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7-6

「魅力的な嘘つき。それが貴方だよ」


 トリシアが確信を持ったように言う。

 この上なく正しいが、どうやってそこまでたどり着いたのか僕には分からなかった。


「貴方の本当の声を聞かせてよ」


「本当だって?俺の言うことは全て本当だ。多面的な人間の1面を見せているだけだ」


 僕は固定されてしばらくして、魔法操作は誰よりも優れていることに気がついた。そして、僕が誰よりも目立つ生徒であり、優秀な教師や生徒からいい意味でも悪い意味でも名前を覚えられていると知った。

 これが本当の僕の才能だったんだろうと思った。しかし、もう遅かった。僕は固定されていた。


 魔法操作は正直役に立たない。僕は魔力が多くないし、結局大した魔法は使えない。他の生徒の魔力を使えば誰よりも成果は出せたけどね。


 僕はどうやら印象に残る見た目と言動をしているらしかった。こんなものカリスマでもなんでもない。僕は相当数の人間に嫌われていた。

 勉強と魔法操作以外何もできないのが良くなかったかな。いや、性格だろうか。


 ひねくれている優秀な生徒。そして大きいグループを作って周りを見下していた女の親友にして、原理主義者であり危険思想の持ち主。

 それが僕に下された周りからの評価だった。

 実際間違ってはいなかった。


 そしてそのまま教授になって、そこそこの脅威を退ける大きな働きをして学内に僕の絵が飾られた。そんな感じだった。

 1回目の話だ。悪くない人生だった気がする。


「……」


 そして2回目。そう、僕はそこで終われなかった。妥協できなかった。だって【固定】されていたから。

 2回目の僕は剣の腕で有名な家の息子だった。長男ではあったが、別に継ぐのに性別の決まりはなかったため、姉が継ぐことになっていた。僕に剣の才能はなかったが、気楽だった。僕は1回目……と言っても記憶はなかったが、また大学教員として働いていた。今度は考古学だ。

 一つ過ちがあったとすれば、初代が探し当てたという財宝の数々を見るのが僕の楽しみで……そして特異的な魔法操作を必要とする万能の剣を見つけてしまったのだった。

 しかし分家の子供に見事にボコされた僕はそれをいいことに家から逃げた。


 そして勤めていた大学が事故でなくなり、食いっぱぐれた僕は過去最高と噂された炎の魔女に雇われることになり……何故か当時のレジェンド達のダンジョン攻略に付き合わされることになったのだった。

 楽しかったけどね。


「ま……俺の全てが分かるとは思っていない。最初から無理を吹っ掛けてお前が慌てふためく姿を見て楽しんでいたことを認めよう」


 3番目の僕は王の親友だった。

 王は強かったが、精神が弱く、王という立場はとてもじゃないが向いているとは言えなかった。しかしその母が向いていた。傀儡にされる親友を僕はなんとも言えない気持ちで見ていたものだ。


 そして学ぶことが大好きだった僕は親友であった王を巻き込み当時1番栄えていたらしいその国の優秀な学者達から教えを受け……そして王は世界に憧れた。


 周りは戦争中であり、とてもじゃないが他の国には行けなかった。その国の中でしか動けなかった王は考えた。そうだ、この国を広くしてしまえばいいのだ、と。内政は王の母に任せればいい。

 ……それが、その女の思惑通りだとも知らずに。

 そして僕達はその国をかつてないほどの大きさまで広げ、僕は侵略した先で呪いを受けた。僕はやがて、生まれ変わった先でこの国を滅ぼすのだと。


「ああ、でもセンチメンタルな感じだ……。俺は学ぶことが好きだった。ずっとだ、ずっとだぞ?俺にキース・ストレンジャーみたいな才能があったなら……いや、兄みたいにそれしか見えないだけでもいい。俺だって特別な人間になりたかった。そうなれれば俺は何時でも満足できたのに。そうだ、いつも俺はどこぞの端役みたいだ。主役は俺じゃない。俺が凶暴だからいけないのか?女みたいに会話が上手くないからだめなのか?なあ教えてくれよ」


 暗い劣等感。それが僕の本質だ。全てと言ってもいい。肌を不愉快に撫ぜるそれを、僕はずっと手放せないでいた。


 僕がいつも女にいいように使われるのは、使われたいと自分自身がどこかで思っていたからなんだろう。英雄譚が好きで、演劇が好きで、細かい装飾が好きで……そんな僕だから、結局は女性が作った物に惹かれてしまうんだろう。どう足掻いたってなれない癖に。


 僕はどうしようもないやつだ。自分でも正直分かりきれてない。

 長く生きしすぎたんだ。多面的な性格、それがふさわしい言葉だと思う。それを最初に言ったのは誰だったっけ?


「貴方は主役になりたいの?」


 トリシアは困惑した表情だ。残念ながら間違っている。少しため息をついた。

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