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3久しぶりに会った叔父様が相変わらずイケオジ。でも歳が上すぎるから攻略キャラではない……よね?



「おや、久しぶりだね」

「叔父様!」


ここは侯爵家の厨房だ。

セカンドライフの勝利に向けて気焔をあげて、令嬢にあるまじきことに空に向かって拳を突き上げまくった私は、無駄き体力を消耗した。その結果空腹を覚え、お菓子を貰いにきていたところだ。


「お菓子をもらいにきたの?」

「はい!」


ティータイム以外に菓子を食べると太るからと侍女たちは嫌がるのだが、厨房まで行くと料理人たちは甘いもの好きな私にせっせと新作お菓子を披露してくれるのだ。そして、これを教えてくれたのが。


「また夕食前にお菓子を食べに来たのか、悪い子だねぇ」

「えへへー」


この目の前の、カール叔父様だ。

優しく微笑む叔父様はとってもカッコイイ。公爵家の一人娘と結婚して侯爵家から出たのだけれど、お子様が二人お生まれになった後で奥様と不仲になったとかで公爵家を追い出され、実家に戻ってきたのだ。

元義叔母上は気性が荒いというか、いろいろ随分激しい方らしく、烈女公爵とか呼ばれながら今もバリバリ働いているらしい。いくら実家が太いとはいえシングルマザーで社交界の頂点突っ走り続けるのすごいよね。つよい。


「叔父様は、いつ南からお帰りに?」

「あぁ、さっきだよ。お腹が減ってしまったから、裏から入って先に小腹を満たしていたところさ」


パチリと悪戯っぽいウインクをくれる叔父様は、私の十五歳上だ。けれど若々しいから、前世の私の感覚からすると従兄弟のお兄さんくらいの感じ。子供にとても優しい人で、いたいけな少女達の初恋泥棒である。ま、私の初恋相手ではないけどね!


「ねぇ、お土産は?」

「ははっ、もちろんあるよ。お菓子がたーくさん、ね」

「わぁい!」


甘くて優しい声で、内緒話のように耳打ちされて、私は頬を赤らめながら万歳した。これはマジで期待できる。甘党な叔父様のセンスは抜群なのだ。絶品グルメキタコレ!


「あとで子供部屋に持って行くから、皆で食べようね。じゃ、僕は兄さんに挨拶してくるから、また後で」

「はーい!」


元気よく手を挙げて、私は料理長がサラッと目の前に出してくれたお皿のマカロンに手を伸ばす。これも本当に最高。


「……おいしぃいいいっ」

「それはようございました」


にっこり笑った料理長は「けれどご夕食に差し障りますから、三個までですよ」と言ってもう二つくれた。神だ。


「はぁ〜それにしても、叔父様、相変わらずイケオジ……」


現代日本じゃまだオジって年齢じゃないけど、こっちの世界ではもうオジだ。イケオジ。いつも穏やかで優しいのに、どこか陰があって、ふと気づくといつも遠くを見つめている。誰も出戻りと非難したりはしないのだけれも、家に居たくないのか、侯爵家当主の父の代わりにあちらこちらを飛び回り、いつも家を空けている。





「ねぇ、叔父様は、どうしてそんなに出かけてばかりなの?」


以前、考えなしだった幼い私が聞いた時に、叔父様は困ったように笑って言った。


「……ここは、思い出が多すぎるからね」

「ふーん?それは、悪いことなの?」


その答えが、子供だった私には純粋に理解できなくて、そう尋ねた。すると叔父様は一瞬驚いたように目を見開いてから、ふっと笑った。


「そうだね。思い出があるのは、悪いことではないね」

「叔父様?泣かないで……?」


大人の男の人が泣くはずもないのに。

その時の叔父様があまりに儚げで、切なそうに眉を寄せていたから、私は慌てて駆け寄り叔父様に抱きついた。


「みんな、叔父様のことが大好きよ?」

「ふふ、ありがとう。優しいね、私の天使」


ちゅっ、と額に優しい口付けが落とされる。


「君がずっとずっと、幸せでありますように」

「ありがとう叔父様。叔父様も、ずっとずっと、幸せでありますように!」




とまぁ、そんな感じで私と叔父様は仲良しだ。なんでも叔父様が昔仲の良かったご友人と雰囲気が似てるとかで、きょうだいの中でも特に良くしてもらっている。主にお土産とかね!

まぁ叔父様と私は味覚が似ているってのも大きいと思うけど。うちの兄弟は甘党じゃないからなぁ。


「……あれ?そういえば、叔父様って恋人とかいらっしゃらないのかしら?出戻りとはいえわりと優良物件なのに」


コテンと首を傾げて私は思索の海に潜る。こらはちょいと検討が必要な議題ではないか?と。


「……そういえば」


少し前の会話を思い出す。




「叔父様、今度はいつまで王都にいらっしゃるの?」

「そうだねぇ、明後日までかな」

「また随分短いんですねぇ」


残念そうに言う私に、叔父様は困ったように笑って、目を細めた。


「……もう少し、思い出を思い出として想えるようになったら、ここに戻ってくるよ」

「え?」

「気にしないで。……私の心の問題だから」




今思えば、随分と思わせぶりな台詞ではないだろうか。


「まるで伏線みたいな……って、いやいや、ないない!」


嫌なことを思いついてしまって、私は慌てた頭を振って嫌な思考を払い落とす。

ないないない!ありえない!

だって私が悪役令嬢だとしたら、ヒロインも同じくらいでしょう?歳が十五歳も上のオジサンを狙うかぁ?いや狙わんだろ。狙わん……よね?え?


「いや、この世界の元ネタが乙女ゲームだとすると、プレイヤーはわりとイイ年齢のオタク……プレイヤー好みのキャラとしてイケオジ枠だった可能性も……?」


うげ、マジか。

何も考えずに仲良くしてしまっていたぞ、ヤバくない!?


思いついてしまった仮説に、私は頭を抱える。

兄も弟も確実に攻略対象な作画なのに、心の癒しな叔父様まで!?

そんな馬鹿な!誰得!?プレイヤーのニーズとか知らねぇよ!


「誰かには得かもしれないけど、私は大損なだけじゃんー!」


そんな恐ろしい展開じゃありませんように!

頼む神様!!!


家庭内に攻略対象粗製濫造するのマジ勘弁してー!!

まぁ今更だけどな!クソッ!

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