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4婚約は断れませんでした。そんな気はしていました。


「僕と婚約してくれてありがとう」

「…………は?」


王太子様とのお茶会で、なんかしらんナチュラルに庭に誘われて二人きりになり、「あーやべー、なんかフラグの気配がするー!」と思って冷や汗をかいていたら、謎のお礼を言われた。


「で、殿下がなぜお礼を!?」


混乱して慌てる私に、王太子は苦笑しチラリと周囲を見渡した。護衛騎士と侍女たちが立っているが、小声なら聞こえないだろう距離だ。


「……私は、立場が弱いからね」

「え?」

「私の母は、もう天の国にいらっしゃるからね」


そういえば、先代王妃は数年前に亡くなっていた、と思い当たり、私は神妙な顔で王太子の顔を見た。


「僕は、隣国の王女である母と、父上のもとに生まれた第一王子で、何の微瑕もない正当な血筋だ。とは言え、ちょっと後ろ盾が弱いんだよ。……でも君の家が婚約者として後見を名乗り出てくれたおかげで、陛下は安心して僕を王太子に指名できたんだよ。だから、ありがとう」

「は、はぁ……」


てことは、立太子より前から婚約が調っていたのでは?

父上、私の希望通りに、素敵な王子様見つけてきたからねぇ〜とか言ってたくせに!


「そ、それは……ようございました……?」


何と言えば良いかわからず適当な返事をする私に、王太子はクスッと吹き出す。気さくな笑みで私を見て「うん、良かったよ」と目を細めた。


「君も、気性が荒そう……じゃなくて、気が強そうだって噂を聞いていたけれど、どうやら優しくて良い子みたいだし」


気性が荒いを気が強いって言い換えたな?どっちも貴族令嬢に対しては結構悪口だぞ?

内心でいろいろと葛藤しすぎて、微妙な表情になりつつも、私はとりあえず「ありがとうございます」と言った。御礼言っときゃいいだろ、たぶん。

全然王太子様に媚びもせず、おもねることもせず、ただ微妙な顔をしているだけの私を観察して、王太子様はなぜかしら楽しげに言った。


「君とは仲良くできそうだ」

「えっ!?」


驚愕の発言に脳内がクルクルとフル回転で空回る。

婚約しないと言うのは、どうやら政治的に無理そうだし、それなら王太子との仲は良い方がよい。嫌われるのは良くないフラグだろう。後々に敵認定されにくくなるたろうから。

そこまで考えて、どう返事するのが最適か迷い、そして。


「…………ありがとうございます」


とりあえず御礼を言った。やばいな。とりあえず「すみません」って言うパターンに似てる。私超日本人だな。


現実逃避気味に、私はそう思った。


動揺を隠せず、庭の花の蜜でも吸って落ち着こうかと辺りを回したところで、我が家の分家出身で馴染みの顔の近衛騎士と目があった。挙動不審な私を胡散臭そうに、というか、頭が痛そうな顔で眺めている。


「…………殿下、どうやらご令嬢は、お疲れのご様子です。テーブルに戻られて、ジュースでもお飲みになっては」

「おや、気付かなくて申し訳なかった。どうなさいますか?」

「い、頂きますわ」


あなた何やってるんですか、と言わんばかりの視線を騎士から浴びながら、私はそっと俯いて目を逸らす。危うかった、王太子の前で花をむしって蜜を吸うなんて暴挙に出なくて済んだ。狂人扱いされるところだった。


「ところで、君の兄上はたいそう優秀だと聞く。学園では同学年になるから、よろしく伝えておいてくれるかい?」

「あ、はい」


帰り際にサラリと告げられた一言に、学園の存在を思い出して憂鬱になる。

そっかー、学園かぁー、十四歳で入学だから意外ともうすぐなのかー。やばいな。


「では、また会える日を楽しみにしているよ」

「はい、私も楽しみにしております。それでは御前失礼いたしますわ」


心にもないことを言ってニッコリと淑女の微笑みを浮かべる。そして完璧なカーテシーを決めてみせた。

 ほぅ……

なんてため息がどこからともなく聞こえる。

 完璧令嬢の名は伊達じゃないらしい

とかって失礼な呟きも聞こえたけれど、聞かなかったことしてあげる。どうやら私の身内の安堵の声だったからね。


「では殿下、ご機嫌よう」


終わり良ければ全て良しって言うでしょ。最後だけ決めれば良いのよ!

ま、殿下は何とも言えない顔をしていたけどね。色々ダダ漏れした後だからなぁ、仕方ないよね。





「……にしても、わりと時間ないなぁ」


帰宅して自室で部屋着に着替えて、やっと一人になれたら、思わず呟きが漏れた。

あと二、三年でなんとかフラグを折っておかなきゃならないのか。でも何がフラグなのか全然分かんないんだよなぁ……。


「はぁああ……しんどー!!マジで創作者(かみさま)、私に設定盛りすぎっ!」


自室で枕に顔を押し付けて叫ぶ。叫んで解消するくらいしかストレス発散の方法がない。


「あーもー!」


とりあえずこの状況、悪役令嬢確定、……だよねぇ!?


セカンドライフ、多分かなりハードモードじゃん!

はぁ、つらッ!


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