9-15
「正義スキルの対?」
「だってそうだろう。リリー……トリシアは僕の運命の人だった。私のスキルを破壊できたかもしれない人間だった。それは間違いない」
予言か。正直僕は全く信用できないと思っているが。
でもツェザールが言うんだからよっぽどよく当たる占い師だったんだろう、とそうも思っている。
「要は私と対等かそれ以上の何かを持った人間だったんだ」
「根拠にするには弱いね」
オルフが小首を傾げながら言った。相変わらず可愛くないと許されない挙動をするよなこいつ。いや別に好きにすればいいと思うけど。
「ここはザールが言ってるってことが大切だ。少なくとも僕は一考の価値ありだと思ってる」
「ふーん。まあなんの手がかりもないよりマシかな?」
「……前から思ってたけどお前僕に対してなんかちょっと辛辣じゃね?僕なんかした?」
「ベビーの時からの付き合いだし」
「ああ……」
とりあえず正義スキルの記載がある資料を探す。
有名なスキルなので僕みたいに所有者、つまり魂がどういう経路を辿ったか簡単に分かってしまう。
……僕と違って気味が悪いわけでは無いから捨てられたりとかはしない。スキルの都合上悪いことはできないと言うのもある。
「久しぶりだから、どの本に載ってたか……この辺りだったと思うが……」
うーん。
「あ、これじゃないかい」
上からツェザールに本を差し出される。
「ん」
受け取ってペラペラとめくっていく。
「え、なにこれ」
読んだことがない本だ。最近入ったのか?
内容は主に神話だ。
この辺りで信仰されている宗教の詳しい内容、1番最初の方だけを事細かく書いてある。何冊もあるうちのひとつ目といったところか。
大まかなところは変わらない。
世界を作った最初の神は自分を犠牲に、様々な物を作った。雨を振らす雲、太陽、生命の元、それから世界を統治する神々。
全て正しく行われ、その全てが上手くいった。ただ1つ問題があるとすれば、神の数を多くしすぎたこと。
当然のように争いが起こり、岩は溶け、地表は氷結し、せっかく育っていた生命は次々と死に、しかしそれにより驚くべき進化を遂げていくことになる。
1柱の神、これは有名で、好奇心が一際強かった。名はネーデフカイアと言った。自分達の寄与しないところでどんどん成長を遂げていく生命を見て、自分もそれに手を加えてみたくなったのだ。
最初に作ったのは足の速い砂の王、空高く飛ぶ空の王、1番大きい海の王。
これらはとてもよくできていて、他の神々からの評判も良かった。
そして、それを羨ましく思った1柱、ミセフサッグスが神々の力の一端である魔力のある生物を作り出した。これが魔物の始まりである。
これも評価はされたが、魔力を使ったためにそれを危惧するものも多かった。
ネーデフカイアは次の作品に取り掛かっていた。頭のいい生命体を作り出そうとしていたのだ。
海中で目の良い軟体生物を作り出したところ、これが大変な知能の高さを示し、それを足がかりとしていた。
そんな最中ミセフサッグスが作った作品群を見て、次の作品のアイデアを思いついた。
そう、人間だ。
神々に1番近い生命体としてデザインされたそれはネーデフカイアのお気に入りだった。
もちろん危険性は理解していたので、起動させることはなく他の神々に紹介した。
そのあまりの完成度に神々は驚嘆し、ネーデフカイアを称えた。そしてその作品を厳重に保管することを決めた。
しかしそれが気に食わなかったのがミセフサッグスだ。厳重に保管されていた人間を起動させてしまう。そしてまだ何も知らない我々の祖先に、自分が親であると言い、連れ出した。
何を思ったのかミセフサッグスは人間をこっそり繁殖させ、そして外の世界にばらまいた。
そして人間達は栄華を誇っていくことになる。
だいたいこんな感じだが、この本にはミセフサッグスのことについて詳細に書かれている。まあ多分この作者の解釈であって、それが正しいとは限らないが読んでみる。
ネーデフカイアの仕事はほとんど完璧と言っていいほどだったが、1つだけ足りないことがあった。それは高すぎる性能のそれを動かせなかったのだ。外側しか作れなかった。しかしそれで満足してしまったので、未完成のまま披露した。
それに怒ったのがミセフサッグスだった。完成させるつもりがないならと、自身が研究を引き継ぎ、魂という作成するのに高エネルギーが必要だが再利用可能な物質を作り出し、それを入れ込み、ようやく人間は完成した、と。
魂の存在に言及してあるな。……あとがきを見る。古い文献を参考にしているらしい。これはもしかして元々書いてあった記述ということか?前世で見た覚えはないが、まあ僕も教会所属だったしな、教会が偽書だとしたものはあまり読む機会もなかった。
人間を作り出したネーデフカイアを良いもの、魔物を作り出したミセフサッグスを悪いものと、分かりやすくするために消された箇所だったりするのだろうか。
めくっていく。
あった。スキル。