7-9
「トリシア……お前は本当に懲りないな」
これで何回目だ?
僕もさすがに飽きてきて、肘置きに腕を置き頬杖をつく。
革命はミアが王となることで一応の決着がつきそうだと聞いている。おおいに結構。僕の目的は最初から侵略することではなく、上層部が一掃されて新しくなったあの国と条約を結ぶことだ。弱い今なら有利なものにできるかもしれない。そこまでは別にしなくていいけど。
「ミアが革命を終わらせた!貴方の目論見は外れたんだ!」
「え?あ、うん」
やったぜ。
1番ではないけど割といい感じに進んでいるようだ。僕が騙されていないかぎり。……僕を騙せる人間なんているのだろうか。
言ってしまえば僕が時間稼ぎをする必要もほぼ無くなったわけか。むしろ僕がここで倒された方が禍根が残らないかな?
「私はミアの配下としてここまで来たんだ」
……配下?
ああ、そうか。あの時来たミアは本物だったのか。
そうか。僕の言葉に怒ったままだったんだな。
失敗した。
失敗したなぁ……。……でも最悪ではない。ミアが無様に死ぬ確率はほぼゼロになったのだから。
それに美しいお姫様のために命を賭して戦う女騎士とは、なかなかどうしていいじゃないか。
っと、これが気持ち悪いんだったか。
「それでトリシアは僕にどうしてほしいのかな?」
「連れ帰る!」
「……はは、本当にそれでいいのか?僕に勝てないまま、何も知らないまま、僕がはいと言えばそれで終わり……そんな尻切れとんぼなエンディングで本当にいいの?」
まあトリシアが良くても僕が拒否するのだが。
こんなつまらないシナリオは僕が許さない。トリシアにふさわしくない。
「私はそれでいい!それでダメなのはアンドリューの方だ!」
「その通り。よく分かってきたじゃないか。トリシア。僕の望む通りに動いて貰うぞ。今度こそ月並みなバッドエンドは許さない。僕は同じ敗北を繰り返さない主義なのでね」
僕は固定されている。そして狂化している。もはや自分勝手にしか動けないのだ。悪いとは思わない。
「前回の私が失敗したとして、それでも私は自分で今度こそ成功を掴み取る、もちろん私の力でだよ!!与えられた成功なんて意味ない!」
ああ、かっこいい。かっこいいけど致命的に間違っている。何が間違っている?指摘するなら正しい答えを言う必要がある。そうする責任がある。
「……察しが悪いな。お前がどう思うかじゃなく。僕がお前を」
止まる。なんて言っていいか分からない。
「僕は……お前のことが好きだ。憧れなんだよ、ずっと前から。僕はお前になりたかった。でもなれるはずないんだ。じゃあ憧れたお前に不幸になって欲しくないというのは……いや違うな」
上手くいかない。上手い言葉が出ない。
「僕はトリシアの悲劇を許さない。お前がどう思おうが知ったことか!」
ああ、これだ。やっと言いたい言葉が見つかった。
大きい剣を取り出しトリシアの剣を薙ぎ払う。
トリシアはどんどん強くなっているが、僕も特定の相手と戦い続けると強くなっていく。差は埋まらないどころか増えていくのだ。僕のトリックを知ろうとしないからそうなる。
「【魔王が証明する】【宣告する】【お前は僕には勝てない】」
偽証が必要分溜まった。証明ができる。ああ、この時こそ僕は英雄の前で魔王になった。
大振りの剣は僕の手の中に。厳つい鎧を身にまとっている。玉座も禍々しく歪んだ。
「さて、【英雄】。君は私に勝てるかな?」