6フラグを折って折って折まくる!それが私の生きる道!
とりあえず、私に思いつく限りのフラグは潰して回った。
兄にも弟にも義弟にも、ほどよい距離感で接して、依存しすぎたり、のめり込んだりしないように心がける。
もちろん婚約者の王太子とも、適切な『友人』の距離感を保って親しくするように努めた。彼ら全員が私と仲が良好で、そして幸せであれば、きっと私は破滅することはない、はずだ。
私は彼らみんなに、何度も伝えた。
「殿下は私より一歳上なだけの、ほんの子供なのに、いつも民や国のことを考えていらっしゃいますね。凄いとは思います……けれど、悲しいとも思ってしまうのです。国を背負っていらっしゃる殿下には、甘えた考えだと思われるかもしれません。でも、あなたがきちんと幸せだと感じられるような未来がくることを願ってやまないのです」
「お兄様が、とても重い家名を背負っているのは分かります。尊敬もしておりますけれど、辛そうにも見えますわ。どうかお兄様にも、心を許し、支え合える相手が出来ることを心から祈っております」
「この家を継がないあなたは、何者かにならなければならないと焦っているかもしれない。でも、焦らなくてもいい。時間はたくさんある。それに、あなたが私の家族であることは変わらないのだから」
「平民だったのに、急にこんな貴族の家に入って大変よね。引き取られたこの家の役に立たなければと思っているかもしれないけれど、そんな必要はないの。この家はあなたの家だし、私達はあなたを愛している」
誠実に、真摯に、優しく、穏やかに、私は繰り返し彼らに語りかけた。
「自分の幸福というものを、どうか大切にして下さいね」
と。
ぶっちゃけ保身のためだったが、私はものすんごく理想的な、『良い子』の振る舞いをした。まるでなんかの小説のヒロインのごとき振る舞いだ。自画自賛したい。身内とは言え他人のためにひたすら行動し、心を砕きすぎて、ストレスで若干抜け毛が増えた。元の毛量が多いから平気だけど。
まぁ、その甲斐あって、わりと順調に生きている。周囲はみんな仲良しだ。ちなみに誰も私とのフラグは立っていない。婚約者の王太子ともだ。良きライバルかつ同僚って感じだ。なぜだ。
「……いや、面倒ごとに巻き込まれるよりは、良いんだけどさ」
兄は王太子と昔から面識があったものの、将来の義兄弟ってこともあり、魔法学院でますます仲良くなっているらしい。
あの堅物で神経質で過去の私と張る完璧主義な兄が、王太子に対しては「どこまでも高潔で美しいお方だよ、誠に仕えるに値する、素晴らしい主君だ」と心酔してるようだ。
王太子も、数少ない友人として兄とはいつも一緒にいるらしい。私も入れて三人でお茶会したりもする。二人が私の知らん学院での話を楽しそうにしてたりして、ちょっとどうなん?と思うが、まぁ仲良きことは美しきかな、だ。
不仲より百倍マシだ。
弟と義弟は、なんか同い年でライバル視し合っているから、ちょっと険悪だけど。それぞれ私のところに来ては相手の勉強の進捗だとか、剣術の試合の成果だとかを探りにくる。そしてまた「負けるもんか!」と燃えて帰っていくのだ。
私は伝言役?それとも調整役?謎な状況だが、でもまぁ彼らと私の関係は良好だしな。私と仲が良ければヨシ!
「……さて。あと私に出来るのはなんだ……!?」
特に魔王の出現とか古龍の復活とかのフラグはない。そんな伝説や故事はないから多分大丈夫だ。闇魔術とか失われた秘宝とかも聞かないし、聖女とかそういう謎の職業もない。国家滅亡級のイベントは、多分起きない。多分。
「大体ゲームだと、舞台は学院よねぇ」
入学式のためにポテポテと歩きながら、私はため息をつく。
聞こえてきたのだ。
「今年は、平民からの特待生が、なみいる高位貴族を押し退けて、首席入学したらしい」
という噂話が。
フラグが立った。完全に立った。やべぇ。
「とうとうヒロインのご登場じゃんこれぇ〜!」
私は覚悟を決めた。ヒロインに敵対しないように、細心の注意を払って生活していく覚悟だ。場合によっては土下座も辞さない。
「よし、頑張るぞワタシ!!」
けれど。
「……へ?」
私はポカンと口を開けて、壇上を見つめた。
「首席、トム・バイヤー」
「はい」
男じゃん。
しかもめっちゃ普通の。
挨拶の声は緊張しつつもしっかり堂々としている。美声ってほどじゃない。
ありきたりな茶髪に茶色い目。肌は普通に日焼けしていて、一応整ってはいるけれども風景に埋没しそうな、凡庸な目鼻立ち。もともと眼鏡をしてないから「眼鏡を外したら美形!」とかのオプションもない。
「えー???」
どゆこと?
この人も攻略対象?
なんか凄い隠された魅力とか唯一無二の魔力があるの?真の姿を隠していて、そのうち変身したりする?んな馬鹿なことある?
クラスでは隣の席だった。なぜなら私が次席入学だから。クラスの席は成績順なのだ。
「よろしくお願いします、マリアンナ様」
状況を読み切れず戸惑っていた私に、首席の平民は優しく笑いかけ、挨拶してくれた。
「……クラスメイトですから、様はいりませんわ」
令嬢ぶって返事をすれば「ありがとう、じゃあマリアンナさんね」と、人懐こくにっこりとした。
「ええ、よろしく、……ね、トムくん」
前世の学生時代を思い出して呼びかけると、トムは嬉しそうに笑う。よく笑う子だ。
(……こいつ、いいやつじゃん?)
なぜか確信して、私はニコニコとトムと笑い合った。なんだか妙に楽しくて仕方なかった。
気づけばどうやら私は、初対面でトムに攻略されていたらしい。
しばらく気づかなかったけど。




