9-1
そろそろ部屋を出たい?別にいいと思うが、なんで僕にそれを送ってきた?
キースから届いた手紙に首を捻る。
「どうしたんですかお兄ちゃん」
横に座っていたレイが聞いてくる。
今僕は領事館で暮らしているのだが、たまに、いや結構な頻度でこうしてレイが訪ねてくる。
「いや……友達が久しぶりに外に出たいという手紙を送ってきてな。研究が好きでずっと部屋にこもってるようなやつだから、理由は分かるんだが、何故それを僕に送ってくるかが分からないんだ」
キース・ストレンジャーから届いた手紙だということは伏せつつ、ほとんどの情報をレイに話す。
「それは……お兄ちゃんのことを1番信頼できる友人だと思っているからでは?大きい決断をする時は、身近な誰かに話したくなるものです!」
ふふん、という顔でレイがそう言った。
レイは案外ロマンチストなところがあるからな。とはいえ、一考の余地ありの考え方ではある。一応記憶に留めておこう。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。この前の休日は海獣のステーキを食べたんですよね?それも大型の!美味しかったですか!?」
レイが目をキラキラさせて聞いてくる。レイは珍しい物が大好きだからなぁ。ぶっちゃけ僕が懐かれているのもそれが理由だろう。出会った時からこうだからな。まあ僕以上に珍しいお兄ちゃんはなかなかいなかろう。
「味はそんなに美味しくなかったな。やっぱりレイが作ってくれないと」
「ええー、お兄ちゃんは褒めるのが上手いですね!」
露骨に機嫌が良くなった。
最近料理に凝っているらしい。
僕が後ろ盾を得たのもあって、僕の研究は学会で認めざるを得ない状況になった。そのため、僕の研究成果だったレイも、外に出られるようになったのだった。あんなに苦労したのに、最終的にはあっさり解決して、僕も拍子抜けの気分だ。
……この国は血筋を重要視する。他国の人間であってもそれは同じらしい。おかげで女王の甥ということになった僕の立場はそれはそれは高くなった。解せない。
ほとんどスパイのような僕が、こうして領事館に務められるのもそのおかげではあるんだがな。
「今日の夕ご飯はクラーケンの串焼きです」
「おおー」
どこから手に入れたんだろうか。
というか海獣を食べたということで、対抗してきたな?クラーケンも海獣扱いだしな。大型という情報しかなければ、こうなるか。
かじりつく。うん。硬くておいしくないな!
というか緑色なんだが、一体味付けに何を入れたんだ。少しピリピリする。
「お兄ちゃんが幼少の頃いた国の香辛料です!どうです、お口に合いました?」
「……僕は食べたことなかったけど、うん、美味しかったよ」
「そうですか!良かったです!!」
レイが嬉しそうで僕も嬉しいよ。
硬い串焼きに被りつきながらそう思った。
▫
「なんか腹筋がしっかり割れてきたな……」
鏡を見ながらため息をつく。
鈍らないように鍛えてはいるが、そこまで本腰を入れているわけでもない。元々筋肉がつきやすい体質っていうのはあるだろうが、これはやはり魔女が僕を改造していた後遺症か?
手足も脂肪がついている感じはしない。ミアは僕を羨ましがるが、僕はミアがちょっと羨ましいぞ。
魔女は僕が殺した。
理由は特にない。魔女が僕に興奮剤か何か知らないが、薬を打ち込んだことがあって、その時の僕は魔女をずっと殴り続けて嬲り続けて、尊厳を破壊する勢いで彼女を冒涜していた記憶がある。
その経験に味を占めたのか、魔女は僕にずっとそう振る舞うように求めてそれで……頭が痛い。