過去1
新しく仲間になったのは、教会から派遣された少年だった。いや、オレは仲間だと認めてないけど。
柔らかい白髪が特徴的だ。いつも不機嫌そうに目を細めていて、手足は細く、すらっと長い。
美少年かと言われるとそうでも無いが、賢そうで生真面目な清廉さがあり、それでいてどこか威圧感がある、不思議な魅力のある少年だった。
「リリーロッテの周りってそんなんばっか。はあ」
思わずため息をつきたくなるというものだ。
「リーシュ、今は忙しかったかな?」
「うわ、騎士様」
オレが1番目の敵にしている騎士様だ。
オレよりずっと背が高く、顔はまるで物語に出てくる王子様のように整っている。ついでに金髪碧眼でチャーミングな笑顔まで備えてるときた。
実際女にもモテる。
そうして自己犠牲の精神にも富んでいて間違ったことはしない。
はあ……。
「騎士様はそれで俺になんの用なわけ?」
「ほら、レイモンド」
「……。コイツが占い師ですか」
後ろから出てきたレイモンド……つまりさっきの少年が疑り深い目でオレのことを見てくる。
「はじめまして。私の名前はレイモンドです。貴方の噂はかねがね。どうぞお見知り置きを」
目をふせながら完璧な挨拶を述べる少年をオレも胡乱げに見る。
「ガキっぽくねー、ガキはもっとガキらしくしとけ」
「……呪い師らしい言葉ですね。そういうことは私以外に言うべきでしょうね」
困った顔をされた。
ついでに皮肉も言われた気がする。
ああ、子供らしくないな。
「ええ、そうですね……そういう言葉は自身を子供であると自覚できていない人間に言うべきでしょう……それは私ではありません、分かりますね?」
レイモンドは片目を瞑って言葉を選びながら、丁寧に口を開く。
まるで感情的に否定する俺が大人気ないみたいだ。
「うい」
「ありがとうございます。私はリリーロッテ様の監視のためこのパーティに参加をさせていただくことになりました。よろしくお願いします」
……。
「なあ知ってるか?」
かくかくしかじか。
「リリーロッテ様が女……?なるほど……」
オレがレイモンドにそう教えてあげると何かを考えるような素振りをした。
もっととりみだすと思っていたので拍子抜けだ。
「これからどうするつもり?」
「?本部に報告しますが」
「……」
顔を見ても相変わらず不機嫌そうな顔のままだ。
▫
「そっから黒猫のガキ……はあ」
どこにいたのかは知らないが、リリーロッテが拾ってきた黒猫獣人の少年はひどく可愛らしい顔をしていた。リリーロッテが回収しなければ消費されていたに違いない。何とは言わないが。
とにかくあざとく、敵視していた俺ですら絆されそうで少し良くない。
「……」
黙り込むレイモンドを見やる。
少し成長したレイモンドは人を惹きつけるであろう将来の片鱗を見せつつあった。俺が見ていることに気づいたのか、こちらをむく。
「あんまり気にしない方が良いですよ。貴方の呪術はやれることが多い、それに強い物も多くていいですよね。私も勉強してみたくなります」
……気づかってくれているらしいが、俺が悩んでいるのはそういうことではない。
最近分かってきたがコイツは宗教家に有るまじきことに最強厨らしい。はちゃめちゃに強いリリーロッテに憧れを抱いているんだと目を輝かせて言っていた。そういうところは子供らしいのな。俺の敵ではないようなので、ちょっとだけ気が抜けるような気もした。
「思ってたんだけどさ、リーシュって女性みたいだよね。もちろんいい意味で」
リリーロッテがやって来て言った。後ろにはルークがいる。またアイツ抜け駆けしやがったな!俺だってリリーロッテと2人きりで話したいのに。絶対許さねえ。1週間腹を壊す呪いでもかけておこうか。
ルークは体格がよく、それ相応に強いが寡黙で、結構姑息だ。俺と不戦協定を結んだはずだが、こうして抜け駆けをよくする。
「オシャレだし、よく気が利くし」
「そ、そう?」
「そうそう」
現金なことにすっかり機嫌が良くなってしまった俺は、ルークのことも許すことにした。ああ、悔しそうな顔をしているな。いい気味だ。
「……私は席を離れますね」
レイモンドがため息をつきながら席を立つ。
こういう駆け引きはつまらない、とロイと言っているのを見たことがある。もっと戦っている所を見せろとかなんとか。
「……手にある双眼鏡は置いていけ」
「……ちっ」
ルークがぼそりと声を出すと、レイモンドがまた席に着いた。
気の所為じゃなければ舌打ちしたな?
「どうした?」
「……リリーロッテの一挙手一投足全て目に焼き付けるのが私の使命なので」