2続々とフラグが立ちます。助けてください。無理ですかそうですか。
「お父様!お話があるのですが!!」
「おお、我が天使マリアンナ!父にお帰りなさいのキスをしに来てくれてのか!?」
父侯爵の帰宅を待って書斎に突撃すれば、熱烈な歓迎をされてしまった。そして力強い腕によるハグと、厚めの唇による両頬への熱いベーゼをかまされた。思春期の娘に何をしやがるんだ。
「我が天使は今日も最高に可愛い!国一、いや世界一だ」
「おぉおおとぉさまお願いがあるのデスガ!」
あまりの熱いスキンシップに動揺しつつ私は必死に口を開いた。内心では
(そういや昨日までの私、めっちゃ思春期で反抗期だったもんな)
と思った。いやこの濃度で応対されてたらそりゃ避けるよね。
でもまぁ昨日までの私「父上なんてオジサンだもん!私レディーだからベタベタしないんですもん!」みたいな、ツンツンだったからなぁ。
私を溺愛してる父はよっぽど寂しかったのだろう。
帰宅を待ち構えて駆け込んできた私に、メロメロというか、デロデロだ。
「なんだい?何でも言いなさい」
「私の婚約のことなのですが!」
「あぁ、君の望み通り、父よりも立派で兄よりも綺麗で弟よりも可愛くて母より美しい婚約者を、父が見つけてあげるから大丈夫だよ?」
「ワタシそんなこと言いましたっけ!?」
あまりの言葉に動揺して私は顔に両手を当てて絶叫した。ムンクの叫びのポーズだ。この世界にはないだろうけれど。
「マリアは昔からそう言っていただろう?まったくもう、君は家族のことが大好きなんだからナァ♡」
「いや、その、」
「もうお話は通してあるからね。お相手とはもうすぐ会えるよ、そうだね、来週くらいかな?」
「あは…ははは………それはタノシミデス」
やべぇ、終わった。これ絶対王太子との婚約フラグじゃん。
「お疲れのところ、失礼しました……」
絶望感に打ちのめされた私は、途切れ途切れに呟いてからヨロヨロと部屋を出た。けれど部屋を出る直前、一つだけフラグ対応策を思いついて、父を振り返る。
「あの、父上、兄と弟の婚約なのですが……!」
「ふたりの?」
キョトンとした顔の父に、私は精一杯の淑女の微笑を浮かべて、心から告げた。
「私は二人とも、どうか自分の好きな相手と結ばれて欲しいと思っております。今後は我儘を言って邪魔したりはいたしませんので、どうか二人には意見を聞きつつ、素敵なお相手を見つけてあげて下さい」
ペコリ、と頭を下げて、私は目を丸くして固まっている父を放置して部屋を出た。とりあえず部屋に帰って頭を整理したい。
「なんって優しい子なんだマリアンナ!我が家の天使よ!!!」
背後で父が泣き崩れていた気配がしたけれど、放置してそのまま廊下を足早に去った。
あと、これは優しさではない。
完全に打算だ。
なぜなら、奴らは多分攻略対象だから!
私から主人公(及び兄弟)に対しての「私は二人の恋の邪魔はしませんよ」「私は敵じゃありませんよ」というメッセージなのだ。
「邪魔したり敵にならなきゃ、たぶん死なないでしょ!」
どんなシナリオだかさっぱり分からないから、とりあえずフラグになりそうなものは全て折っておこう…!
そのための布石第一弾なのだ。だが。
「絶対来週の王太子とのお茶会って奴、絶対婚約の顔合わせでしょ……着実にヤバイルート辿ってる……」
はぁ、とため息が漏れる。貴族として生まれ育ったからには、恋愛結婚なんて夢見てはいないけれど、それにしても死に向かう結婚はしたくない。
「とりあえず、可能ならば来週の王太子様との顔合わせで、婚約は断ろう……!」
そんなことができるのかは知らないが。とりあえず私は王太子様の敵じゃない、完全にあなたの幸福の味方ですよとアピールしよう。
「皆と仲良く!皆様の幸福のために!私は行動しますよ!」
拳を振り上げ月に叫ぶ。
「セカンドライフ、無事に生き抜くぞー!」