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(3)

物騒な目で口を開くロンに私は慌てた。


「えっ、そんな魔法や薬あるの?」

「いや、自分は知らないですけど」

「なによ!びっくりしたじゃない!」


そんなものがあって、それが使われたとしたら、トムは「断罪されるべき悪い子」になってしまうじゃないか。嫌だわ、多分違うわよ。あれは天性の人たらし、魔性なのよ!……余計に怖い気がしてくるけど!でも、友達が断罪されるのも嫌。


「ま、まぁなんにせよ、トムはものすごく人たらしだから、気をつけてね、ロン」

「はぁ。まぁ僕はそんなたらし込まれないと思いますけどね。大して目立つ人間じゃないので」

「そんなの分からないじゃない!」


まぁ確かに、ロンはモブ、せいぜいサブキャラだとは思うけど。

スペックは高いけど高すぎるほどじゃなくてそこそこだし。

でもね、モブだとしても主人公に魅了されたりするものよ。

そして悪役令嬢を破滅させるのに一役買ったりするのよ!

ロンに嫌われて、破滅させられるなんて絶対いや!


「ねぇ、ロン約束して」

「はい?」

「もしトムか私を選ぶ状況があれば、私を選んで」

「はぁ?どんな状況ですかそれ」

「いいから!可愛いマリアちゃまのお願いなのよ!?」


昔呼ばれていた微笑ましい呼び名を自ら名乗り、地団駄を踏めば、ロンは「こいつ何歳だよ」みたいな顔をしつつも頷いてくれた。


「分かりましたよ。命令以外はそうしますから」

「くっ」


命令以外か……仕方ない。ロンは軍人だからね、命令は絶対だから……。

悔しさに歯噛みしているとロンはへにゃりと崩れた顔で頬をポリポリとかいた。


「まったくもう…小さい時から我儘なのは治りませんねぇ」


何かとても可愛いものを見るような目で見つめられて、思わず目を逸らした。愛でる目じゃん。ドキドキしてしまった。


「…とにかく、お願いね!……トムを好きにならないでね!?」

「はいはい」


なんじゃそりゃ、って顔をしつつも頷いてくれたロンにホッとしつつ、私は内心苦笑いして首を傾げる。

なんでこんなにロンに懇願してるのか。

婚約者の王太子や兄弟たちはともかく、ロンがトムと懇意になっても、私に「実害」はないはずなのに。ただの執着か、それとも、かつて埋葬したはずの幼い恋心が、まだ燻っているのだろうか。


(……だめだめ、考えちゃダメ)


考えすぎるのはやめておこう。気づかない方が良いことというのも、世の中にはある。


とりあえずやるべきことは。


「もし殿下が、なにかおかしなご様子だったら、早めに教えてね?……例えば、私との婚姻を後悔してたり、とか」

「は?王位継承のためには、侯爵家との縁組は必須ですよ?そんな馬鹿な」

「だから、万が一よ!他に結婚したい人が現れるかもしれないし」

「あり得ません。マリア様より殿下にふさわしい女性は存在しませんね」

「ありがとう」


断言してくれるのはありがたい、けど、……トムは女性じゃないんだよなぁ!


「万が一、婚約を破棄されたりしたら私も大変だから、その時は穏便に破談に持って行きたいのよ。……私は絶対に殿下の敵じゃないわ。それだけは忘れないでね」


一緒になって断罪とかしないで。トムにそんなことされたらショックで死んじゃう。


「なんかよく分かりませんが、分かりました」


訝しげなロンが探るように私を見つめながら了承する。

トムが誰のルートを辿るのかわからないけれど……もしかしたらまさかのハーレムルートとかなのかもしれないけど!というかその気配が濃厚なんだけれども!


私の役割が悪役令嬢なのかお助けキャラなのか、はたまたモブなのか分からない以上、ヤバイフラグは立てないもしくは折るに限る。

そして、念のため起死回生フラグを立てておくのだ。


「フラグを……どうにかせねば……っ!」

「今日はいつにもまして謎なことばかり仰っいますねぇ。何をそんなに追い詰められてるんですか?」

「仕方ないじゃない!必死なのよ!」


だってこんなゲーム知らないもん!

だから予想と推測と、前世の乏しい知識で、必死に足掻くしかないのよ!

なんなのよこのゲーム!


どうせマイナーゲームなんだろうけど、製作者!

明らかに私一人に全ルートで何らかの役割果たさせようとしてるでしょ!?設定いろいろ手抜きすぎだよバーカ!


ギリギリと歯軋りしていたら、ロンが首を傾げて尋ねた。


「何と戦ってるんですか、マリア様」 


その言葉に、私はキッと顔を上げ、空に向かって中指を突き立てた。


「そりゃもちろん……この世界の創造者よ!」


見てろよ馬鹿野郎!


……この仕草の意味を、ロンが知らなくてよかった。

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