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「むむむ。結構いい難易度ですね」
真面目に解いているクレアがペンを回しながらそう言った。
……キースが渡してきた問題は、なんというか普通に難易度を高くした定期試験みたいなものだった。
これはアンドレアがいなくて確かに正解だったかもしれない。本人自体は結構偏りのあるスペックをしているので解けないかもしれないが、伝手を使ってさっさと全部解いてしまいそうだ。
「ライラも問題見てくださいよ」
クレアがわたしに紙を見せながら言う。
「……」
首を振る。
別に資料を見たらいけないわけではない。ここは図書室だ。この難易度であっても解けそうな気はする。しかし、ここはわたしが解いてしまってはいけないだろう。トリシアに出された問題だぞ。
「そんなに難しくないしトリシアにやらせるべき」
「えっ」
クレアが驚いた顔をしている。
少し厳しいことを言ったか?でもトリシアのためになんでもやっていたら本人のためにならない。
「あのキースって人、知り合いなの?」
当のトリシアはオルフにキースのことを聞いていた。さっきガッツリキースに久しぶりって声をかけていたからか。全く、オルフは余計なことしかしない。
「うん?うん。知り合いだよ。多分転生者なんじゃない?ほら、記憶引き継げるってやつ。ボクも人間の学会に足を踏み入れてそこそこ経つからねー」
「そうなんだ?」
オルフが適当なことを言っている。
……転生者ではなさそうだったが。とはいえキースは人間だったはずで、あれはどう見ても若返っていたし、転生者だと考えるのは真っ当ではある。性別も変わっていたようだったが、それはオルフも同じなので今回は考えなくていい。ミアの腕が良かったということだ。
「……」
アーノルドをじっと見る。
「な、なんだよ」
「実際のところは?」
近づいて小声で聞くと、緊張したような面持ちになった。
「俺も聞いた話でしかないが、あいつは若返りの実験に成功したらしい。だからキース・ストレンジャー本人に間違いない」
アーノルドが小声で返してくる。
……。そう。
あのやることなすことめちゃくちゃなやつに常識を期待する方が間違いだったか。
なぜアーノルドの姉ということになっているかはよく分からないがまあいいとしよう。
「……」
問題を出した狙いが分からない。
こういう時ツェザールがいれば、キースの考えも分かったのだろうか。あいつはあれでいて結構鋭いところがある。狂人の考えも客観的に推測してくれたかもしれない。
▫
「解きましたよ!」
キースが映る画面の前で、ドンッと音が鳴るほど強く紙を叩きつけながらクレアが言った。
『ほう。……お前が解いたのか?あー。お前負けず嫌いだったもんなー。俺はトリシアに解いて欲しかったんだが、まあいいか。俺は他の奴らと違ってトリシア本人にして欲しいことがあるわけでもないしな。どれどれ』
画面の向こうのキースが、落ち着いた様子で解答を確認している。本当に狙いはなんなんだ?気になって仕方がない。
『よく解けてるな、偉いぞ。ただちょっと遊びが足りんなぁ。こんなんただのお遊びなんだからもっと楽しんでいいんだぞ?』
「……!」
クレアが怒りで震えている。そりゃそうだろう。徹夜して解いてたからな……。
『じゃ、次の問題な』
キースがクレアの怒りなんて全く気づいていない様子でにこりと笑ってそう言った。