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「2人もいないんだもんなー」
トリシアがそう言って、普段アンドレアが寝ているソファに寝転がった。
いないのはツェザールとアンドレアだ。
「デートしに行きましたからねぇ」
「アンドレアはデートじゃないって言ってたよ?」
ボクがそう言って首を傾げると、クレアの顔が固まった。興味深く思うが、理由はよく分からない。じっと見てよくよく観察する。それこそアンドレアがよくやってるみたいに。
やっぱり分からないので、にっこり笑って首を傾げた。こうするとだいたいどうにかなるんだよ。
「……ザールも多分あれは友情」
ほら、ライラが助け舟を出してくれた。
「ちょっと自信なさそうね」
「いや、自信はある……」
ミアが指摘するとライラがムッとしたようにぷいっと横を向いた。可愛い。ボクがしても可愛いかな?どうかな?
そんなこんなでわいわい話していると、扉が開いた。
アーノルドだ。久しぶり。
「……久しぶり」
ボクの心の声に反応するようにアーノルドがそう言った。
「どうしたの?」
「……こういうこと言うのもあれですが、どうやら俺のあに……いや姉がここに来たいと言っていまして」
「ふーん?なんでボクに?別に何時でも来ていいよ」
「なっ。……いや、この学園の生徒じゃないし部外者でしょう。顧問に相談するべきです」
そっか。そういえばボクってこの部活の顧問だっけ。
人のお金で研究して、たまに生徒に教えて、部活に来て……あ、これが先生か。なるほどねー。
「ま、何時でもいいのは本当さ。最悪のことがあったとしてもボクのクビが飛ぶだけだよ。文字通りね!ハハハ」
「は、はあ……」
ボクのブラックジョークはあまり面白くなかったらしい。顔がひきつっている。
ボクは一応戦争犯罪者なので、保護観察処分というか、まあちょっと違うんだけど、この国に貢献し、監視されることで許してもらっているところがある。拘束されるのは所詮人間だし、大した年数でもないだろうと、この立場を楽しんでいるが、下手をすればいつ処刑されてもおかしくないのだった。
「別に君に危害が及ぶわけじゃないし本当に気しなくていいのに〜。真面目だなぁ〜。学生って立場を有効活用しないと、ね?」
指を頬にあて顔を傾けながら満面の笑みを浮かべる。こうすればギャグで滑った後もなんとかなると、ボクは経験則から知っていた。
「は、はあ。そういうもんですか」
ほらこの通り。そうかな?そうかも。みたいな顔をしながら納得してくれたよ。ま、実際のところは何を考えているのかは分かんないんだけどね。
「それでお姉さんの名前は?どんな人なの?」
「名前は……キースって言います。どんな人か?……変人ですよ」
▫
「え、なにこれは」
次の日。
アーノルドが頭が痛いのか、額を抑えながら、何やら黒い箱を机に置いた。
「これは……最新の魔道具ですね。確か遠くの人とも話せる映写機のようなものだとか」
クレアが興味深そうに言う。クレアが詳しくなさそうということは、確かに新しいのかもだ。ボクには人間の技術、特に魔道具はどれもこれも新しいものに見えるし、前衛的すぎていろいろ追いつけないよ!
「ってことは高価なんだ?」
トリシアが目を見開いてクレアに聞く。
何が、ってことは、なのかはさっぱり分からないけど、こういう時は気にしないのが1番だ。きっと本人達にしか分からない以心伝心ってやつなんだろう。そうだよね?
「そうですね。作られる人が限られているので……」
「言いたいことは分かるぞ。没落した俺の家じゃこんなもん買えるはずがないってことだろ?いろいろあってな……」
と、アーノルドが遠い目をした。
映写機とやらのボタンを押す。
『よう!久しぶりだなお前ら!』
黒い箱から、自信に満ちた表情を浮かべた少女がこちらに顔を近づけて話しかけている。
後ろを見るが何も無い。これが映写機ってやつか。人間の魔道具はすごいなぁ。
「えーと、誰?」
『は?俺を忘れたのか!?酷いぞ!』
なーんか見たことがあるような気がする。
「……」
ライラは何か気がついたのか、形容しがたい顔で黙っている。
「もうちょっとで思い出せそうなんですよね……」
クレアも忘れているのか。人の顔は1度見たら忘れないタイプだと思っていたので意外だ。多分会ったのってそんなに前じゃないと思うよ。
ふふふ。そうなのだ。ボクは目の前のコイツが誰だか思い出したのだった。
「汝はキース・ストレンジャー!だよね?」
ボクが指を1本立てて前に出しそう言うと、キース・ストレンジャーは嬉しそうに笑った。