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「まあ僕はレイモンドさんとやらではありませんが……論文を認めていただけるのはやはり嬉しいですね」


「きっと思い出していないだけですよ」


 軽いノリでそのまま着いてきてしまった。思ったより立派な建物だが、ここはどこだ?


「宗教団体ということですが、教義はどんな感じなのですか」


「ええ、全ての人は皆平等であり、生まれも、環境も全て運で決まるというものです。平等であるからこそ全てに貴賎なく、相手も自身と同一なものと捉え思いやりましょうと仰られました」


 うーん、僕が言っていたものとほぼ変わらないな。それが何故爺様の言う悪い組織とやらになるのか、さっぱり分からない。若干過激な行動は見られるが。


 前世の僕は、生まれはそんなに悪くなかったのだが、僕自身に問題があったせいで捨てられた。そのため、孤児院で生活していた。いろいろあってその孤児院を燃やし、孤児院を運営していた宗教団体に所属するという名目で拘束されたわけだが……今とあんまり変わらないな。


 そのまま流れるように僕は宗教学者を志し、功績を次々とあげ、位階を上げていった。自分でも何故そんなことをするのかよく分からないまま。

 そして僕はリリーロッテに出会った。全てを“間違えていた”彼女に。


 どうしようもなく間違えているくせに、まるで自分が絶対正義のように振る舞う彼女は、生まれる前から間違っていた僕にはとてもかっこよく映った。

 だから僕も間違えることにした。絶対に間違っている彼女をヒーローであり、特別なものとして見ることにどうしようもない違和感があった。だけどその違和感が心地よくて、僕はそのまま放置してしまった。そしてリリーロッテは死んだ。当たり前だ。だって彼女は強いだけで、別に英雄じゃなかったのだから。

 結局僕は彼女の最後の戦いがかっこよかったという事実と、自身の考えの正しさの証明、両方を手に入れることができた。


 ああ、だから僕は自身の考えが全て正しいという確信を持って今まで世話になっていた宗教団体を出た。そして新たな教義と共に旅に出たのだ。希望に満ち溢れた旅路だった。後悔なんてあるはずがない。


「そりゃあ僕が言いそうなことだ。生まれ変わりって言うのも案外間違ってないのかも」


 そう言って僕は適当な笑みを浮かべた。



 ▫



「……お兄ちゃんがいません!」


 ここに来てから一日が経った。すごく快適だ。

 とはいえ、残してきた妹が心配なので鞄に入れていたゴーグルを装着して観測する。

 僕が帰って来ないことに気がついたらしい。

 ものすごく申し訳ない気分だ。


「1回妹に連絡をとってもいいですか?」


 近くにいた男性に話しかける。


「……何故ですか」


「いえ、伝えずに出てきてしまったので」


「……。…………少し考えさせてください」


 そう言っていなくなってしまった。

 部屋の中には僕1人だけ。


「……」


 失敗したな。僕は僕1人でもなんとかなる、そう思って出てきたし、それは間違いでは無いが、ポジショニングに失敗した。もう少し慎重になるべきだった。


 扉を開ける。


「どうされましたか」


 壁に1人もたれかかっている。さっきの男とは別だ。見張りか。


「いや、少し外に出たいと思いましてね」


「はあ……どちらに」


「どこでもいいじゃないですか、ねえ?」


 そう言いながらぶん殴る。いい感じに顔面に直撃した。生きてはいるが、気絶したらしい。倒れたまま動かない。さて、外に出るか。

 歩く。

 正直自分でも無計画で無謀なことをやっていると分かっている。しかし、もうどうすることもできない。だって僕はまだ15歳だし狂化しているのだから。なんて適当に言い訳をつけて自身の適当さに目を瞑る。


「な、見張りは……!?」


「ああ、ちょっと外に出たくて無理を言って出させてもらったんですよ」


「そ、そうですか?」


「ええ」


 困惑しながらも納得したらしい。懸命な判断だ。

 何食わぬ顔で歩いていく。

 観測を使いながら出口を探す。


 一日滞在して分かったことだが、どうやらこの集団は他国から来たらしい。その国の支援も受けているようで結構きな臭い。


 あった、出口だ。


「待て」


「なんでしょう」


 声をかけられたので後ろを振り返る。


「レイモンド様、ですよね……?」


「無理を言って外に出たいと……」


 最後まで言わせてくれよ。

 何らかのスキルを使われたらしい。僕は少し特殊なので問題なく無効化できるが、気持ちのいいものでは無い。臨戦態勢をとる。


「やはり、スキルが効かない……奇跡は間違っていなかったんだ!!」


 感極まったように涙ぐむ男に少し動揺する。


「き、奇跡?よく分かりませんが、ここを出させてもらいます!」


「まあ待ってくださいよ、妹さんの様子、見なくて良いんですか?」


 レイモンドもたしかに観測を扱うことができた。それを知っているのだろうか。言われるがままに妹を観測した。


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