9-10
「5つ目の問題っていつまでやるつもりよあいつは」
「目的が終わるまでループと見たねボクは!」
「はあ!?なんでこんなこと私達がしないといけないわけ!?」
「ボクに言うなよ」
さすがに業を煮やしたのかピリピリした雰囲気になってきている。
私は頭を抱えることしかできない。
クソ、キースのやつは一体何を考えている。
「アーノルドはなんか聞いてない?」
上目遣いでライラが聞いてくる。
背が低くて華奢で、それから何があってもほとんど変わらない表情のおかげで、人形にしか見えなかった。
「わた、いや俺は何も聞いてない」
「そう」
そう言って興味を失ったように目線を落とした。
何となく焦りが出てくる。このままでも別に俺に不利益があるわけじゃない、頭ではそう分かっているのに、目の前の少女の機嫌を取るように私の口は動く。
「……アンドレアと話しているのを少し聞いた。キースの目的はトリシアの所持するスキルの正体を突き止めることらしい」
見捨てられたくない。
「…………なんで?」
「えっ。……。いや、あいつのことなんて考えるだけ無駄だろ」
「……そうか」
「ま、待て。……キースは答えを出したがるんだ。あいつにとって1番大事なのは今気になっているかどうか、だ」
「……。ん。ありがと」
まじまじと観察するように見られた後、何か分かったのかお礼を言われた。
行動の対価をもらったのなんて久しぶりだ。ちょっとだけ嬉しい。
『トリシアは何か様子が変わったか?』
耳につけている通話機能のある魔道具からキースの声が聞こえる。
タイミングが良すぎる。今までずっと監視していたな。どこから見ているか分からず、悔し紛れに虚空を睨む。
「いや特には」
『そうか?もっとよーく見るといい』
そうだ、こいつは自分自身でトリシアの様子を見れるはずだ。別に私に聞く必要なんてどこにもない。
「トリシア、大丈夫か?隈が酷いが」
「え?ええー?大丈夫だよ?。それよりアーノルドが大丈夫?そんなに顔を青ざめて、何かに怯えているみたいだよ?」
別に隈は酷くない。いつも通りだ。しかし、カマかけとしては悪くない、と俺は思っている。
そしていつもとは違うデリカシーの欠ける物言いに、トリシアは確かに冷静さを少し失っているようだ、と確信した。
「ああ?……いや、青ざめてるのは前からだろ。俺は最初からこういう顔だ」
『もういい、様子がおかしいのは確認したな?くくっ。お前もトリシアには平静を取り戻して欲しいだろ?じゃあ話は簡単だ。いつも通り、日常通り?部活の構成メンバーと話させればいい。少しずつトリシアは【元に】戻っていくだろうさ。くははははははははは!』
キースはテンションがいきなり上がったように笑う。どう考えてもろくでもないことを考えているが、私にはどうすることもできない。
「……様子がおかしい」
ライラが首を傾げながら近づいてきた。
「……やっぱりそう思うよな?俺にはどうすればいいか分かんなくて」
「……ん」
ライラが頷いた。
「トリシア。1回寝た方がいい。大丈夫、トリシアはすぐ元に戻る。戻らなくてもわたしが戻す」
「いやいや、ホントにだいじょぶだって!そんなに心配しなくても……ぐっ」
トリシアが額を抑えている。
「全然大丈夫じゃないじゃない!早く寝なさい!ベッドはクレアにベッドメイクさせたから何時でも使えるわよ」
「む、させたって言い方はなんですか。私がやったんですけど?それも自主的に!私が、やったんですよー」
「え、え?皆どうしたの?私、元気だよ?」
ミアとクレアが言い合いになっている。
クレアもちょっと好戦的な性格だが、ミア自体いつも誰かと口論になっている気がする。こんな性格なのに新しい国の主だと認められていて、友人が多いのは、おかしく、ないな。やはりリーダーになるべきなのは気の強い人間なのかもしれない。
脱線した。現実逃避で今考える必要のないことを考えてしまった。
「ま、寝ていいんじゃない?別にトリシア役に立ってないしね」
オルフの番ということで、問題を解いている最中のオルフが少しイラついたように言った。
「ひっど!」
「事実だろ?酷いと思うならもちょっと役に立ってくれよー」
さすがに言いすぎたと思ったのか、媚びたようにボーイッシュな笑みを浮かべながらトリシアに茶化すような声色で似たようなことを復唱した。
ここまで見てきて分かったが単純、というか特別視されたいという願望が強そうなトリシアは、自分の都合のいいように捉えててそのままオルフの態度を見なかったことにした。
「うん。じゃあちょっと寝てくるね……」
……。
『準備はいいか?俺は大丈夫だ!聞いてない?そうだな!ごほん。……改めてまして。我が妹……アリア、準備はいいか』