9-7
「はあ……もうわたしがやる。クレアは寝ろ」
そう言ってライラがため息をつきながら問題を解いている。
「見せて」
「ん」
ライラはもう1問解けているらしい。中身を見せてもらうが、正直さっぱり分からない。
前回の問題はジャンルが様々で分かりにくかったが、何となく統一性があった気がした。今回もそんな感じはする。漠然とある違和感に首を傾げるが明確な答えは出ない。
「ま、まだ私はやれます……」
「寝なさい」
「そんな……ミアまでそんなことを言うんですか……」
珍しくしおらしい顔をしているクレアに思わず許してしまいそうになるが、ここは止めなくてはいけない。
「寝てない貴女じゃお荷物なのよ」
主のいないベッドに叩き込んで布団を被せる。
相当疲れていたのかすぐに寝た。
「寝かしてきたわ」
「ん。ありがと」
ライラも珍しく素直だ。相当難易度の高い問題と見える。
「難しい?」
「……?難しくはない。面倒なだけ」
そ、そうなんだ。
私はライラから逃げるように移動した。
「トリシア。これが前の問題よ」
「……。どうしたの?」
「いや……なんか統一性がある気がしない?」
トリシアが少しムッとした顔になった。見下していた私の方が分かっていることが多くてムカついたと言ったところだろうか。私のことを裏でめんどくさいだのなんだの言っていることは知っている。私の友人達は、私に皆忠実だから。それを否定するつもりはない。でも、私のことを言えないくらいトリシア自体も面倒な女だと思っている。
「第1問は歴史問題。この国の問題だけど、人気のない時代の話なのよね、初代皇帝が統一した時とか、遡ればこの国の1部を形成する南セスティアの王位継承争いとかは人気あるんだけど、今回は西の諸邦3つで小競り合いしてる時代で、問題は時系列の並び替えとそれぞれの参謀を務めた人物の名前。相当な歴史オタクじゃないとすぐ答えは出てこないわ。私は一応この国の王族だったからなんとなくの概要は知っているのだけど、さすがに人物名までは分からなかったわね……クレアはどうやって解いたのかしら」
「な、なになに!?え、そんなに難しい、は違う?よく分かんない?問題だったの!?」
「そうよ。それをあの、キースは貴女に解いて欲しかったと言っていたのよ」
よしいい傾向だ。
このまま私を尊敬するといいわ。
「……。第2問は数学だった」
ライラが欲しい本を見つけたのか、抱えながら歩いてきてそう言った。
「まあ中等教育でやるレベルではないが、解けない程じゃない。ここは図書館だ。公式をいくらでも見ていいんだから誰にだって解ける」
「……。高等教育レベルってことよ。誰にでも解けるわけないじゃない」
「そうか?特段新しい問題でもないし例題くらいなら教科書に載っているぞ」
古いとなんで誰にでも解けるようになるのかよく分からないが、そういうことらしい。
……ライラが急に饒舌になっている。もしかして数学が好きなのか。意外な一面を見た気がする。
「……わたしが好きなのは数学じゃなくて物理」
違うらしい。
なんで私の考えていることがバレたんだろう。
「分かりやすい」
笑って誤魔化す。
物理。聞いたことがある。この学校では教えられていないが、確か、魔法とは別の……数学?いや数字か。を使って世界を解き明かすとかなんとか。私はよく知らないけど。
「第3問は国語」
あ、ライラが本を抱えたまま向かいの椅子に座った。これ以上話す気はないらしい。
ライラは誠実だし責任感もあるが、ものぐさなのが玉に瑕だ。あとトリシアのことも狙ってるし。
「この国の代表的な文学を1部抜粋したものが出題されたわ。これはクレアとオルフが解いていたわね。原文は文字や文法も今と少し違ったらしいけど、きちんと現代語訳されていたわよ。原文だったらもっと大変だったかもね」
「……」
トリシアが考え込んでいる。
「どうしたの?」
「いや……」
「どんなことでもいいから言ってみて。貴女だけが頼りなのよ」
……ほら、露骨に嬉しそうな顔になった。やっぱりトリシアはめんどくさいやつだ。
「全部古い問題ってことしか私には思いつかないよ」
照れくさそうに笑いながら言うトリシアもいいが、私は今の言葉を聞いて目を見開くのだった。