9-2
「ねえねえ、そろそろ約束を果たして欲しいな!」
ツェザールが僕を見ながらにこやかにそう言った。
「ああ、お前の国に行くんだっけ……」
そういえば僕が暴れている状況でツェザールが関与しないことになった代わりに、そういう約束をしたんだった。
「でもお前バリバリ関与してたよな」
「えー?私がその気なら一撃でアンディを倒せたよ?」
「……」
それはそうだろうな。相性が悪い。
ツェザールの一撃で沈む僕が容易に想像がつく。ダサすぎる。
「何をしに行くんだ?」
「ん?」
何を今更?という顔だ。いや、外交とかいろいろあるだろ。
「観光にだよ。2人でね!」
珍しく機嫌の良さそうな笑みを浮かべながら、目の前のそいつはそう言った。
……。
「……は?」
▫
「ということで僕は明日から隣国に観光に行ってくる」
領事館の方にも伝えておいた。ツェザールのアホみたいな強さは有名らしく、同情されつつOKを出された。
オルフの方はもう約束は果たした……というか、物を渡すだけで良かったので、即日で気にしなくて良くなった。あれを何に使ったのは気になるところだが、もはや僕の預かり知るところではない。
「デートですか?」
「お前は馬鹿か?」
「そこまで言わなくても……」
おいおいと、泣くふりをするクレアを思わず半目で見る。
「なんかお前最近僕とツェザールで組ませようとしてないか?」
「そんなことは……ありませんよ?」
ありそうだな。適当にその辺でカップルを作らせてライバルを減らしていく作戦か?ライラとミアも2人によくしていると思ったら。実際のところ、くっつくかどうかはどうでもよく、傍から見てそうだったら十分なのだろう。油断も隙もないな。
「穿った目で見られるほど熱い友情か……それもありだな……」
ツェザールが調子のおかしい様子で額を抑えながら言った。ツェザールはたまに変になる。変になってもかっこよく決まっているのは、もうそういうもんだと僕も諦めがついてきた。
「ま、心配することはないよ。本当にただの観光だ。このタイミングでアンディを連れ出すことに意味がある……ってことだね!」
「何も分かんないけど」
トリシアはツェザールには少し辛辣だ。幼なじみだからかもしれない。
「あはははは、まあ見てなって」
座り気味の目でトリシアを見ながら、ツェザールは口だけで笑った。