12すっごく嫌な予感がするのよ!トムが明らかに主人公なのよ!(1)
「やばい、なんかおかしい。絶対おかしい。でも何がどうおかしいのか分かんない!」
自宅の庭の隅で頭を抱えて叫ぶ。
休日だが、兄と弟と義弟は不在だ。王太子も入れて、皆で街に出掛けたらしい。トムの実家のパティスリーに行くんだとか。
いやもうすっかり仲良しだ。最初の頃は私がいつも間に入っていたのに。
いや私も誘われたが、女子学生向け講義の刺繍の課題が終わっていないからと言ってお断りした。
ちょっと頭を整理したかったのだ。
「ねぇどう思う!?ロン!」
「……いや、特に何も……仲良くて何よりじゃないですか?」
「もー!本当に素直でまっすぐで全てをあるがままに受け入れる男ね!可愛いやつ!」
「俺に可愛いとか言うマリア様、ほんと変わってますよね……」
呆れた顔で私を見下ろしているのは、我が家の傍系の子爵家出身で、今は王太子の護衛騎士をやっているロンだ。めっちゃ腕が立つらしくて、王太子にも信頼されている。
なんで現在、お出かけ中の王太子の側にいないかと言うと、来週末に王太子が我が家にご宿泊されるとかで、我が家の騎士たちと警備の打ち合わせをしていたのだ。
で、打ち合わせが終わったロンを、私は攫ってきたのだ。愚痴に付き合わせるために。
「皆で一緒にいたいってどういうことよ!私の立場は?」
「言葉通りに、誰か一人だけじゃなくて、皆さんと仲良くしたいってことでは?」
「そりゃそうだけど……ちょっと待って、どういうこと?」
「友達は沢山いた方が嬉しいし、順位をつけるものじゃなくないですか?マリア様が初めてのご友人に浮かれて、お友達の座ナンバーワンを目指したいのは分かりますが」
「いやちょっと待って。突っ込みたいところは多々あるけどストップ。……一人を選ぶんじゃなくて、みんなと平等に仲良くしたいってこと?」
「そりゃそうでしょう。友人関係なんてそういう物ですよ。マリア様はそんな唯一無二の友達以外いらない!て感じですか?」
「確かに……?いや、違うって。……そうか、そういうことか……」
「何を得心顔してるのか分かりませんが、納得なさったのならば何よりです」
「ロン、黙って」
ヤバイ。分かったぞ、違和感の正体。トムの言動と、現在のシチュエーションの既視感。
(これ……もしかして、ヒロインはトムなのでは?)
男だけど。
え、てことはまさか?
「……びぃえるげぇむ……?!」
「は?」
ロンの訝しげな声。ビビビッと天啓を受けた私は、パッと振り返ってロンの両腕を掴み、揺さぶった。
「ね、ねぇ!ロンから見て、トムってどんな人物?」
「は?急に何を」
目を丸くしたロンが慌てて私の手を外そうとする。主家の令嬢と触れ合うとか確かにヤバイな。すまん。とりあえず離すわ。
「トムをどう思う!?」
「いや、どうって」
「なんでも良いから!素直に!主観的に!」
「うーん、良い人だと思いますよ?……なんというか、綺麗な人ですよね」
「綺麗……」
思わぬワードにびっくりした。
トムのあの、なんというか、メインキャラにしてはインパクトに欠ける、特徴がない、ぶっちゃけ冴えない顔つきを見てなぜそう思う?
私とか兄上とか弟とか義弟とか王太子とか、超絶美形を見てきてるのに?
「貴族と違って、派手さや華やかさはないですけど、すっきりと余分なものがなくて、素直に『あぁ綺麗だな』って思うんですよね。顔もなんですけど、澄んだ雰囲気とか」
「雰囲気……?」
トムの雰囲気?トムは……特になんということもない……いや、そうだ。トムのそばは、いつも違和感がない。
ものすごく『普通』な空気が流れている。
だからつい寛いで、気を許してしまう。課題が大変だという弱音とかマナーが面倒だという本音とかをこぼしてしまうのはそのせいだ。
「侯爵家の皆さんとかは、やっぱり伝統とか責任とか、背負ってるものが違うからかですかね?
皆さん、華やかで圧倒されることもあるんですけど、それに対してトムさんは、一緒にいて気疲れすることもなくて癒されるというか。
皆さんのお話を聞いたり、たまにですけどお目にかかる範囲では、人柄も穏やかで優しくて、素直そうですね。
貴族ばかりの学院で大変な事も多いでしょうに、めげずにいつでも一生懸命な頑張りやさんみたいですし。
下心をもって殿下に近づいてきたのかと一瞬焦りましたけど、特に変な欲もなさそうで、野心で近づいてきた訳じゃないんだなぁと、今は陛下も『良い友達が出来たようだ、視野が広がるだろう』って見守ってらっしゃいますし」
「お、おぉ…」
寡黙なロンが、ヒロインの素晴らしさについて饒舌に語るモブみたいになってる!?
いや、ってか待って!陛下も公認なの!?
「王太子殿下や、侯爵家のご兄弟皆さんが惹かれるのも分かるなぁと思ってますよ」
「ふぁ!?」
いきなり核心をつかれた!?
やっと気づいた主人公です。




