り立たない。……ここまで完全にわたしの妄想だが一考の価値はあっただろうか」
少しだけ目を細めた。自信が無い時によくする動作だ。
「もちろん」