7王太子サマ、攻略されてない?気のせい?
さて、入学して半年経ったところで、私は気がついた。
「……なんかおかしくない?」
いや、おかしい。明らかにおかしい。
「やぁ、トム。今日も元気そうだね」
「殿下もお元気そうで嬉しいです」
なぜかトムにものすごくフレンドリーに話しかける王太子殿。え、いつの間に?距離感おかしくない?近くない?物理的に。
「この間はありがとう。おかげで助かったよ」
柔らかな眼差しは、明らかな好意……愛おしみ的なアレを浮かべている。私みたいな元オタク喪女でも分かるレベルで。え、どうした?
特定の人物と関わるリスクを考えて、基本はみんなに平等に公平を心がけて、あまねく優しく穏やかにをモットーにしていたドン引きするほど慎重な人が、一体どうした?
「この間はありがとう」
「殿下のお役に立てたなら、凄く嬉しいです」
この間ってなんだ?ってかトムも本気で嬉しそうだな?つぶらなおめめがピカピカキラキラよ?
「君のおかげで新しい視点が持てたよ!私も気づかなかった問題点が沢山あったし」
熱く語っているが王太子よ、一体何の話題だったんだ?こいつ平民だぞ?何の意見聞いたの?それ外部の人間、しかも無関係の平民が聞いて良い話なの?大丈夫?なんか熱が篭りすぎて心配なんだけど。
「いえ、僕みたいな平民の意見を聞いて頂けるなんて感激です。ご不快にさせていたらどうしようかと思って、昨日は寝られませんでした」
えへへ!とチョッピリ舌を出して笑うトム。おいトム。お前、私といる時と若干キャラ違うことない?私達、親友じゃなかったの?あれは嘘だったの?酷くない?……いや待て、なんで私は面倒くさい女みたいなセリフを???
「いや、君は視野も広いし、先々のことまでよく考えていて、正直話していて驚いた。世界は広いね、まさか城下にこんな人物がいるとは。…将来、為政者として迷った時も、君の意見が聞けると良いのにね……」
「殿下……」
……殿下???ちょっと待ていろいろやばい発言来たぞコレ!?スカウトですか!?でもそれにしては言葉選びと声のトーンが変では……!?
あとトムもどうした!?声が切なさMAXだし瞳も潤んでない?それここでして良い顔なの?ねぇ私ここにいるよ?
「……あの、殿下?大丈夫ですか?」
忘れないでーいるのーアピールをすれば、ハッとした顔で王太子が私を見る。うん、忘れてただろ。
「ははっ、私は何を言ってるんだかね。マリアも元気そうだ」
「……ええ、殿下もご健勝そうで何よりですわ」
一応、婚約者の私には愛称呼びだけど、明らかにトムとの方が近い。というか何故かいつの間にかほぼ触れ合ってる。手と手が。肌と肌が。物理的に接近。いいの?王太子だよ?待てトム、王太子の袖を掴んではダメでしょ!不敬罪不敬罪!言わんけど!言ったらトムは平民だからガチで極刑とかありうるし言わないけどね!?
というか「平民に王太子へのマナーを説く」って明らかにヤバイフラグだから!
そんなフラグ絶対立てないけどね!?
名残惜しそうに去っていって王太子を見送り、私は隣のトムにポツリと告げた。
「……トム、いつの間にか殿下と仲良くなっていたのね」
「うん、マリアのおかげだよ?」
「え?」
どういう意味だ。私はトムと王太子を引き合わせたらしていないぞ?
「殿下に呼び止められて、マリアのことを聞かれたのが最初だから」
「……へぇ、そうなの?」
それは意外だわ。王太子、私自身にそこまで興味を持ってなさそうなのに。
「うん、『君はマリアと仲が良いのか?』って。ハイッて言ったら『仲良くしてやってくれ、私の婚約者のせいで、彼女は身分も相まってなかなか気軽に友達が作れないから。平民の君ならむしろ、気兼ねなく仲良く出来るかもしれない』って」
「……へぇー?」
あの王太子が?まじで?え、……ちょっと照れる。
「うん。……ふふ、愛されてるね、マリア。……ちょっと焦っちゃうな」
「え?」
いま何て言った?
「え、トム何て言った?」
「ううん、なんでもない!」
「なんでもなくないよね!?」
めっちゃ重大な発言したことない?なんらかのキーになる発言だったよね?私のセカンドライフのヒントが今っ!?!?
「私達、友達でしょ!?親友って言ってたよね!?」
「もちろん、僕らは親友だよ」
友人を束縛するやばい女子みたいな発言だと思いつつ、私とそんなに身長差のないトムに縋り付く。いま何か光が見えた気がしたんだけど!?
「ねぇ、トムってば!」
「心配しないで、マリア。君が恐れるようなことは何もないから」
そういう話をしてるんじゃないのだが!?誤魔化さずに答えてほしいだけなのだが!?というか恐ることって何なの恐れているのは破滅フラグだけですけど???
「トムぅううう!」
キィイイー!となっている私に、「マリア、落ち着いて」と、トムが困ったような微笑でトントンと肩を叩いた。
「僕はマリアが悲しむようなことはしないよ……だって、マリアは一番大事な、僕の友達だから」
キュン
「トム…!」
恥ずかしげに、けれどまっすぐ私を見つめて告げてくるトムにときめいた。恋愛感情ではないけど、でもキュンとした。なんだこいつ。嬉しいこと言ってくれるじゃないか。かわいいな。
そして私は、トムを追及することを忘れ、仲良くランチを食べに行き、いつも通り隣同士で授業を受け、「また明日〜」と帰宅し、……
……自室で寝台の天蓋を見ながら「ごまかされた!」と気づいた。
私は自分がチョロいタイプのキャラだと確信した。




