7-8
トリシアの敗走を見守りつつ、残ったツェザールを見やる。
「何故ここに?」
「言っただろ?友人としてだよ」
「はあ……お前は昔から本当に胡散臭いな」
でも嘘はついていない。そもそもつけない。
じゃあなぜ胡散臭いのかってそれは適当に行動するからだ。極論他人に興味がない。だからこそ正義スキルを使いこなせているのかもしれないが……。
「私たちは友達だよね?」
「俺は嘘つきなんだろ?」
「まあね、とはいえ言葉として聞きたいものさ、言うと言わないではだいぶ違うよ?」
白々しすぎる。その適当な言葉で何人勘違いさせてきた?
昔のお前は適当ながらもう少し誠実だった気がするぞ。
ため息をつく。
「俺は友達だと思ってる。得がたい親友だとも。これで満足か?」
「もちろんさ。その目を伏せて睨んでくる感じがグッドだね」
「は?」
▫
髪の毛を結んでくれる人が居なくなったことを悲しく思いつつ、髪を整える。
もう切ってしまおうかな、どうせ伸ばす意味もないのだし。と思いつつ、鏡を眺める。何回繰り返しても僕の顔は1番最初の時のそれに近づいていく。今回は混ざ物だからか、少し雰囲気も違う気がするけど。
どうせなら最初の僕がイケメンであって欲しかった。それならきっと今の僕もかっこいいのに。
「アンディは普通にイケメンの範疇だと思うけどねぇ」
「なんだそれは嫌みか?」
ツェザールが後ろに立っていた。少し怖い。
鏡越しに見るツェザールは相変わらず光り輝くようなイケメンだ。……パーティでも引っ張りだこだったしな。ああいうのを頭抜けた美形というのだろう。
詐欺師は見た目が大切だ。だから僕は見た目も少しだけ気を使う。僕にとって1番ふさわしい格好はなんだ?僕に合っている話し方は?行動は?
表情を調整する。できるだけ強くかっこよく見えるように。僕なら少しひねくれた偉そうな感じだろうか?
こういうところは僕が昔から中性的だと言われる所以だった。演劇好きは隠していたのもあるが。
「前から思っていたけど、君女顔なんだよね。私とは種類が違うよ」
「は?」
それなら苦労してないが。
なんだ体躯か?そうだな、なんならツェザールより体格いいんだよな僕。身長はもちろん全然違うが、こう厚さがな。正義スキルの影響か知らないが、ツェザールは筋肉はそんなにない。筋肉は繊維を傷つけることで膨張するからだろうか。
服で大きめに見せているだけだ。
対して僕はどうだ。最近めっきりまた最初の僕に近づいて、腕に脂肪らしきものは見当たらず、腹筋ははっきり見えるようになってきた気がする。
幸い引き締まってはいるが、細いのもあってギリギリ女物の服は着れる……と思う。自信がなくなってきた。
▫
「あれが、アンドリューの好きな人なのですか?」
「え?」
セツコ様が呟いた言葉に思わず耳を疑う。もしやトリシアを見られただろうか。
「ものすごい美男子でしたわ……」
あ、違った。ツェザールだった。彼は何があったか知らないが、今国賓ということになっていた。まあ絶賛革命真っ只中の国にいても危ないだけだしな、そういうこともあるだろう。
しかし何がどうしてそうなった?
「そうですわよね、アンドリューも体は女の子なんです、男の方がいいのですよね……」
ああ、あれか。前に怪しい性転換薬をセツコ様に飲ませようとしたからか。そんなんだったら苦労してないよ。
「ザー……ツェザールはただの友人ですよ」
「随分親しそうでしたが?」
「一応親友なので……あんまり言いたくないですが境遇も似ていましてね」
「境遇……もしやあの人は女!?」
似てるって言った部分とはちょっと違うけどそういうことにしておくか。ツェザールは本気でそう思っていそうだし。
「察しがいいですね」
「いや、アンドリューは分かります。どことなく中性的ですし……しかしあの人が、アメリカンマッチョって感じで歯を光らせていそうなあの人が」
「あーはい」
少しだけだけど顎割れてるしね。パッと見分かりにくいけど本人は結構気にしているらしい。
「こ、これは新境地……」
ああリリカ様ってそういえば女性が好きなんだったっけ。とりあえずツェザールはやめておけと言いたい。
「ザールはやめておいた方がいいと思いますよ」
言った。僕は言う時は言う。
「……。なんで?」
僕の顔をじーっと見たあと、呆けたような顔でそんなことを言った。
難しいな。
「アイツ人の心ないですから」
僕が言えることはそれだけだ。他にどう表現していいか分からない。
とはいえこれはある程度正しい。ツェザールはろくでもないやつだ。セツコ様に近づけるわけにはいかない。
トリシアは強いから近くにいるくらいなら大したことがないだろうと、僕はよく分かっている。ライラは心配性だ。
しかし結ばれるとなると話は別だ。あんなやつと僕のトリシアがエンディングを迎えるのは素直に嫌だ。
「あと僕と違ってモテますし」
倍率高いよ?