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オルフ

「エルフの森へようこそ」


 そう男のエルフが言った。

 そう、僕達は今エルフの森に来ていた。

 まあ理由は通り道だったからという単純な話なのだが。


「へえー。ねえ、ロイ。すごい綺麗なお姉さんだね」


 リリーロッテに話しかけられた。ルークに話すのは何となく気が引けるのは分かるが僕にか。もちろんいいけどね。というかそのエルフはお兄さんだよ。真っ白なワンピース風の服だけど、ちゃんとズボン履いてるし。このまま勘違いしているとどうなるのか気になるので曖昧に微笑んでおく。


「ボクが案内するね!」


 腕を後ろで組み、体を曲げてこちらに顔を寄せ、満面の笑みを浮かべている。


「まず名前を聞いても?」


 露骨にニヤついているリリーロッテを見る。可愛いものには目がないからなぁ。


「オルフだよ、よろしくね!みんなは?」


「僕はロイと言う」


 家名もあるが、エルフ式に則ってここは名乗らなくても良いだろう。


「よろしく」


 友好の印に握手でも、ということで手を差し出す。

 首を傾げられた。なるほど、エルフにはこういった習慣はないのか。

 気にしなくてもいいという意味も込めて照れくさそうに笑いつつ、手を引っ込めて指で頬をかく。すると、オルフと名乗るオルフも状況を理解したのかはにかんだ。


 何やら横から強い視線が。リリーロッテが抜け駆けはやめろという目で僕を見ている。

 ふふ。この反応を期待して最初に名乗ったのだ。


「ごほん。私は旅人のリリーロッテだよ、そこのいけ好かない騎士は私の旅についてきているんだ」


「いけ好かないって酷いなぁ」


「リリーロッテとロイだね!うん、覚えたよ。えーとこっちは……」


「……」


 ルーク。君自己紹介するのが面倒くさいからって僕に視線を向けるのはおかしくないかい?一応僕はリリーロッテのついでという流れになったはずだし、というか実際そうだ。


「ルークだよ、私の相棒!」


 良かった、リリーロッテが説明してくれた。



 ▫



「これで案内終わり!質問はあるかな?」


 オルフは僕達にこの森を隅々まで連れて行ってくれ、説明もしてくれた。

 質問ないの?


「はいじゃあ僕が」


「どうぞ!」


「こうして好意的に受けいれてくれてるのはなぜ?エルフは排他的で有名なのに」


「えーと。鋭すぎる質問だね……どうしよ」


 え。もしかしてなにか複雑な事情があるのか?道行くエルフ達も僕達に友好的だったし、そんなことはなさそうだと思ったから聞いたのだけど。


「実は最近族長が代わってね、ちょっと方針が変わったんだ」


 なるほど?


「なんてね!ホントは君達のことが気に入ったから招き入れたんだ。普通なら近づかせないよ」


 族長が代わったのもホントだけどね!と続けて言う。

 なるほど。それなら納得だ。ちょっと前に暴漢に襲われているエルフをリリーロッテが助けていたし、そのエルフがここに帰ってきていたらエルフの族長も気に入るのではないか。少なくとも好意的には見るだろう。


「……さっきから気になっていたが、その石はなんだ」


「えっ。な、なんにもないよ?」


 リリーロッテは物珍しさからか他のエルフに話しかけている。そのためか今まで黙っていたルークがさすがに堪え切れないと言った様子で指摘すると、オルフは明らかに怪しげな文字が描かれた石を後ろ手に隠した。

 うん。誰でも気になるよね。


「大したものじゃないし気にしなくていいと思うよ」


 この手の呪術は本体である石を破壊すればいいだけだ。今から石を叩き割れと言われれば全然やれる。なのでそんなに深く考えなくてもいいはずさ。実際どんな効果があるのかは僕には分からないけどね!そういえば今前衛の戦士×3なのか。搦手には弱いだろうなぁ。


「奴隷化の呪術が大したことないだと?」


 ああ、ルークは聖騎士だから多少は分かるのか。

 奴隷化ねぇ。そんなことをしてどうするんだ?少し気にかかるけど、僕が考えることでもなさそうなので、とりあえず気にしないことにした。


「え?うん。それ見たところ1人用だろ?オルフ、その呪術をリリーロッテに使ってみるといい」


「はあ!?」


 ルークが声を荒らげる。彼がここまで動揺しているのは僕と交戦した時以来だな。

 1人用、1人用か。最初は僕のこともチラチラ見ていたけど、今はリリーロッテに注目しているようだから、彼女に向けた呪術だろう。男装の女性だと伝えられていたのかな。ルークは女から1番遠い体格をしているからね。それで僕のことも一瞬疑ったと。まあ顔だけなら女でもいけるかな?どうかな?真面目に考えるならエルフはそこまで人間の区別がついていないのかもしれない。


「え、え?いや、ち、違うよ」


「いいからさ」


「えー、あれ?いいのかな?あれでもそんなわけ……」


 と言いながら、石を触る。これで発動するだろう。

 何らかのスキルも併用しているようだ。


 文字列が浮かぶ。その文字列がリリーロッテの元に向かっていく。そして、弾かれた。


「な!?」


「え、何があったの?」


 リリーロッテは呑気に振り返る。

 文字列が微妙に歪んで見える。多分文面を間違えているな。最初から。ははは。さては呪術はあんまり得意じゃないな?


 そして、弾かれた文字列がオルフのところに入る。


「っ」


 なるほど、表記ミスをすると自分に返ってくるのか。呪術っていうのは奥が深いなぁ。


「エルフの族長がリリーロッテの奴隷になったよ」


「……!……」


 ルークが僕をギョッとした顔で見たあと額に手を当て疲れたように首を振った。失礼な。



 ▫



「で、どうするリリーロッテ?石を破壊することは可能だけど」


 一応経緯を説明し、リリーロッテの判断を求める。


「私には何がなんだかさっぱり……」


「……いや、こいつはそのまま奴隷にしておくべきだろ。リリーロッテを奴隷にしようとしたやつだぞ?」


 ルークの目つきが鋭い。いつもは涼しげな表情をしているので、相当お怒りらしい。僕にはあまりぴんと来ないけど。


「ごめんなさい……なんでボクが族長だって分かったの?」


「え?……なんとなくかな」


 逆に合ってたんだという気持ちである。単純に他のエルフからの敬意の向けられ方とかオルフが話す族長の話を聞いていると、人に任せ切りでここに顔を出さないのはおかしくないか?とかそんな感じで。


「なんで私を奴隷にしようとしたのか聞いてもいい?」


「……。君はすごくいい子だから。君がいずれ辿る悲惨な運命をボクは知っている。それでも君は進むんだろ?だから奴隷にしてでも止めるべきなんじゃないかって思っていたんだ」


 しょんぼりしながらエルフの族長はそう話した。リリーロッテが悲惨な運命を辿る、か。あまり興味はないが、視界に入るルークの顔が曇っているので、なにか複雑な事情でもあるのかもしれない。例えば反乱に参加していたせいで国に追われている、とかどうかな?


「よし!じゃあ決まり!私の旅についてきて!それで私を守ってよ、それで恨みっこなし!」


 そうやってリリーロッテは悲惨な運命なんて感じさせない笑顔でオルフに言ったのだった。







「……ちなみにオルフは男だよ」


「え!!?!??」

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