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7-13

「ただいまー」


「ただいまじゃないわよ!!!何事も無かったように帰って来れる、普通?厚かましすぎない?」


 部室に入ってそうそうミアに怒りの言葉をぶつけられた。

 そうだね、でもアーノルドもここにいるしいいじゃないか。彼?が無事かどうかだけは気がかりだった。


「クレアは?」


 飛行機に乗って最速で帰ったはずの僕より何故か先にいるツェザールに向かって聞く。

 こいつのことだから走って帰ったんだろう。……一応海挟んでるんだけどなぁ。


「ああ、あとから来るって」


「そうなんだ」


 聞いてなんだがクレアが何をしていようが別にどうでも良かった。


「ああ、一応僕は女王様の婚約者候補のままなんでそこんとこよろしく」


 破棄したとはいえ、有力候補なのは変わっていない。

 僕と女王が婚約していたのを隠していたわけではなかったが、公に言っていたわけでもなかった。

 しかも、婚約は前王が勝手に1人で進めていただけだったので、恥をかかせたという話にもならなかった。ということで僕は、結婚相手として有力な候補だったが、年齢を理由に1度辞退した、という扱いになったのだった。


 詐欺師呼ばわりが変わるわけではないが、魔女殺しの英雄であると公表されることになった僕の評判はそんなに悪いものでもなくなっているらしい。


「……え?」


「え?じゃないが?」


 困惑したようなトリシアに僕はため息をつく。


「あのなぁ、僕は常々……いや常々は言ってないか。いつもの言い回しで分かると思うが僕はトリシアに1人を選んで欲しいのさ。英雄は色を好む?ははは、英雄がハーレムなんてナンセンスだ。僕のトリシアには誠実でいてもらわないとな!はーはっはっは」


 これが僕だと思って諦めてもらおう。セツコ様に頼られる日々は僕にとって他で得がたいものであり……不誠実なヒロインに振り回されるよりずっと素晴らしいものだ。ま、あまり理解はされない考え方かもしれないがね。


「……。キャラ変わった?」


 そんなことはない。この通り傲慢で調子が良くてそれでいて適当な嘘つき、それが僕だろう。向こうでの僕は女王様を誑かした希代の詐欺師だ。


「ん、んー?いやこんなもんじゃないかしら。この調子の良さがキングってあだ名の由来だし……」


「……」


 そうだったのか。

 ミアが話す衝撃的な新事実に目を瞬かせつつトリシアに笑いかける。


「トリシア。選択肢に迷ったら僕を頼るといい」


「不安にしかならないよ!」


「僕だぞ?なんだかんだで無罪放免、立場を傘に何事も無かったかのように帰ってきた僕だぞ?」


「ええ……」


「割と何とかなりそうな気がするだろ!?さすが僕!!」


「あーこの話を聞く気が無い畳み掛けに懐かしすら感じるわね……」


 ミアのこの僕への解像度はいったいなんなのか。僕は君とそんなに関わりがあっただろうか。

 ミアの顔をまじまじと見る。そういえば入学して早々にこんな顔を見たような。

 演劇の良さについて熱く語っていたあの時の僕……友達はできたから結果オーライ。女の子の友達……いい響きだ……。


「調子が戻ってきて何よりだよ」


「ああ、ザール。お前も元気そうで何よりだ」


「この雑な感じ……いいね」


「は?」


 これもまたいつも通りのやり取りをしつつ、本当に帰ってきたのだなと辺りを見渡す。


「そーいやオルフはどうしたんだ?」


「さあねぇ」


 オルフが見当たらない。

 離れる前に気になることを言っていた。それを確認したいと思っていたのだが……いないのならば仕方がない。


「……結局アンドリューは私のどこが好きで私に何を求めていたのさ」


「……それをここで話せと?」


「私も散々巻き込まれたし聞く権利くらいはあると思うけど?」


「……」


 なんの罰ゲームかな。


「僕は……トリシアの強いところが好きだよ。ああ、もちろん物理的にね。性格の話じゃないから」


「……本当に私のこと好きなの?」


 トリシアが胡乱気な目をしている。


「もちろん。でないとあそこまでしないさ」


 というのは真実ではあるが本当のことを言っているとも言い難い。ついでではあるが僕はこの国でスパイ行為をしつつ今も条約を結ぼうとしているわけで。


「お前がどれだけ気持ち悪い性格で無責任なやつだったとしても僕は肯定してやる。僕はお前の強さ以外興味は無いからな!」


「サイテー」


 ミアになじられるがスルーする。ミアも本気では言っていなさそうだしいいだろう。


「僕がお前に何を求めていたかって、僕はトリシアに自信を持って欲しかったのさ。そんなに強いんだから誰かの下に着くことないよ。僕といっしょに世界を手に入れようぜ?」


 これは本当に本当だ。トリシアが世界を欲しいと言うならば僕は僕に持ちうるだけの力を貸そう。トリシアはその力だけ振るえばいい。僕が考える。

 まあフラれたけど。


「だから魔王ってことか……」


 トリシアがぼそりと呟いた。魔王?ああ、キースか。


「強さこそが1番の華だよなー」


「そうかなぁそうかも……」


「……。いいと思う」


 ライラが久々に口を開いたと思えば、何やらうんうんと頷いている。よく分からないが、嬉しそうなのでいいか。

 ……ミアに睨まれている気がする。そういえば怒らせたままだったな。


「ま、まあまあ。僕はフラれたからにはもう大人しくしてるさ、本当ホント本当にホント。それでミア、貿易に関する条約のことなんだけど───────」


「ああ……。もうほんっとうにめんどくさいやつね!!!」

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